第9話 仕事の催促

 俺は新人を虐めて、仕事終わりの一杯をギルドの酒場で楽しんでいた。

 3人ももちろん一緒だ。


「お父さんはもっと自分の功績を誇るべきよ」


 そうベロニカが強い口調で言った。


「ベロニカはお父さんと師匠と呼ぶ時があるよな。何でだ?」


 おれはそう言ってとりあえず誤魔化した。


「親しい人の場所ではお父さん。そうでない時は師匠」

「そういう使いわけか。これからは教官と呼ぶように、その代わり弟子認定してやる」


「生徒から一歩前進です」


 そうダリアが言った。


「元から弟子。何も進んでない」


 アザミが否定。


「私は娘なのは譲れない。妻にしてくれるなら、娘じゃなくても良いけど」

「お父さんと呼ぶのは心の中にだけにしとけ」

「うん。ところで功績の話は?」


 誤魔化されてくれなかったか。


「良いんだよ。『Sランクメイカー』の名前だけで十分だ」

「その才能をもっと活かすべきよ」

「そうですわ」

「賛成」


「悪事を働くのが好きなんだよ。俺の楽しみを奪うつもりか」


 事情を知っているベロニカはニヤニヤしている。

 ダリアは少し困った顔。

 アザミは憧憬の顔をした。


 その時、ギルドの酒場に懐かしい顔ぶれが来た。

 なんとストックとローズ。

 俺がスキルと前世の記憶を得た決闘の相手だ。


「『黄金の勇者』、『灼熱の魔女』、『不殺のアサシン』、遊んでないでいい加減に仕事しろ」


 ベロニカの二つ名は『黄金の勇者』。

 ダリアは『灼熱の魔女』。

 アザミは『不殺のアサシン』。


 ちらっとローズが俺を見て首を傾げた後に、驚きの顔になる。

 ローズはストックをつんつんと指で突いて、何やら耳打ちした。


「久しぶりだな。まあ何だ。ここは酒場だ。話をするなら飲め」


 俺は手で合図してエールを二つ頼んだ。


「お前、良く俺の前に顔を見せられたな。俺は言ったな。二度と姿を現すなと」


「師匠に向かってその言葉は許せない。こいつ何者?」


 ベロニカが憤懣やるかたないという口調で俺に話し掛けた。


「ストックだ。たしか二つ名は『炎剣』だったと思う。まあ色々あってな。おっと酒が届いた。まあ飲めよ」

「殺す? そうすると師匠から殺さないと。困った」


 殺気を振りまくアザミ。


「何となく二つ名に共通点があって不快です」


 不機嫌な顔で吐き捨てるように、ダリアが言う。

 ストックとローズがエールを飲む。


 ふふふ、飲んだな。

 よし、逃げるか。


「お前、下剤を仕込んだな」

「あばよ」


 俺は逃げ出した。

 3人も俺についてきた。


「仕事の催促されてたが、無視していいのか」

「大丈夫よ。強制依頼じゃないから」

「そうね」

「右に同じ」


 ストックにお帰り頂くには、嫌がらせをやるかな。

 俺はまきびしをポイっとギルドの入口に投げた。

 腹を押さえながら、追いかけてきたストックが、まきびしを踏む。


「痛っ、こんな所に置いたのは誰だ」

「ふはははっ」

「ふふふ

「あはは」

「くくっ」


「笑ったな。この野郎、決闘だ」

「嫌だね。負けるから。俺達は逃げる」


 俺はそばにあったゴミ箱をそばにあった脚立の上に載せた。

 ストックが脚立につまづいて、転がり生ごみを被った。


「なんでこんなに運が悪いんだ」

「この街が鬼門なのかもな」

「これというのもお前に会ったせいだ」


「誰に頼まれた依頼かは知らないが、諦めるんだな」

「グランドマスターの依頼だぞ。断れるわけがない」


 追いかけてきて、話している最中も、卑劣な工作に掛かりまくるストック。


「くそう。【炎剣】」


 ストックは剣を抜いてスキルを使った。


「街中で剣を抜いてスキルを使ったな。ベロニカ、懲らしめてやりなさい」

「よろこんで【聖剣】」

「じゃあ、私も上級拘束魔法」

「【影潜】」


 ストックは魔法で拘束され、アザミに背後から後頭部を殴られた。


「私の出番を盗らないでよ」


 とベロニカ。

 既にストックは気絶している。

 俺はストックの懐を探ると依頼票と財布の金を抜いた。


 かなり持っている。

 儲けたな。

 依頼票を丸めて地面に投げた。


「初級火球魔法」


 燃え上がる依頼票。


 よし、これで依頼はなくなった。


「飲み直そう。軍資金もある事だしな」

「師匠の悪党さに、痺れる」


 そうアザミが言った。


「良いのよ。剣を抜いた罰金よ」

「そうね。Sランクが働いたのだから、貰わないと」


 俺の行動に賛同する姿勢のベロニカとダリア。

 俺達は近くの酒場に繰り出した。

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