第15話 ハーレム指南

「弟子にして下さい」


 12歳ぐらいの子供にそう言われた。

 なんの弟子だろう?

 戦闘のか。

 もしかして悪党のか。


「何のだ?」

「決まってるじゃないですか。ハーレムですよ」


 予想外の答えに俺は面食らった。


「俺はハーレムじゃない」

「どっからどう見てもハーレムですよ。師匠」

「勝手に弟子入りするな」


「成功体験を聞かせてもらうだけで良いんです」

「負けたよ。名前は?」

「パンサスです」

「何を聞きたい?」

「まず馴れ初めです」


「付き合っているわけじゃないが、まあ良いだろう。ベロニカと最初に会ったのは路地だったな。それで、死にそうだったから、回復魔法を掛けてやった。懐かれたわけだが、冒険者になりたいと言うので、諦めさせる為に酷い事を言った。そしたら、対戦で決着をつけるという事になった。で負けて嫌われた。」

「なるほど、それからどうしました」

「依頼で一緒になって危機を救ってやったら、前よりも懐かれた」


「ふむふむ、ダリアさんはどうです」

「ダリアは落ちこぼれでな。指導する為にボコボコにしてやったら、なぜか覚醒した。で、懐かれた」


「だいたい傾向が分かってきました。アザミさんはどうです」

「いきなり親の仇になってしまってな。敵討ちする為に無茶な討伐を繰り返した。それで、見てられないって感じで、討伐についていって、危機に助けた」


「危機に助けるというのが共通してますね」

「ダリアは違うだろ」

「いいえ、ダリアさんは落ちぼれで、そのままいったら、死んでたんじゃないですか」

「違わないな」


「命の危機を救うともれなくハーレムになる。師匠ほどのクズ男でそうなるんですから、僕だったらもっと上手くいくはずです」

「何気に失礼な奴だが、お前みたいな図太い男なら、振られてもショックを受けないのかもな」

「ええ、もう30人を超えて、振られています。ハーレム目指してますと言ったら逃げられました」


 こいつ、大物だな。


「よし、弟子認定しないが、秘訣を教えてやる。金だ。金は全てを解決する」

「それは愛がなさそうですね。僕は危機を救う方法が良いです」


「指導してやるよ。修練場に行こう」


 修練場で対峙した。


「お願いします」

「おう」


 ボコボコにしてやった。

 パンサスの目から闘志が消えている。


 いいサンドバッグだったんだがな。

 こんなのつまらん。


「お前には気合が足りない。背後にハーレムの女性を庇っているというイメージがないからそうなるんだ。イメージしろ」

「イメージしました」


 パンサスは剣を捨て、壁から盾を取った。


「ぐへへっ、お前を始末して後ろの女をぐちょんぐちょんにしてやるぜ」

「そんな事は僕が許さない」


 さあ、どれだけ耐えるかな。

 木剣で滅多打ちにした。


「うへへっ、穴という穴に突っ込んでピーをピーしてやる」

「あれっ、スキルが。【絶対防御】」


 ふう、覚醒したか、だが防御ならこちらは痛くない。


「おらおら、魔力が尽きるまで殴ってやるぜ」

「【盾撃】」


 盾で殴られて俺は吹っ飛んだ。

 くそう、こうなるのか。

 ハーレム目指すなんて脇役キャラだと思ったんだがな。


「師匠、大丈夫ですか」

「ごほっごほっ、平気だ」


 盾の表面には綿わたが入っているから、こんなので済んだ。

 不幸中の幸いだな。

 こいつはSランクにはなれないだろうが、Aランクぐらいはいけそうだ。


「これで女性を守れます。今夜からパトロールしようと思います」

「危機の女性を救えると良いな」


「はい、師匠」


 パンサスは笑顔で去って行った。

 俺は痛む体を庇いながら、ギルドの酒場に戻った。

 ステータスを見ると少しだけ悪行ポイントが入ってた。

 ボコボコにしたのは無駄じゃなかったんだな。

 こっちもやられたがな。


「パンサスという少年から、求婚されたわ。一生守ってやるですって」


 ベロニカが俺にそう言ってきた。


「あいつ、まったく恐れ知らずだな。分かっているが、どう答えた」

「間に合っているって答えたわ」


「俺は守ってなんかいないぞ」

「いつも危機に助太刀してくれるじゃない」

「まあそうだが」

「それが守っているって事よ。Sランクと肩を並べられる男なんてお父さん以外にいないわ」

「よしてくれ、買いかぶりだよ」


 パンサスよ、女性は追うと逃げるんだ。

 親しくなったら、一度距離を置いてみろ。

 そうアドバイスはしてやらない。

 ベロニカに粉掛けやがって、あいつなんか破門だ。

 弟子にしたわけじゃないが、破門だ。

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