最終話 「イケメンの皮を破ろう!?」
冬になると拙者の小学校内ではイケメンいじりも段々へっていた。おそらくは飽きが原因でござる。しかし、嬉しいという感情はなかった。むしろ怖かった。相手にされないという恐怖があったからでござる。でも、拙者は言い聞かせた。拙者には家族、そして勝家たちがいる。そう何度も何度も言い聞かせたのでござる。
そんなときでござった。突如、家の電話が鳴り響いた。拙者は慌てて電話にでると「おう。ふぁたけ、元気か?」と祖父の渋い声が聞こえてきた。そして、しばらく祖父と楽しく談笑をしていると急に話が止まり沈黙がながれた。そして、祖父は切り出しづらそうに少し小さめな歯切れの悪い声で「・・・友達いないんだって」と拙者に質問をした。
あのときはスゴク動揺したことを覚えている。そして、自分でも気がつかないうちに小さな声で「・・・うるさい。黙れでござる」と言ってしまったのだから。
すると、祖父はさっきよりも増して切り出しづらそうにしていた。そして、言ってしまえと言わんばかりに力強く「ワシの住んでる田舎に引っ越さないか!!」と震えもまじりの張り裂けそうな声をだしたでござる。
祖父の提案に拙者の心がグラグラ揺れて結果として、それは大きなイライラとなって「うるさいでござるよ!!」と大声となってあらわれた。その勢いで拙者は電話をブチッと切った。そして、電話を切ってから激しく後悔にさいなまれた。祖父はやさしさから、それを言ってくれたことがわかっていたから。でも、後悔しても仕方ない。次があるさ、次は「心配してくれて、ありがとう」と思いを伝えようと心で念じ、平静を取り戻した。しかし、次はなかった。その数か月後。祖父は階段を降りる途中心臓発作をおこしてなくなってしまったのだ。
葬式のため祖父の家にいくと青白い顔をした祖父が布団で寝ていた。その横では祖母が寂しさを紛らわすために顔にかかった布をとったり、上にかぶせたりを繰り返していた。その光景をみながら拙者は初めて人は死ぬのだということを理解したことを覚えている。祖父の死に顔をみて、酷いことを言った後悔だけがつのる拙者でござった。
一ヶ月後。拙者が母上と姉のみーふぁとの三人でテレビを見ていたときの出来事。そして、それはまさに突然だった。拙者の目から涙が止まらなくなったのでござる。
シクシクと泣いていると、母上がそれに気づいて「ふぁたけ。どうしたのじゃ?」と尋ねた。
拙一月前の祖父との電話でのやりとりを話すと母上は笑って「ふぁたけって優しいの。惚れなおしたの。オヌシはきっと大器晩成じゃの!!」と意味のわからぬ話をしだした。そして、続けて「その優しさがあれば、きっとオヌシは将来成功するの!!」と言ってくれた。
なぜかわからないでござるが、母は拙者の幼少期、断るごとに、この『大器晩成』という拙者には大それた言葉をだして拙者をなぐさめたでござる。拙者は今でも『大器晩成』という言葉を胸に刻んでいる。そして、まさか別れが祖父だけにとどまらないことを拙者は知るよしもなかった。
ある日。拙者は勝家になぜか呼び出された。拙者と勝家が二人で会うのは数えるほどしかなかったので拙者は緊張していた。そして、拙者は勝家に会うなり「なんでござるか?」とたずねた。
すると、勝家にしてはめずらしく神妙な面持ちをしたので拙者は何事かと思い、すごく、イヤな予感がした。そして、無常にもその予感は当たることになってしまったのでござる。勝家が重たい口を開け「・・・俺は親父の転勤で、ここを去ることになったぜ」と言った。あまりに唐突かつ、衝撃的な発言に拙者は驚いて何も声を出せなかった。そして、静寂が二人だけをつつんだ。
それから、勝家は続けて心配そうにこうきりだした。「お前は俺に頼りすぎだ。俺を心配させないように、ちゃんと学校でも友達をつくれ。・・・わかったよな?ふぁた弐」拙者の目には二人だけの透明な空間が真っ黒になったように見えた。とても、不思議な感覚で、勝家が心配してくれた嬉しさよりも、勝家がいなくなることの寂しさと絶望感が拙者の中で勝ったことが原因でござる。そのあとも勝家と少し話したが、とてもじゃないけど頭に入ってこなかった。
すると、気がつくと、もう自宅に帰っている自分に気づいた。そして、しばらく呆然とすると、何気なく母上の寝室を覗き込もうとした瞬間、衝撃が走った。そこで銃で撃たれたように倒れて、ぐったりしている母親の姿だった。
この状況に血の気が引き、近くにいた姉に心配して尋ねると「母上は今朝、ふぁたけの担任の先生に息子が友達を作れるように応援してくれって頼んだらしいのよ。でも、あなたの担任の先生は『あのこ、たぶん友達いらない子なんですよ』って言ったらしいわ。そんで口論になって今疲れて寝てる」とのことだった。
拙者は愕然とした。拙者は祖父、勝家のみならず母上にも心配をかけていたのだと。
次の日。拙者はパソコンの授業をうけていた。桶狭間小学校は当時にしては珍しいコンピューターの教育に力を入れている学校でござった。無口でクソマジメにパワーポイントでスライドショーを作り、授業の最後の発表に備えていたのでござる。このときの拙者の頭の中では祖父や勝家、そして母上。拙者のことを心配する者たちの思いが拙者の心に複雑に絡まっていた。そして、授業が開始して十分ほど過ぎた頃でござろう。拙者の手にもっているマウスがスッと止まった。その瞬間でござる。拙者の心に絡んでいた複雑な思いが突如炎で燃えてなくなり、その炎が拙者の体中をつつんでいくような感覚に襲われた。拙者の心の炎は地鳴りのような大声をあげて拙者のことを問いただしたのでござる。「オヌシは誰でござるか?オヌシはこんなに無口でクソマジメな奴なのか?オヌシは無口でクソマジメなんかじゃない!!家族や勝家たちと一緒にいるときはあんなに喋って楽しそうにふざけているじゃないか!!本当のオヌシを取り戻せ!!!今すぐに!!!!」
はっと拙者は我に返ると、さっきおこった、心のイメージを思い返した。すると、吹っ切れかのるようにマウスでカチャカチャと操作して、拙者は最初に作っていたスライドショーを消去したのでござる。それから、別の作品を一から作り始めようとしたのでござった。
そして、この授業の終盤。クラスメイトが思い思いのスライドショーを作って次々と発表していくのでござった。そこにはマジメくさったもの、ふざけたもの。様々な作品が発表されていたでござる。そして、拙者の出番まであと少しとせまり、拙者の心臓は緊張の圧力でまさに爆発寸前でござった。
……そして、緊張の拙者の出番。
拙者は心に決めていた。このスライドショーにすべてを賭けると!!
拙者が教室の真ん前に立つと教室の数か所からクラスメイトの「よ!!イケメンのふぁたけ様!!!」という茶化すような掛け声が聞こえてきた。そして、それが合図となり拙者のスライドショーがはじまるのでござった。おそらく内心は皆が皆につまらないものを見せられると思っていたに違いないでござる。
開始直後。教室の角っこにある大きなモニターに二人のおっさんが出現した。そして、拙者は己の声を強引に変換し、アフレコによって二人のおっさんに声と性格という命を与えて、スライドショーが進行していったでござる。
ちなみに、序盤は二人のおっさんが些細なケンカをするシーンからはじまった。<ガリガリで弱そうだね><デブでハゲよりましだろ!!>と。この時点ですでにクスクスと笑い声が起きていた。そして、「あのふぁたけがフザケタ、スライドショーを発表してきた」という驚きの声が聞こえはじめてきたのでござる。まさに、いいスタートダッシュでござった。そして、スライドショーは進んでいく。
それからもおっさん二人のケンカはエスカレートしていき、各シーンごとにドッカン、ドッカンと笑いはおきていたでござる。これはクラスメイトも周囲に「イケメン」とイジられていただけの少年がここまで振り切った作品を作るだなんて誰も予想していなかったでござろう。
そして、二人のおっさんは互いのプライドを賭けて戦っていたが、ついに決着のときを迎えることに。つまり、拙者のスライドショーは最後のオチを迎えようとしていたのでござる。ちなみに、二人のおっさんのケンカの結末はこんな感じでござる。
<木っ端みじんにお前の髪の毛を吹き消してやる!!くれえ!!必殺!?秒殺拳!!!>
<それはこっちのセリフ!!その栄養が足りていない惨めな体をさらに惨めにさせてやるぜ!!。くれえ!!必殺!?瞬殺拳!!>
<うわあああああああ>
<うぎゃあああああ。・・・髪の毛が>結末はまさかのダブルノックアウトでござった。
これにはクラスメイトが手をたたいて大爆笑。こうして拙者はパソコンのスライドショーの授業で今日一番の笑いをかっさらったのでござる。
そして、発表の直後にこだまする「秒殺拳ってなに?・・・瞬殺拳」とクスクスと笑うクラスメイトの笑い声。それから、クラスが再びザワつきだし「これはひょっとして『ふぁたけさんワールド』!?」と一人の男子が大声でそう言った。すると電気が感電するかのようにクラス中の生徒が次々と『ふぁたけさんワールドだ!!』という歓声をあげた。拙者は生まれてはじめて『イケメン』いがいのいじりをされた。いや、こんなにもクラスメイトに賞賛されたことが、とても嬉しくて言葉にならなかったでござる。
それから、拙者のパワーポイント見たさにデータを貸してくれって言ってくれる者が多発。なので、拙者はいくつものネタを作りだしたのでござる。皆、ガチで拙者に興味深々でござった。そして、いつしか拙者の周りには人だかりができるようになったでござる。
三月。勝家ら家族は引っ越し寸前でござった。
勝家は見送りにきていた拙者に駆け寄りニヤリとすると「ほー!!頼もしい顔つきになったもんだね」とひと際うれしそうな顔で喋りかけたでござる。
拙者も拙者でエッヘンとニヤリとして「やっと友達ができたでござる。それも、これも勝家が拙者を心配してくれたおかげでござる」と恥ずかしそうに決め顔をして勝家に最後の御礼を言った。
すると、勝家はクスっと何も言わずにさわやかに笑った。そして、そのあとが今年で一番、いや!?これまでの人生で最大の予想外でござった。「俺が引っ越したら、ガキ大将はお前が引き継いでくれ」と勝家は静かながら切れ味抜群の鋭利な声で拙者に突如言い放ったからでござる。
それはまさに震度7をこすほどの衝撃でござる。本当にあまりにビックリしたもんだから拙者はあいた口がふさがらなかった。そして、やっと我に返っても武者震いは継続していた。それから、「拙者がガキ大将!?意味わからんでござる!!!」と慌てふためいて言った。それを勝家が見てクスっと笑っていた。拙者は断固たる思いで断ろうとしたが時すでに遅しでござった。
ちょうどそのとき、勝家の弟のふぁたワンが「兄ちゃん!!もう出発の時間だよ!!!」兄に出発の合図をおくった。・・・・拙者と勝家の別れがせまる。
勝家は拙者にネギライの肩パンチをくらわすと「俺はもういく。あとは任せた!!」は拙者の動揺が止まるのを待たずに、そそくさと引っ越しの車にのりこんだ。そして、車が発進する。拙者が段々遠くなっていく勝家が乗る車の窓を見ると、勝家はニコッと微笑んでいた。拙者から徐々に見えなくなっていく勝家をみて思ったことがあった。
・・・・勝家。
ガキ大将なんて無茶ぶりにもほどがあるでござるよ 笑
オヌシは拙者のサイコー友人でござった!!
一生忘れない。
勇気の侍 ~小学3年生・イケメン地獄編~ ふぁたけ @sanada3dai
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