第13話 新たな悪事

 駆け出し共が変化した。

 用心深くなったのだ。

 俺の指導を受ける時は無一文で受ける。

 そして、指導を受けたら速攻で帰る。

 誰か一人が俺に捕まってもお構いなしだ。


 そして、街中では俺の出現ポイントを予測しているらしい。

 知恵を絞っているようで、成長が嬉しい。

 教官冥利には尽きるのだろうが、悪行ポイントが溜まらないと、3人のサポートが出来ない。

 切り札があると無いのでは大きな違いだ。


 最近、物乞いも見かけないし、困ったもんだ。

 何か新しい悪行を見つけないと。

 何が良いかな。


 くくっ、よい事を考えた。

 犯罪組織を強襲しよう。

 金品を強奪するのだ。


 俺だとばれるとお礼参りに来られるから、変装しないといけないな。

 この体はチートだ。

 何がチートかというとスキルではない。

 スキルは強い。

 だが他力本願的な所がある。

 本当のチートは初級魔法が全て使えるという事だ。


「初級幻影魔法」


 覆面して、初級幻影魔法を掛ければ、魔法を破られても問題ない。

 これで俺は別人だ。

 俺は用心深い。


 まず酒屋に行き酒を買う。

 犯罪組織に差し入れに持ってくのだ。

 もちろん痺れ薬を入れて。


「差し入れです」

「おう、酒か? 美味そうだな」


 『卑劣な工作』スキルがあるから、成功は間違いなしだ。

 頃合いを見計みはからって、ドアを蹴破り侵入。

 金品を強奪してやった。

 殺しはしない。

 末永く搾り取る。

 その方が効率が良いからだ。


 この街の犯罪組織は全てやってやった。

 2周目は1ヶ月後だ。

 毎月ボーナスが貰えると嬉しいな。


 犯罪組織はもれなく地下に潜ったらしい。

 だが、居場所なら情報屋を使えば問題ない。


 俺はいきなり殺気を向けられて、斬り掛かられた。

 お礼参りか。


 俺は刺客を蹴飛ばした。

 若い少年だ。

 だが油断はしない。

 若くともスキルがあるからだ。


「このヒモ野郎。ベロニカさんを解放しろ」


 はっ、もしかしてベロニカのファンか

 殺したら不味いな。

 こいつ、英雄って事はないよな。

 分からんぞ。

 いや、物語的にこういうキャラは脇役だろう。

 まあどっちでも良いや。


「修練場に来い。そこなら相手にしてやる。名前は?」

「ルーポー。僕が勝ったら、ベロニカさんに会わないと約束しろ」

「ああ、いいぜ。負けたら、俺からは会いに行かない」

「言ったな」


 修練場にルーポーと入る。

 木剣を取って構えた。

 ルーポーの構えを見る。

 握り方からしてなってない。

 あんなにきつく握ったら、自由に振れないだろう。


 さて、覚醒するのかな。


 俺は滅多打ちにしてやった。


「ぐっ、がはっ」


 伸びるルーポー。

 あれっ、覚醒しないのか。

 どうもね。

 脇役キャラの匂いがしたんだよ。

 俺の嗅覚もまんざらではないな。


 ルーポーの懐を漁って金を巻き上げる。

 彼をどうしようかと思っていたら、ベロニカがやって来た。


「見ない顔ね。冒険者?」

「ベロニカのファンらしいぞ。いきなり襲われた」

「ファンは多いから、いちいち覚えてないわ」


「はっ、負けたのか。ベロニカさん、俺が心配で駆けつけてくれたのですか?」

「あなた何?」

「ルーポーです」

「名前なんかどうでもいい。何様かって事よ。私の師匠を良くも襲ってくれたわね」

「こんなうだつの上がらない男が師匠。嘘だ。何か弱みを握っているんだ。僕が必ずあなたを解き放ってみせます」


 そう言うとルーポーは体を引きずりながら去って行った。


「色んな奴がいるな。ストーカーになったりしてな」

「怖い。守ってくれる?」


 しなを作って、妖艶に見せようとするベロニカ。


「Sランク冒険者様が何言ってるんだ」

「酷い。こんなにもか弱いのに」


「よし、これから賄賂を貰っているとの噂の役人に強襲を掛けるぞ」

「あなた悪党ね」

「愛想をかしたかいハニー」

「いいえ、ダーリン」


 幻影魔法を掛けて二人で役人宅に乗り込む。


「おお、たんまりあるな。やっぱり噂は本当だったか」

「それは俺の金だ」

「違うな。俺の金だ。また一か月後に来る。金を用意しとけよ」

「くそう」


 金を盗り、役人宅から引き上げる。


「悪事も楽しいわね。癖になりそう」

「とんだ盗賊勇者だ」

「賄賂を貰うのがいけないのよ。懲らしめるのは勇者の仕事だわ」


 もっとも、ゲームの勇者は勝手に人の家を漁って持って行ってしまう極悪人だがな。

 悪行ポイントも溜まったようだし、良い事づくめだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る