幕間

第11話 ドワーフ国ダサダサ村の呪い


 ――――一方、地下にあるドワーフ国ダサダサ村では。


「入り口がまだ見つからないだか!」


「オイラたちの住む家はまだだか?!」


 村長とその息子ドワーフが足をだんだんと踏み鳴らした。


「んなこと言っても村長、見つからんものは見つからんだよ」


「そうだそうだ」


「あとは自分たちで探せばいいだ。わしらだって仕事があるだからな」


 暇をみつけては探してくれていた村の者たちも、とうとう呆れて帰っていってしまった。

 ノーミィの父の一族が代々住んでいた家は入り口が見つからず、土の壁があるのみ。今やどこに家があったのかもわからない状況だった。


 最後の住民だったノーミィの姿もない。

 追い出すと聞いて、家に立てこもっているのだろうと村長は思っていた。

 入り口の場所をわからなくするなど、どういうことか。

 あのドワーフではないおかしな生き物が、ただただ腹立たしい。


 あれの母親もおかしい生き物だった。

 大きさはドワーフとそう変わらなかったが、ひょろひょろとして色が違った。薄気味の悪い色をしていた。魔術師だとか魔法使いだとか噂されていたが、なんとも得体の知れない者よ。いなくなってよかった。

 他の村にはドワーフではない者も住んでいるが、この村は由緒正しきドワーフだけが住む村であるべきなのだ。


「――――見つからんものはしょうがないだ。諦めるだよ」


「くれるって言ったださ!」


「あとはおまえが自分で探すだな!」


 息子にそう言い捨て、場を後にした。

 家に戻ると魔石運びの仕事の者が待っていた。

 魔石は掘って磨いた物を村長が買い取って、まとめて外の国に売っているのだ。

 二束三文で買い取りそこそこの値で売っていたので、何もしなくても儲けが出るいい商売だった。


「なんだ? 何かあっただか?」


「それが、魔石の買い取り値が下げられただよ」


「な…………! どういうことだか?!」


「知らん。状態が悪いからこれまでの値じゃ買えないと言われただ。掘って磨いていたやつらが手を抜いているってことだか?」


「くそ…………!」


 村の者たちを家探しにこき使ったからだろうか。

 そういえば、あの薄気味悪いノーミィも魔石は納めていた。しかも量は多かった。だがそんな値を下げるほどの影響はないだろう。


 しばらくは輸出する魔石の状態に目を光らせる必要がある。

 悪い状態の物は持ってきた者に文句を言ってやり直させないとならない。

 余計な仕事が増え、村長はイライラと貧乏ゆすりをした。


 そこへ、今度は細工品運びの仕事の者が焦った様子でやってきた。

 細工品も村長が買い取りまとめて外の国に売っていた。

 特にランタンを重点的に輸出している。どんなに作りが悪くても、魔王国なら高値で買ってくれるからだ。


「村長! 魔王国のやつらが、うちの村のランタンはもう買わないと言っているだよ!」


「なんだと――――――――?!」


 魔石に続き細工品の輸出にまで問題が起こった。

 魔石よりも単価が高い分、金額も大きい。これが輸出できないとなると大変なことになる。


「品質の低い物を高値で売るような村とは、取り引きしないとよ! 他の細工品も買わんって言ってるだ! どうすだよ?!」


 どうせ同じ金額で売れるなら、質がどうであれ量産するのが得に決まっている。

 そう思っていたのに、まさかのしっぺ返しだった。

 一体、何が起きているというのか。


 そこへどこかからか話を聞きつけたらしい村人たちが詰めかけて来た。


「どういうことださ、村長!」


「金が入って来ないってことだか?!」


「だからちゃんと作らなダメだって言ったださ!」


「おめーに言われて作った分は、払ってもらわな困るだぞ!」


「そうだそうだ!!」


 こっちが外の世界に売ってやってるから金になってるというのに! 恩知らずどもが!

 村長は心の中で毒づいた。


 なんでこう上手くいかないことが重なるのか。

 せっかくよそ者の血が混ざった厄介者がいなくなって、これからよくなるはずだと思っていた矢先だったのに――――。




 村長も村の者たちもわかっていなかった。

 一度なくした信用は、すぐには取り戻せないということを。

 終わりの始まりは、たった一人を失ったことだったことも。


 ドワーフ国ダサダサ村は、廃村への一途をたどり始めた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る