7:日々攻略、日々精進。
目を覚ます。
やっぱりというか何というか。あまり寝た気はしなかった。時計を見るとひとつ目のアラームが鳴る少し前。
久しぶりに二度寝しても許されるだろうか、とよぎったけど、それよりもドアの外から聞こえる包丁の音が耳に入った。
「……」
やっぱり、起きよう。
アラームを切って布団を抜け出す。
カーテンから漏れる日差しが、今日もいい天気であることを教えてくれる。
携帯で気温を見る。季節はすっかり夏模様だった。
着替えてドアを開けると、明るいリビングがそこにあった。
キッチンには灰色の髪の女の子。
ドアの音に気が付いたのか、その顔がふと上がる。
綺麗な赤い目が嬉しそうに細められた。
「おはよう、ございます」
「うん。おはよう」
こうして僕と彼女の生活は穏やかに再開された。
学校へ行って、柿原と少し話をして。昼食の席を確保して。授業を受けて家に帰って。夕飯を食べ、テレビを見て。その日あったことを話したりする。
前と変わらない。けれども、確かに何かが変わった気がする生活は、少しばかり胸に苦く、いくらか楽しい。
後日、イギリスからポストカードが届いていた。
観光客向けらしいポストカード。そこに写るロンドンの街並みは、僕の記憶にあるよりずっと綺麗で、テレビで見るより明るく楽しい場所に見えた。
あの二人はまた遊びに来るつもりらしい。ポストカードに添えられたそんな言葉に喜んだのは、僕よりしきちゃんだった。
「次、お二人が来たら……ノイスさんとお菓子を、作りたいです」
そう言って彼女はこれまで書き溜めたらしいレシピノートに付箋を貼っていた。
今度はこちらから日本らしいポストカードでも送ってやろう。そんな話しもした。
そんな風に僕達は、僕達なりの日常を作っていく。
今は、夜を生きる僕達にとって――いや、「人のようでいて人とは決して相容れない種族」にとって、住みにくい世界だ。
昔は良かった。なんて、安心して理解を放棄する人間達を見て。
それなら「僕ら」を受け入れてくれた方がずっとずっとお互いの為なのに、なんて思って。
まったく、この時代は生きにくい。そしてこれは、きっと更に加速していくんだ。と、先を少しだけ憂いて。僕達は過ごしていく。
いつか共存できる、なんて事はあまり期待していない。けれども。溶け込める日は来るんじゃないかと思ってる。
それはきっと、僕達が彼らに合わせた生活なのかもしれない。
嗚呼生きにくい生き辛いなんて言いながらも、それなりに過ごしていける日が来るのかもしれない。
僕達もまた、未知を既知にしようとする人間と同じように。既知を既知のような未知としていけるように。
日々攻略、日々精進。
そんな試行錯誤の毎日を過ごすのだ。
僕とボクの日常攻略 水無月龍那 @ryu_na
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます