第17話 夢路の陣 6


 本日も忙しそうな気配ですよ!


 魔石交換はお一人様2個まで、夜食前の受付は20人までと決めたので、列の人数に目を配りながらの対応だ。


「――――では、そちらのカゴにランタンを入れておいてください。あ、ランタン2個までは大丈夫です! それ以上はまた次回にお持ちいただければ……」


 親子札の大きい札をカゴに入れて、小さい札をクラウに差し出す。


「これをお客さんに」


『ギチギチ』


 くちばしでくわえてトントンと跳んでお客さんの手に落とした。

 戻ってきたクラウにカボチャの種を与える。


『ギチギチギチギチ』


 喜んでる喜んでる。

 小さい使いで慣れさせるといいとアクアリーヌさんに聞いたので、手伝ってもらっているのだ。クラウは特に食い意地が張っているみたいだから食べ物で釣るといいよという見立て付き。

 まったくもってその通りで、はりきってお手伝いしている。

 お客さんもその姿を見てなごんでいるみたいで、お店の看板鳥になる日も近いかもしれない。


「――――じゃ、よろしくね。細工師さん」


「はい! おまかせください!」


 店内に入って来るお客さんが途切れたところで、


“魔石交換の、夜食前の受付は終了しました。夜食後にお越しください”


 という張り紙を店の扉に貼った。

 20より少し少ないけど、キリのいいところで締め切って作業に入る。

 魔王様の夢炉の修理もあるからね。


「クラウ、お手伝いありがと」


 もう1個種を与えると、くわえてどこかに飛んでいった。


 ――――どこかにしまっておくのかな……。変なところからカボチャの芽が出てきたらいやだなぁ……。


 思わず遠い目になったけど、頭を振ってねじ回しを持ち直して作業を再開した。




 今日は風動機の魔石交換も持ち込まれた。

 わたしが家で使っている風動機は改造済みで普通の魔石で動くけれども、一般的に売られているものは風魔石で動く。

 風で涼むほかにも、部屋の空気を循環させたり、濡れたものの乾きをよくしたりと、地味だけど使いどころは多い道具だ。

 本体がそこそこ大きいものは魔石の交換口が付いていることが多く、風動機も使っている人で交換できるようになっている。


 持ち込まれたものは、動かなくなってしまったとのことだった。

 まぁ、そういうのはだいたい魔石クズで接触不良を起こしているか、動力線が切れているかどっちか。

 それなら道具師じゃなくてわたしでも見られる。

 というか道具の中の基板のあたりは細工師の仕事。なので、うちに持って来てもらうのはすごく正しかったりするのだ。


 案の定、魔石クズが中で固まっていた。線は大丈夫そう。

 クズを取り除いてちょっと清掃したらちゃんと動いたので、よかった。

 断線していたら、新しい線の分のお代もかかるからね。


 これで夜食前の受付分は終了したので、かわいそうな夢炉に取りかかる。

 中の基板はひしゃげてしまっているので、これは新しいのに換えないと。


 基板を外して、へこんだところをバーナーでなまして叩いて。なんとか形を取り戻した。


 これ、ちょっと丈夫にできないものかな――――?


 魔術紋帳に[防御上昇]というのが載っていて、前々からこれを魔細工に組み込んだら丈夫になるかなと思ってたのだ。


 いい機会なので、魔術基板の2枚差しを試してみよう。


 新しい魔銀製の基板に、1枚は[模写]を刻んだ。

 もう1枚は[防御上昇]の紋。初めての魔術紋なので、まず紙に羽根ペンで描いてみて、何回か練習してから、基板へ挑む。

 魔力を込めながらチスを滑らせて、最後に円を閉じると紋は光を放った。


「――よし、魔術紋は成功」


 あとは夢炉で正常に動くかだな。

 下に台となる真鍮板をロウ付けして、その上に基板二枚と化粧板を重ねて載せた。


 さて、試してみたいところだけど――――……。

 踏んだらわたしの足の方が無事じゃない。投げつけたら基板が外れちゃうし。

 夢だけ確認して、問題なければそのままお届けでいいかな……。

 今度こそ壊さないように使ってもらえればいいだけだしね。

 枕元に置いておくだけのものがそんなしょっちゅう壊れたりするわけない。




 ――――なんて思ったわたしは甘かった。




 魔王城へお届けしたその日のうちに、この世の終わりを背負った魔王様が店に来た。


「こ、今度はどうされたんですか……? また落として踏まれました……? 丈夫になるようにしてみたんですけど、やっぱりだめでした…………?」


 後ろ手が前に回されると、真っ黒焦げの夢炉が差し出された。


「あっ…………(察し)」


「すまぬ…………。ミーディスに――――」


「だ、大丈夫です、わかります! 大丈夫ですよ! また作ればいいだけです!」


 ぷるぷると震える小山に、安心させる言葉以外は出なかった。


「すまぬ…………。我がうれしさのあまりに早く試したくて、つい仕事の途中で寝に行こうとしたばかりに……………」


「……お仕事はちゃんとした方がいいかと思います……」


 しょぼくれる魔王様もなんとなく焦げくさい。

 夢炉は魔王様がくらった電撃の巻き添えをくったのだろう。


「でも、魔王様。早く試したくなるくらい喜んでもらえてうれしいです。また作りますから、大丈夫ですよ。楽しみに待っててください! ――――今度は対魔法の魔術紋も差しますね…………フフフフ…………」




 こうして魔王国幹部 VS ハーフドワーフ魔細工師の、戦いの火蓋は切って落とされた。





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