エピローグ

エピローグ(もしくは目覚めのプロローグ)


「ノーミィ、これ確認したいんだけど……って、どうしたの? ひどい顔だね。寝不足?」


 魔王城の細工室で、もそもそと片付けをしていたわたしは、入り口からかけられた声に振り向いた。

 綺麗な青色の髪を揺らす制服を着た文官は、アクアリーヌさん。同じ城で働く仲間であり、友人として仲よくしてくれるハーフマーメイドだ。


「アクアリーヌさん……。それがですね、今日おかしな夢を見たんですよ……」


 さっきまで見ていた夢では、私服で一般市民の商人だったアクアリーヌさんが文官でまだ少し混乱している。

 いや、でも、アクアリーヌさんは文官であってる。うん。


「夢見が悪かったんだ? それでこんなおかしな発注書になってるんだ?」


「さっき出したやつですか? おかしかったです?」


 差し出された発注書にはわたしの筆跡で“カラス100”“魔金50”と書かれていた。


「カラス100……」


「ノーミィに限って間違いはないだろうと思って確認したらこんな感じでさ。使い魔を100羽用意して、ドワーフ国と連絡をとって魔王国を乗っ取るのかと思ったよ」


「連絡をとる相手がいたら、魔王国に来てないですよぅ……」


 ガラス100と魔銀50に書き直し、アクアリーヌさんに返した。


「……なんか、ごめん。で、おかしな夢だったって?」


「本当の話みたいに現実感のある夢だったんです。ドワーフの国から逃げてきたところとかは同じだったんですけど、シグライズ様に拾われた後は町の民家に住んで……」


「へぇ」


「魔王城に通いながら修理して、細工店を開いてて……」


「たしかに本当にありそうな話だね」


「アクアリーヌさんは文官じゃなかったし」


「え、そうなんだ?」


「魔石店の店主でした」


「文官じゃなければそうなってたと思うよ。すごい現実味のある夢だね」


「魔王様には抱えられるし」


「ええ? ロマンスの物語始まっちゃう?」


「魔石箱みたいに小脇に抱えられたんですよ! 荷物ですよ! そんな物語、始まる前に終わりです!」


「魔王様、哀れ……」


「しかも! 夢の中でもわたしの夢炉が――――!」


「よしよし、かわいそうに。夢は自分の思いと繋がっているらしいからさ。きっと、夢炉の扱いがあまりに悲しくて、魔王様が憎くなってそいういう夢を見たんだよ」


 そう言われると、ちょっと違うかなぁと思う。


「別に、魔王様は憎くないです……」


「そっか。それならよかった。これからも魔王様と魔王国をよろしくね、最高細工責任者サマ。――ああ、魔石の検品終わったから、後で検収係が持ってくると思うよ」


「わかりました。待ってます!」


 アクアリーヌさんはひらひらと手を振って、部屋を出ていった。

 夢の話は、聞いてもらったらすっきりした。

 多分、あまりにリアルな夢でどっちが本当なのか混乱しただけだったのだろう。


「さて、魔石が届く前に、やることをやってしまおう!」


 わたしは大きな真鍮の板を取り出し、部品用に細かく切る作業に取りかかったのだった。





END






##### あとがき #####


コンテスト版のノーミィの物語、完結です!

♡や★やギフトでの応援、本当にありがとうございました!!


物語は書籍のプロローグへと続きます!


【書籍版・試し読み】

魔導細工師ノーミィの異世界クラフト生活

~前世知識とチートなアイテムで、魔王城をどんどん快適にします!~

https://kakuyomu.jp/works/16817330665176088837


発売日に向けて、2章+幕間まで徐々にUPしていきますのでお楽しみに!

まるまる書き下ろしエピソードのプロローグだけでもぜひぜひぜひ!





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『ノーミィ商店』の魔細工はドラゴンが踏んでも壊れません!【カドカワBOOKS中編コンテスト受賞作】 くすだま琴 @kusudama

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