第6話 ランタンの乱 4
夜食で中断したランタン掃除を仕上げて、ふと気付いた。
そういえば、ミーディス様に資材室や作業室を好きに使っていいと言われた。
ということは、質の低いランタンは溶かして新しいのを作ってもいいのでは……?!
ここは国で一番偉い方がおわす城、魔王城。
国で一番質の高いランタンが似合う場所。
思い立ったので、先ほどミーディス様から受け取った鍵で入れる部屋を全部見てくることにした。
今作業しているこの部屋は備品室3と扉のプレートに書かれていた。棚という棚全てがランタンに埋め尽くされた、ランタンの墓場。
そのとなりの部屋が備品室2だった。中はみっちりとランタンの墓場。
そのとなりが備品室1。半分がランタンの墓場で、残りは額縁とかドアノブとか細かいパーツなどだ。
危ない。わたしがいなかったら備品室4という名のランタンの墓場が増えるところだったってことだよ。
備品室1にはしごと台車が置いてあったので、借りていくことにする。
資材室へ行くと、木材、石材、鉄板などが大量に置いてあった。
あれ、ここに地金はないのか……。
そして最後の細工室の鍵を開け、部屋のランタンを点けた。
「わぁ……!」
広い部屋には炉と金床が置いてあり、棚には細工の道具たちが。
入り口近くのライティングデスクの他に、奥には作業机もありバーナーが設置されている。
その一角に錠前が鉄の格子の収納箱があり、地金が整理されて置いてあった。しかもかなりの量があるようだ。
ランタンはすべてオリハルコン製、ようするに真鍮で作ってあるということ。真鍮は扱いやすいから細工品によく使われる。
そのせいか真鍮はやはり多く、その他に金、銀、銅、そして
これだけあれば、ランタン作り放題だ!!
執務室にすっとんで行き、扉を勢いよく開けた。
「魔王様! ミーディス様! 地金使っていいですか?!」
朝よりも書類山が増えた机に埋もれる魔王様と、となりの机で部下らしき者に肩をマッサージされながら優雅に書類を見ていたミーディス様がこちらを見た。
「――――ええ。最高細工責任者が作業室の物を使っていけないことなどありませんよ。そうそう、収納庫の鍵も渡しておきましょう」
言質とりました! 地金使い放題です!
そして鍵を手渡されたけど、ちょっと複雑な気持ちで受け取った。
「ミーディス様……あの収納庫は元々あったものですか?」
「いいえ? 前任のドマイス殿がいたころはそのへんに置かれていたようですね。あの部屋の管理はドマイス殿が一人でされていましたので。亡くなってから、掃除の者が入るにあたって妙な気を起こさないように、収納庫にしまいました」
「ああ、なるほど……。ええと、あの錠前はピンがあれば開いてしまうんです……。ピンがなくてもあの部屋には鉄が切れるのこぎりもありましたし……なんならバーナーで収納庫の格子も溶かせちゃうんです……」
ミーディス様は目を点にしたのち、眉間を指で押さえた。
「…………ラトゥ、今、何か聞こえましたか?」
「収納庫から盗める方法なんてなんにも聞こえてないっす!!」
あ。ここで言っちゃだめだったのかも。
「――――魔王様、手が止まってます」
「す、すまぬ」
「――――ノーミィ・ラスメード・ドヴェールグ、これからはあの部屋はあなたが管理するから大丈夫ですよね?」
「は、はい! わたしがお掃除するので他の人は入らなくて大丈夫です!」
「よろしくお願いしますね。最高細工責任者殿」
かしこまりました! と答えて、急いで備品室へ向かう。
新たに仕分けと次の作業の見直しが必要。
できるハーフドワーフは知っている。段取り八分、仕事二分。作業前の準備をしっかりしておくと仕事が終わるのは早いのだ。
途中、通路に出しておいたはしごを持って、わたしは備品室3へ戻った。
まずは、質の高いランタンと質の低いランタンを分ける。
質の低いランタンはばらして素材にするので、片っ端から台車に載せる。
載せきれなかった分は棚の一番下の段へ。
質の高いランタンは直して使うので、ねじ穴がだめなものと、ガラスが割れたものと、どちらでもないものとで分けて置いておく。
棚の上の方もはしごで上って下ろして仕分けて。
二つめの棚の仕分けの途中で、コーンコーンとお城の時計の鐘の音が響いた。
それからちょっと後に、シグライズ様が顔を出した。
「嬢ちゃん、そろそろ帰る時間だぞぅ。飯食いに行くぞぅ」
「はい。すぐに終わらせます」
キリのいいところで切り上げて、シグライズ様と玄関へ向かう。
「さて何食べるか。嬢ちゃんは何食べたいんだ?」
「ツルツルっと――――いえ……今朝は帰って家のことをしようかと思うんですけど」
「そうかそうか。そうだよな、そういうこともしないとならんよなぁ。んじゃ、おっちゃんが帰って食べられるものをなんか買ってやるからな」
親切四天王様! このご恩はお給金が入ったら必ずや……!
魔王城の門を出ると、広場の露店は仕事終わりの者たちで賑わっており、大変楽しそうだった。
いつもこんななんて、毎日がお祭りみたい。
ドワーフ村ではこんな楽しそうな賑やかな場所はなかった。気難しいドワーフたちは大酒飲みであるけれどもみんなで楽しくは飲んだりしないのだ。
魔人のみなさんは怖そうだけど優しかった。そういう性質がこの場を作っているんだろうな。
わたしは露店の天井からつるされたランタンの明かりにうきうきするし、楽しそうな雰囲気にうれしくなるし、魔王国の方が好きだ。
たしかにわたしはそういう意味でも、正しくドワーフではなかったんだなと思った。
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