第14話 夢路の陣 3
掘り終えて満足したわたしは、道端で馬車を待っていた。
食べるの忘れて掘っていたので、パンをかじりながら。お行儀という単語は忘れる。
ドライフルーツ入りの黒パンは大変おいしい。これ、クリームチーズはさんでもおいしいだろうな。ワインとも合いそう。魔王国はごはんがおいしくて幸せだ。
不意に殺気を感じて、とっさにしゃがみこんだ。もちろんパンは抱えたまま。
そこをシャーッと何かが飛んでいった。
カラス?! やっぱりカラスなの?! わたしの天敵!!
気配が消えた。
どこにいった? あたりを見回してもいない。恐る恐る立ち上がると、すぐ近くからパンに向けて灰色のものが飛んだ。
「あっ! パンが!!」
思わず落としそうになるパンに、鳥のくちばしとわたしの手が重なった。
くちばしをパンごと両手でつかむ。ばさばさ暴れているけど、絶対に離さないぞ。
脇で灰色の羽毛に包まれた体も抱えた。捕獲成功。
鳩をひとまわり大きくしたようなぽっちゃりした鳥だった。こんなふっくらなのに見失うほど素早いのか。
じたばたしているけど、放しませんよ? 丸々しておいしそうだし!
馬車が来て、御者さんが「雲隠鳥じゃないか!」と驚いていた。
捕まえていればそのまま乗っていいと言われたけど、他の魔人さんたちにすみませんと頭を下げた。
近くに座っていた者が言うには、雲隠鳥は小心者で逃げ足が速い魔物らしい。
そうなの? 図々しく手に持ったパンを狙ってきたけど。トンビかと思っちゃったよ。
なかなか獲れないけど脂が乗って美味なのだとか。肉屋で高く売れるぞと教えてくれた。
売り飛ばすのもいいし、自分でさばいて食べるのもいいね。父ちゃんと森に掘りに行っていた時は、罠を仕掛けて鳥を獲っていたもんだよ。
わたしのパンに手を出したことを後悔するといい!
なんとか鳥を抱えたまま家に帰りつくと、入り口のところにシグライズ様がいた。
もう一人若いご令嬢……? ご令息……? ジャケットに七分丈パンツのとにかくお人形のように綺麗な若者もいっしょだった。
長いアイスブルーの髪にキャスケットを被っているが、ツノがないような気がする。
「いい朝だな、嬢ちゃ――――ん? なんだその鳥? 嬢ちゃんが飼うのか?」
「あれ? これ雲隠鳥じゃないか。よく捕まえたね? これちゃんと躾れば使い魔になるよ」
「そうなんですか? 使い魔? ……えと……あの、どちらさまですか……?」
「すまんすまん。紹介が先だな。この間教えた魔石屋の店主だ」
「はじめまして。ボクは『大地の宝』店主アクアリーヌ。よろしくね」
魔石屋さん! 行こう行こうと思ってて、後回しになっちゃってたんだ。
その店主さんは声も中性的で本当に男の子か女の子かわからない。でもアクアリーヌって女名だよね。ボクっ子さんだ。
「ノーミィ……ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグです。よろしくお願いします」
「ああ、爺様の名前を継いだんだね。また細工師がここに住んでくれてうれしいよ。――――魔石いるんじゃないかと思って、シグライズ様に連れてきてもらったんだ。いくつか持ってきたけど、どうする?」
「買います! 中にどうぞ――――こら、暴れるな!」
鳥め、無駄なあがきを!
アクアリーヌさんは笑うと、人差し指をくるくると動かした。
すると鳥の足に金色の足環がはまった。
「とりあえずキミの――ノーミィの魔力に鎖を付けておくよ。魔力を込めて命令すれば言うこと聞くと思う」
「えっ! すごいです! 食べるか売るかどっちにしようと迷ってたんですけど、考える時間ができました。ありがとうございます」
「あ……食べるんだ……。いえ、どういたしまして」
シグライズ様は案内しただけだからと言って、帰っていった。
店の中に入って、雲隠鳥を放してみる。
バサバサと慌てて遠ざかっていったけど、建物の中は窓が閉まっているから出られないはず。
「鳥、来い!」
魔力を込めると、遠くに飛んでいっていたはずなのに、ふわっと目の前に現れた。
「すご! 鳥、召喚された?!」
「あははは。使い魔はそんな感じで使役するんだよ。きちんと教えれば手紙の配達とかもしてくれる。空間移動系の魔物は使い勝手がいいんだ」
あ!
ミーディス様のカラス! あれもきっと使い魔なんだ!
鳥は不本意そうな様子だけど、わたしの腕にとまっている。
全体的に灰色で羽の縁や一部が濃灰色。見ようによっては緑にも見える。そして丸っぽいふっくらボディ。
――――なんかこうして見ていると、飼おうかなという気がしてくる……。これが情が移るってことか……。
「名前はクラウ。鳥、君の名前はクラウだからね?」
雲隠の雲のクラウドからとってみた。
『ギチギチ』
うっ、鳴き声がかわいくなくてかわいいな!!
寝て起きたら止まり木と餌台作ってあげよう。
くすくすと笑っていたアクアリーヌさんは、ショーケースの上に魔石の入った袋を置いた。
「それで、魔石は何をどのくらい置いていこうか?」
「光魔石を多くください。あと普通の魔石も」
「そうだね。光魔石、きっとすごく必要になるよ。シグライズ様があちこちで町の人たちにまた細工師が来たって教えているみたいだから」
「有難いけど、ちょっと怖いです……」
「光魔石は持って来ている分、全部置いていくね。支払いは
綺麗な青色の目が心配そうに覗き込んでいる。
「8銅貨にしようかと思ってます。魔石が1銀2銅貨だから、合わせて2銀貨でいいかなって」
「ええっ? 8銅貨?」
「あっ、高いですか? それならもうちょっと下げても……」
「違うよ、安いなと思って。爺様も1銀貨は取ってたよ。なんならもっと高くてもいいくらい」
「なら、8銅貨でいいかな……。掃除して魔石取り換えるだけならすぐ終わるので大丈夫です」
だって村にいた時はみんな自分たちでやっていたし、お金をもらうような仕事じゃなかったから。
それに、今まで高いお金出してランタン買っていた魔王国の人たちに、同族の罪滅ぼしもかねて。
お得意様になってくれたらうれしいしね。
「大丈夫です!」
重ねて言うと、アクアリーヌさんもうなずいた。
「うん、わかった。また様子を見にくるね」
アクアリーヌさんがひらりとうしろを向いた時、耳の形が魚のヒレのようなことに気付いたけど、そのまま見送った。
魔王国には本当にいろんな人がいるね。
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