第20話 夢路の陣 9


 ぐだぐだと夢炉を強くする方法考えていたけど、防御系を積めるだけ積むくらいしか思いつかない。

 どんだけ積めばドラゴンに勝てるというのか。

 そんだけ積むにはどんだけ大きい炉を作らねばならないのか。やっぱりお寺の香炉か。


 使い魔クラウも近付いてこない黒オーラをまき散らしながら、魔銀の基板を切り出していたところにアクアリーヌさんが誘いにきた。


「せっかくの休みなんだし、がやっている店に遊びに行こうよ」


 見ればいつもよりかわいい感じの服で、休日を満喫しているよう。

 それも気分転換にいいかもしれない。

 わたしもちょっと明るい服に着替えてでかけることにした。






 連れられてやってきたのは街の中にある服屋だった。

 店内は服も並べられていたけれども、布もたくさん並んでいる。

 お店の奥で布を裁断していた男が顔を上げた。30歳代くらいだろうか。茶色の髪で優しそうな顔立ち。白シャツを腕まくりして、胸にはエプロンをつけている。


「アクアリーヌ嬢、いらっしゃい。そちらの子は――――……まさか人か?」


「この子はノーミィっていうんだ。ハーフドワーフなんだよ」


「ノーミィです。よ、よろしくお願いします……」


「ノーミィ嬢か。私はディランだ。よろしく。っていうか、ハーフドワーフ?」


 まじまじと見られて恥ずかしい。

 かあちゃんは何かわからないから置いておくけど、に会うのは前世以来だ。やはり見慣れた感じだし、すぐに安心した気持ちになってしまう。

 わたしは父がドワーフで母の種族は知らないということなどを説明した。

 ディランさんはうなずいて、魔王国に来るよそ者はみな何かがあってくるものだと寂しげに笑った。


「――――多分…………ノーミィ嬢の母上はだ」


 いやにはっきりと断言された。

 何か有力な決めてがあるってこと?


「――――わたしの見た目ですか?」


「見た目もそうだが、そのカバン――――グーチェ族の魔雑貨だろう?」


「たしかにこれは母の形見です…………!」


「そのカバンの独特なステッチはグーチェ族のものだよ。グーチェ族は別名が糸の魔術師。きっとそのカバンも秘伝の魔術刺繍があるんだろう? カバン自体も熟練の技を感じる。何気ない目立たないように作って、その有用性を隠しているところがすごいな。買うとしたら大金が動く。そのへんの市民に買える金額じゃないんだ。きっと君の母上か近い親族が作ったものだろう」


 魔術刺繍! あの魔術紋の刺繍は一族の秘伝なんだ!

 ずっと使っていたから慣れてしまっていたけど、このカバンはとにかくもう何でも大量に入る。性能としてはおかしい。

 そしてそれを自分の細工品でも再現してみたいとは思っていた。


「あ、あの、ディランさんは魔術刺繍に詳しいですか?! このカバンの刺繍が――――」


「ちょ、ちょっと待った、ノーミィ嬢。そのカバンは本当に貴重なものなんだ。私ごとき一介の裁縫師が知っていい技ではないと思うんだが――――」


「そんなこと聞いたら、ボクも聞いて大丈夫なのか心配になるよ」


 ディランさんとアクアリーヌさんは困った顔でわたしを見た。

 一族の秘伝の技ってやつか――――。わたしおかしな細工を作り始めたように、秘伝って言っても漏れ出ちゃうものなんじゃないかな。


「……魔術紋って、珍しいものですか……?」


「いや、魔術紋は珍しくない。こうやって――――」


 ディランさんはタクト指揮棒のようなものをエプロンのポケットから取り出し、棒先で魔術紋を描いた。

 すると光の球が出現して、ふわりふわりと揺れた。


 ――――魔術紋って、そうやって使うものだったんだ――――!!


 この間アクアリーヌさんも言っていた。魔の者は魔法を、人とエルフは魔術を使うって。


「わた、わたしにも、それ使えますか?!」


「魔力とワンド魔術杖があれば使えると思うが、私のワンドは血族継承のもので他の者は使えないんだ」


「どこかで買えたりするんですか?」


「人の国なら杖の店があるよ」


 そうか、ワンドが必要なんだ……。人の国か……。

 魔術、使ってみたいな…………。

 勇者と対立しているっぽい魔王国からだと、なかなか行きづらいんだろうけど。


 そして、魔術紋自体は珍しいものではないことがわかった。

[模写]も魔術紋帳の使用例にあった“本を作る”というのも、杖で描いて使うあのやり方ならなんとなく納得できる。


 魔術刺繍や魔術基板に描く方が、変わった使い方なんだ。

 魔術紋を使えば魔石を使った道具や細工品とはまったく違ったことができる。工夫次第で可能性無限大。


「…………このカバンは魔術紋が刺繍してあるだけなんですよ。秘密にしておくほどのことでもないというか……」


「噂でそう聞いていたけど、本当にそうなのか」


「あ、あと羽根が付いてました」


「魔術付与に素材を使うとも聞いた。ノーミィ嬢のカバンが、私の思っている通りのものなら――――空間魔法系の魔物の羽根なのではないかな」


 空間魔法系――――――――。


「――――クラウ、来い!」


 どこからか現れたわたしの使い魔がひゅっと頭の上に乗った。


「まさに、それ」


 ディランさんの言葉に、アクアリーヌさんはヒュ~と口笛を吹いた。





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