第3話 ゴブリンの巣

 俺はギルドマスターに呼ばれた。

 そこにはベロニカも同席していた。


「ムスカリ教官、本来の業務ではないが、ベロニカ殿の依頼に同行してほしい」

「断れば?」

「もちろん首だ」

「仕方ないな。貸しですよ」

「普段の悪行に目を瞑っているのを知らないのか」

「それはそれ。これはこれです」

「ふむ、良いだろう。依頼の詳細はベロニカ殿に聞いてくれ」


 俺とベロニカはギルドマスターの執務室を出た。


「どういう依頼だ」

「奇しくもゴブリンキング討伐よ。あの仲直りした時の依頼と一緒ね」

「ああ、そうだな」


 過去の記憶が甦る。

 3年前の事。


「この男を討伐隊に加えるなんて許せません」


 ベロニカがギルドでいきり立つ。


「こんな男でも頭数にはなる。敵は多い。人数が多ければ多い程良いだろう。ギルドマスターの命令だと思ってくれて構わない」

「分かりました」


 俺とベロニカを含めた討伐隊はゴブリンの巣の殲滅に向かった。


 この時の俺のレベルは12。

 ゴブリンでレベル5を超える奴はまずいないから、俺は無敵だ。

 ゴブリンの巣は洞窟を利用した物だった。

 通路は人が二人並んで通れるぐらいの広さだ。

 この広さを不思議に思わなければならなかった。

 だが、経験の浅いベロニカと、モンスターとの戦闘にうとい俺は気がつかなかった。


 俺とベロニカは文字通り無双した。

 そして、俺達は予想外の敵と出くわした。

 身長が2メートルを超えるゴブリンキングだ。


「私がやるしかないようね。みんなは下がって、足手まといだから」


 ベロニカとゴブリンキングの戦闘が始まった。

 目まぐるしく位置を変え、ベロニカが攻撃する。

 ゴブリンキングはこん棒でベロニカの剣を難なく捌いた。

 ベロニカがいったん距離を取る。


「【聖剣】」


 ベロニカがスキルを使い剣にオーラが宿った。

 ゴブリンキングは、駆け寄るベロニカの遥か前方に、こん棒を打ち下ろした。

 地面が揺れる。

 ベロニカは足を取られた。

 こん棒がベロニカに迫る。


「娘に手を出すな! 【たまにいい奴】。初級風刃魔法」


 特大のウインドカッターが、ゴブリンキングの顔を斬り裂いた。

 目を潰せたらしい。

 ゴブリンキングはこん棒を滅茶苦茶に振り回した。


「ベロニカ、いまだ! 止めを刺せ!」

「【聖剣】。てやー」


 聖剣スキルの一閃で、ゴブリンキングの首が胴と離れた。

 流石、聖剣スキル。

 あの時にベロニカのレベルが高かったら、俺もこうなっていたな。


「何で止めを刺さなかったの?」


 ベロニカが俺に尋ねた。


「魔力切れだよ。特大のを放ったからな」

「ふーん、あれって初級魔法よね。不思議だな。どんなスキルなら、あんなのが放てるの。ステータスを見て良い?」

「駄目だ。見たら殺す」

「へへーん。中級人物鑑定魔法。そうなんだ。そんなスキルだったとはね」


 スキルの詳細がばれてしまった。


「何で嫌われるような事をしているのかと思ったら、そういう事なのね」

「誰にも言うなよ。事実が広まったら、悪行ポイントが溜まらない」


「はい、お父さん」

「教官だと何度言ったら分かるんだ」


 まあいいか。

 娘って言ってしまったしな。


 思い出に浸っていたら、ベロニカの声で現実に戻された。


「皆さん、今回の依頼はゴブリンキングの討伐です。ザコは皆さんに任せます。その代わりゴブリンキングは私と師匠に任せて下さい」


 師匠じゃない。

 お父さんでもない。

 俺は教官だ。


「勇者の師匠って誰だ?」

「知らないな」

「この中にいるのか」


 みんなが不思議がる。

 くそう、これでゴブリンキングを討伐すると俺が師匠認定されちまう。

 大問題だ。

 悪行ポイントが溜まらなくなる恐れもある。

 くそう。


 出発前にステータスをチェックしておこう。


――――――――――――――

名前:ムスカリ LV17


魔力:645/645


スキル:

 踏み台

 たまにいい奴


悪行:281ポイント

――――――――――――――


 悪行ポイントはまずまずだ。

 目潰しぐらいは余裕だろう。


 この世界、レベルが10以下は初心者だ。

 10から19が熟練。

 20から29が一流。

 30からは英雄だ。


 俺もだいぶ強くなったな。

 ほとんどボス戦ばかりだもんな。

 『たまにいい奴』の使い方がそれしか思いつかない。

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