第10話 ゴブリンの洞窟
ストックとローズはこの街にまだいる。
ギルドで会っても何も言わない。
俺を無視する事に決めたようだ。
「ムスカリ教官、情報を買いませんか」
駆け出しが集団で俺に詰めかけてそう言ってきた。
こいつら、俺から金を巻き上げられているから、分捕るつもりだな。
でも、何となく情報が気になる。
「言ってみろ」
「前にゴブリンキングがいた洞窟ありますよね。あそこからゴブリンが出てくるんです。待ち伏せすると難なく稼げるんですよ」
むっ、あそこにゴブリンが巣を再び作ったのか。
待てよ。
こいつらなんで俺に情報を売るんだ。
ギルドに売れば良い。
そうでなければ、中堅の冒険者辺りに売ればだな。
俺に儲けの種を教える必要はない。
「何か隠しているだろ。吐け」
「やっぱり騙されないか。実は中堅冒険者に情報を売ったんです。そいつは洞窟に入って出て来ません」
「死んだな」
「これがばれると、ギルドからにらまれます」
「俺を弾避けに使おうって魂胆か。良いだろう。俺がその事実を発見した事にしてやる。お前ら、金を出せ」
「やっぱりこうなるか。斬り捨てごめん」
駆け出しが集団で襲って来る。
俺のレベルなら1流に手が掛かっている。
駆け出しなんかには負けない。
叩きのめしてやった。
そして、金を巻き上げる。
ただで弾避けになんかならないぜ。
さて、報告するにも現場を見てみないと。
俺はその洞窟を見に行った。
洞窟の入口には30匹ものゴブリンがいた。
これはキングが発生しているかも知れないな。
大事だな。
俺は帰り道、ゴブリンが好んで食う果実に下剤を塗った。
これでいくらか弱体化するだろう。
修練場にたむろしている駆け出しを俺は集めた。
「ゴブリンが弱っているから稼ぎ時だぞ。下痢止めか解毒剤を飲んでいくのを忘れるな」
駆け出しは駆け出して行った。
疑う事のない奴らだな。
騙されても知らないぞ。
今回は本当の事だが、嘘を言う事もあるからな。
俺はギルドマスターの執務室をノックした。
「入れ」
「ゴブリンキングが発生した。場所は前にベロニカと俺がやった洞窟だ」
俺は部屋に入ると挨拶もせずにいきなり切り出した。
「またか。ついこの間、退治したばかりじゃないか」
「俺の勘だとスタンピードが起こるような気がする」
「本当か?」
「洞窟の見張りにゴブリンが30匹。中に2千匹いても驚かない」
「そんなに広い洞窟じゃないぞ」
「拡張したんだろ。前の討伐の時も通路を拡張してた。削り易い岩だったと思う」
「潰しておけば良かったか。後の後悔だな」
「とりあえずSランクも3人いるし、Aランクのストックもいる。スタンピードを起こす前に潰せるだろう」
「不幸中の幸いだな」
報告を済ませたから、俺はせっせと洞窟周辺の果実に下剤を塗った。
駆け出しどもがゴブリンを狩っている現場には何度も出くわした。
腹を押さえている奴がいるな。
俺の言葉を信じなかったのだろう。
「どうした?」
分かってて、俺は素知らぬふりして聞いた。
「腹が」
「ここに下痢止めがある。銅貨20枚で良いぞ」
「くっ、相場の二倍じゃないか」
「嫌なら良いんだよ。いつ戦闘になるか分からないのに、何度もトイレは出来ないよな」
「下さい」
「まいど」
美味そうな果実があるからって食うからそういう事になる。
もっとも俺のスキルが掛かっているから、食ってしまうんだよな。
『卑劣な工作』はたぶん精神魔法の一種だな。
そんな気がする。
Side:魔族
今回、魔王様から下された任務は。
ゴブリンによるスタンピード。
「報告をしたまえ」
手下のゴブリンから報告を受ける。
「ぐぎゃぐぎゃぐぎゃが」
ふむ、ゴブリンキングが誕生したようだ。
魔石を加工した魔宝珠と食料が沢山入った収納箱を設置しておいたから、今頃はゴブリンの上位種で溢れている事だろう。
目玉に翼が生えた魔王様の使い魔に報告書を託す。
手下のゴブリンが糞を垂れ流しながら
汚いですね。
思わず魔法で焼き払いたい衝動を押さえながら、報告を聞く。
「ぐぎゃーぐぎゃっぐぅぎゃがが」
果実を食ったらこうなったと。
馬鹿なんですか。
1匹犠牲者が出たら辞める頭もないんですか。
ゴブリンに期待し過ぎですかね。
果実は食わないようにきつく命令しました。
命令したのに、また糞を垂れ流してゴブリンがやってきました。
赤子並みの頭しかないみたいですね。
問題の果実を持って来たようです。
実に美味そうです。
気がついたら食べてました。
「くっ、これは何かの毒かも。初級解毒魔法」
必ず食べてしまう精神魔法が掛かっていたようです。
果実を無駄に使わないように、食ったゴブリンは対象外になるようです。
罠に掛かったゴブリンが果実を食わなかったのが、その証拠でしょう。
巧妙です。
策士が敵にいるに違いありません。
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