第14話 奴隷商

「ムスカリさん、伝言が届いてます」


 受付嬢に呼び止められた。

 伝言をみると、グランドマスターの名前と肩書がある。

 王都に来いか。


 嫌だよ。

 行ったら帰って来れなくなりそうだ。

 それに人口の多い所は主人公体質の奴が多いだろうな。

 頻繁にボロボロにされる未来が見える。

 俺はそこそこに食っていければ良いんだ。

 金は荒稼ぎしているけども、これは主人公体質の奴と賭けをする時の賭け金だ。


 俺はギルドマスターの執務室のドアをノックした。


「入れ」

「おう」


 俺は挨拶もそこそこに伝言を見せた。


「召喚状ではないから、断れるが、断るのは不味い」

「そこをなんとか。ダンジョンの制覇も掛かっているし」

「ダンジョンはいま周辺を整備しているところだ。しばらく時間が掛かる。その間に行って来たらどうだ」

「嫌だ。帰れなくなる予感がある」

「いいかげん、子離れしたらどうだ。Sランクが3人いれば制覇は容易いだろう」

「俺はここが気に入っているんだ」


「ダンジョンが出来てこれから好景気だが、それを除けば何にもない所だぞ」

「ぬるま湯に浸かっていたいんだ」


「まるで激戦を経験して引退した冒険者だな。いまいくつだ?」

「25歳だが、それが何だ」

「25歳といえば血気盛んで突っ走る歳だぞ」

「嫌なんだ」


「そんなに嫌ならギルドを辞めるか。金はあるんだろ」

「そんな事してみろ。3人が、別の役職を勧めてくるに決まってる。そうでなければ結婚だ。ああ嫌だ」

「結婚の何が嫌なんだ。3人とも美人だろ」


「3人いるのが問題なんだ。血の雨が降るぞ。Sランクの本気の喧嘩なんか仲裁したくない」

「めんどくさい奴だ。仕方ない、仮病だな」


 俺は偽の診断書を書いた。

 適当に印章もつける。

 成功を疑ってはいない。

 卑劣な工作スキルが仕事するだろうからな。


 ストレスが溜まった気がする。

 何かして晴らさないと。

 よし、奴隷商をやっつけよう。

 違法奴隷の取り締まりはゆるい。


 なぜかというと必要悪だからだ。

 まともな奴隷商が扱うのは犯罪奴隷で、違法なのは借金奴隷だ。

 奴隷化のスキルは拒否する心が一かけらでもあると掛からない。

 さらわれて来た人間はまず無理だ。

 拷問しても駄目なのは実験で分かっている。


 犯罪奴隷は、拒否すれば、処刑が待っている。

 借金奴隷は、拒否すれば、鉱山に送られたりする・

 鉱山からは逃げ出せない。

 大抵が山の中にあるからだ。


 山に踏み込むと死ぬ。

 モンスターが徘徊する異世界ならではだ。


 それに借金から逃げると罪になってしまう。

 夜逃げは犯罪なのだ。

 逃げると犯罪奴隷一直線になる。


 借金奴隷はそう言った意味で必要悪だ。


 俺は覆面して幻影魔法を掛けて奴隷商に押し掛けた。

 護衛は痺れ薬でお寝んねだ。


「何をする」


 焦る奴隷商。


「奴隷共、虐待はされてないか」

「されてるに決まっているだろ」


 応える奴隷。


「腹もすかしているよな」

「ああ」

「奴隷商からの差し入れだ」


 俺はパンを檻の中に入れた。


「奴隷商、パンは金貨1枚だ」

「そんな無茶な」

「これに懲りたら虐待は辞めるんだな」

「躾だから仕方ないんだ」


「くくくっ、そんなだから駄目なんだ。ぬるいんだよ。弱みを握るんだ。人間、弱みの一つや二つある」

「あんた、奴隷の味方じゃないのか」

「俺は悪党だよ」


 俺は持って来た食料で奴隷商から、金品を巻き上げた。

 我ながら、血気盛んだと思うんだがな。

 枯れてるのかな。


 性病が怖いから娼婦を買ったりはしない。

 処女の借金奴隷なんぞ買ったら、3人がどんな行動に出るか分からない。

 その考えが血気盛んじゃないのかもな。


 そんな事を考えながらギルドに戻る。


「女の事を考えたでしょ」


 ベロニカにそう言われた。


「そうですね。ここにいる3人ではないようです」


 とダリア。


「有罪」


 とアザミ。

 お前ら、俺の下半身事情に口を出すな。

 そう言えたらどんなに良いか。


「家政婦を雇うか考えただけだ」


 下の世話限定のな。


「そんなの私達がやってあげる」

「大剣は針の役割はしないだろ」

「作り直せばいいわ」


 押し掛ける気が満々だな。


「良く考えたら家を借りてないな」

「じゃあ見に行かない」

「いいですね」

「吉日」


 くそう、外堀が埋められていく。


「掃除が面倒だからと始まった考えだが、良く考えたら今は宿暮らしで、必要がないな。ないったらない。師匠命令だ」


 不満気な3人。

 危なかった。

 危機一髪だ。

 口はわざわいのもとだな。

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