第33話「異変③」※ルカーシュ視点
遠征は順調だった。四日かけて最初の結界石に到着。それからさらに東へ移動しながら結界石の魔法を張り直し、予定通りの日程で進んでいた。事前情報通り、結果石の効力が下がり魔物の数は増えているが、十分に対応できている。
初めてリーダーを務めるクレメントの指揮も問題なく、ルカーシュが口出しすることもほぼない。
(このまま順調にいって、早ければ来週にでもヴィエラに会える。早く王都に帰りたい)
遠征最後の滞在場所には、遠征隊が滞在できる宿泊棟が建てられていた。
個室を得ているルカーシュはシャワーを終えると、洗面台に置いてあったリボンーーヴィエラからもらったお守りに口付けを落とした。
遠征中は毎回王都に帰りたくなるものだが、今回はさらにその気持ちが強い。一番警戒しているクレメントは同じく遠征中でヴィエラに絡む心配はなく、英雄に喧嘩を売ってまでヴィエラに近づく者もいないだろう。
純粋に、彼女に会いたかった。
(まぁ。ヴィエラは鈍感だから、他の男に下心があって、彼らが近づいてきても気付かないんだろうな)
ルカーシュ自身も好意があるというアピールを頑張っているが、ヴィエラは戸惑うものの、特別な異性として意識するレベルには到達してくれない。
嫌がっている様子はないため、もっと踏み込んだアピールをするべきかと頭を悩ます。
(ヴィエラに避けられないよう、しっかり俺を意識してもらってから本心を打ち明けようと思ったが……先に手を出すようなことはしたくない。本物の婚約者になりたいと明確な言葉にして伝えないと、一生伝わらない気がしてきたな)
そうしてルカーシュは髪をタオルで拭きながら、愛しい人との再会後について作戦を立てていった。
翌、太陽がまだ上る前の時間、ルカーシュは部下の大声で起こされた。
「魔物が結界石が並ぶ境界より内側に侵入したとの報告が! 至急、打ち合わせがしたいとクレメント・バルテル殿がお呼びです」
「分かった」
すぐに制服のズボンを穿き、部屋を飛び出す。
歩きながらジャケットのボタンを留め、本部になっているエントランスホールに姿を現した。
ポケットに入れてあった縹色のリボンでさっと髪を束ね、クレメントをはじめとするリーダー格の待つテーブルの前に立った。
「クレメント、何が起きた?」
「ある結界石が完全に効力を失ったようで、魔物が結界ラインを越えてきてしまったのです。今は見張りの神獣騎士が魔獣を討伐してくれたので、臨時の結界装置を発動させるため複数の班員が向かっています」
「では俺たちも先発隊を追いかけ、結界石に新たに魔法式を付与しないといけないな」
「それなのですが、これまで以上に接近してくる魔物が多いようです。最初に届いた報告によれば、魔物は興奮状態にあると」
「神獣と戦闘したからではなく?」
「はい。戦闘前から好戦的に突っ込んで来たようです。気を付けてください」
クレメントの報告に、ルカーシュは眉をひそめた。魔物は一般的な野生動物よりも凶暴であるが、自分より強いものに挑むほど愚かではない。明らかにおかしい。
「わかった。出発しよう」
そうして目的の結界石のもとへ向かったのだが、報告通り興奮状態の魔物が、効果を失った結界石の周囲に集まっていた。
魔物は、この森に多く生息するスキアマウスと呼ばれている、ネズミのような形をした中型種。グリフォンと比べたら圧倒的に弱い種類だが、群れで動くため、一度遭遇すると数が多いのが厄介だ。
アルベルティナたちグリフォンは鷲のような鋭い前脚でスキアマウスを捕まえて握りつぶしたり、嘴で突き飛ばして倒していく。力強いグリフォンの一撃は重く、スキアマウスは再起不能に陥る。
囲まれそうになれば、風の魔法を発動しグリフォンはスキアマウス吹き飛ばす。
背後やグリフォンの懐に入って攻撃しようとしてくる個体は、背に乗っている相棒の神獣騎士が剣で切りながら守っていた。
(まだ結界は張り直されないのか?)
ルカーシュは背中に嫌な汗を感じた。良くないことが起こる予感がする。
結界石が正常に動き出せば、スキアマウス程度の魔物は逃げ出すはずだ。
しかしスキアマウスは未だに集まり続け、襲い掛かってくる。結界課の魔法使いたちがいるため、一匹も後ろに通せない緊張状態が続いていた。
契約の繋がりを使って相棒のグリフォンと意識を繋ぎ、他の神獣騎士との連携を強化して効率よくスキアマウスを排除していく。
そこに伝令役の神獣騎士の部下が駆け付け、険しい表情でルカーシュに告げた。
「指揮官クレメント・バルテル殿より通達。結界石に重要な問題があると発覚し、魔法式の更新に失敗! 臨時の結界装置を起動後、最低限の防衛担当者を残して一旦撤退とのことです!」と。
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