第18話 夢路の陣 7
――――さすがミーディス様だよ…………。
うっかりおさぼりしちゃう者には死だよ……。容赦ない……。
焦げた夢炉は修復できないよ………………。
フフフフフフフ……………………。
わたし、頭に血が上っていたのか、何かの創作スイッチが入っていたのか。
気付くと槌をふるって新しい夢炉を作り上げておりました……。
そして対電撃用に、[魔法魔術防御]という魔術紋を刻んだ魔術基板を制作。
これで魔術基板が3枚になった。
基板を重ねてちゃんと効果が出るのかもわからないのに、また増やしちゃったよ……。
遠い目になり庭を眺めると、うっすらと夜色の空が薄くなりかけていた。
◇
新しく作った夢炉もカモミールの花を置いて試したところ、特におかしなところはなく、なんとなくぐっすり眠れたような気がする。
とりあえず魔王様に試してもらわないことには、夢に関しての改良点がわからないままだ。
わたしは新しい夢炉の無事を祈りつつ、王城へ向かっていた。
今日の店の扉には、
“王城で仕事しています。夜食の時間から開けます”
という張り紙をしてきた。
ついでに“翌日はお休みです”とも書いてきた。
休みほしい。働き者と言われるドワーフだって、休まないと死ぬ。わたしハーフドワーフだし、ドワーフ以上に休まないと死ぬから。
広場まで来ると、頭に乗っていた使い魔クラウが『ギチギチ……』と鳴きだした。おいしいものがあるってわかってるんだ。
「……何食べようかな」
くるみ入りのパンを買いこみ、温かいものが食べたいなと思いながら屋台を物色していると、どんぶりを前にしたシグライズ様と目が合った。
「――――おう! 嬢ちゃん! いい夕だな!」
「シグライズ様! いい夕ですね」
野菜が山盛りになったどんぶりには、薄切り肉も何枚ものっている。
「――――わたしもそれにしよう」
さすがにシグライズ様と同じ量は無理だけど。
普通盛りを買って四天王の一角のとなりに座る。
クラウにはちぎったパンと、麺の上にのっていたカボチャをあげた。
『ギチギチギチギチギチギチ……』
すごい喜んでる。
平麺の上にカボチャって、ちょっとほうとうみたい。
「おう、鳥。ノーミィに食われなくてよかったな」
『ギチギチッ』
そうは言いましても、山鳥っておいしいの多いんですよ?
「あー、やっぱり麺ですねぇ。温かくておいしいです」
「仕事の前に力つけなきゃな」
「あっ、そういえば、足は大丈夫ですか?」
「そうか、嬢ちゃんの細工品だったんだっけか。足はなんともないぞぅ。悪かったなぁ。せっかく作った物をだめにして」
「大丈夫です。直ったので!」
黒焦げの方は直らなかったのです。重傷と死亡事故くらい違ったのです。
シグライズ様と夕食をとり登城して執務室に行くと、ミーディス様は大変バツが悪そうに謝罪を口にした。
「ノーミィの細工品を巻き添えにして申し訳なかったですね……。魔王様がすべて悪いので、なんでも魔王様に申し付けるんですよ?」
ミーディス様ではなく、お仕事を放りだそうとした魔王様が悪いです。
相変わらず書類に埋もれた魔王様も、大変申し訳なさそうにしている。
「ノーミィよ、もう直ったのか?」
「直ったというか……はい。持ってきました」
夢炉を床の真ん中に置く。
「ミーディス様、これにピカッとしてもらえますか?」
「なぜです。昨夜のようにまた真っ黒になってしまいますよ?」
「ちょっと強くしてきましたので、ぜひ」
わたしがそこから離れると、ミーディス様は仕方がないという様子で人差し指を振った。
稲光が走り電撃が夢炉に落ちた。
「ひっ!」
『ギュギュッ!』
思わずクラウといっしょに飛び上がった。
けど、夢炉は金色のままだ。なんともなってないように見える!
グローブをはめて手にとり、中まで確認する。
「無事です!」
「なんと!!」
「えっ? そうなのですか?! 昨夜は真っ黒になったのに……」
二人の驚きの表情に、勝った! と思った。
よし、これで夢炉はもう大丈夫だろう。
物理防御も魔法防御もしっかりしているからね。うちの夢炉は怖いものなしだ。
「――――では、備品室の方を確認して帰ります」
わたしは呆然としている魔王様たちをしり目に、意気揚々と退室した。
フフフ……。
ミーディス様の電撃に勝った。
魔王国の幹部の攻撃に勝ったということは、魔王国最強ってことだよ。うちの夢炉が国一番!
スキップでもしたい気分で備品室や資材室を確認し、魔石切れで出されていたランタンをいくつか整備した。
お城の夜食を食べて帰ろうと思ったら、夜食は一皿増えていた。
ミーディス様、すぐに増やしたんだ。
魔王様が食べるにしては質素だなと思ってたから、よかったよ。
がんばった甲斐があったというものです!
――――いい気になっていたわたしは、その後すぐに魔王城のさらなる怖さを知ることになるのだった――――――――。
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