12 バージルの思い出
九歳の時おれは兄ふたりと父と王都にやって来た。王都の騎士団の指導のためだ。指導したのは父と兄だけで俺は家にいるのはいやだと泣いて一緒に連れてきてもらったのだ。
その日、おれはだいぶ城内になれてきて訓練場を抜け出して探検をしていた。すると泣き声が聞こえてきた。なんでこんなところで子供が泣いているんだと思った俺は声のするほうに歩いて行った。
なんというかおおきな女の像の前で泣いているのがいた。
そばによって
「なんで泣いてるんだ?」と聞くともっと大声になったので
「泣くな、我慢して泣き止んでちゃんと話せ」
「あっそれから痛くても我慢するんだ。軟弱は恥だぞ」と活を入れてやると、ぐずぐずしながらも泣き止んで
「母上のネックレスを妹がとったので返してって言ったら妹が泣き出して父上がわたしをぶったの。ネックレスはわたしのものなのに」
「母上のネックレスだろ?じゃあおまえのものじゃないだろ」と言うと
「母上の物はわたしの物だよ」
「どうしてだよ、母上の物だろ」ともう一度言うとしばらく考えて
「わたしの母上の物だからわたしの物。妹は妹の母上の物を??」というので
「なんで母上がふたりもいるのだ、おまえんちは欲張りなのか?」というと
「ひとりだよ。わたしの母上はお空にいるから」と言いながらまた涙が膨らんできた。
「空を飛べるとかすごいなぁ」と言うと
「そうかな」
「そうだぜ、おれも飛びたいぜ」と言いながら像の前をみると白い花が置いてあった。
「これはお前が置いたのか?」
「うん、母上に」と言うので
「ここに来ないのか?」
彼女はふっと笑うと
「来てくれるようにこうしたの」と答えた。
おれはそんな話に飽きたのでポケットからビスケットをだして半分に割ると
「これやる」と言いながら食べ始めた。
「おいしいね、ありがとう」
「これが好きならおれんちに来いよ。いっぱい食べさせてやるよ。おれんちのかあ様はひとりしかいないけど、たくさん食べてねっていつも言ってくれるんだ。だからおまえにたくさんくれるぞ」と言うと彼女は
「ありがとう、そうする」
「おぉ迎えにいくからな」などと話していると
「バージルこんなところにいたのか」と下の兄様がやって来た。
「こちらのご令嬢は」
「あーこいつんち、かあ様がふたりなんだぜ、おまえ名前なんて言うんだ」
彼女は立ち上がると
「エリザベートと申します」と大人のように挨拶をした。こいつもしかしたらすごいのか?
「あぁお部屋までお送りします」と兄様が言うとちょうど侍従が遠くにみえた。
「迎えがきたようです。わたくしはこれで」というとエリザベートは去って行った。
おれはそのあと兄様ふたりと父様からすごい怒られた。
そしておとなになって行くにつれてエリザベートのことがわかってきた。
あの日の決意は一度も揺るがなかった。必ず迎えに行く。
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