第12話安心させるために
「なんで居るの!?ってか始めるって何!?」
慌てて早口に言葉を紡ぐと僕は部屋の隅に隠れた。
(ってか何で部屋に入ってしまったんだ…!)
自分の数秒前の行動を後悔して身体を隠す。
「朝早くに家を訪れたらお母様が入れてくれたわ。進くんが帰ってくるまで部屋で待っていて良いって」
(母よ…。家の者が誰も居なくなるのに何をしてくれてるんだ…!警戒心は無いのか…)
一つ嘆息すると少しだけ冷静さを取り戻した。
「それで何を始めるんですか…?」
何故か敬語になってしまう僕を許して欲しい。
現在は恐怖や期待が綯い交ぜになった複雑な気分なのだ。
「何をってまずは目隠しぐらいからが良いかな?それに慣れたら手錠。必須アイテムは首輪だよ」
彼女は鞄から色々とアイテムを取り出して僕は嘆息する。
「不破さんが普通にしてくれたら僕はきっと別れの言葉を口にしなかったよ…」
そんな擦り付けるような最低な一言を口にすると彼女は何でも無いように一言。
「何か勘違いしてない?私も恋人が欲しかったじゃないよ?進くんが好きだからペットとして一生飼っていたいの。私の言ってることわからない?」
その言葉に僕は首を傾げると彼女は平然と続きの言葉を口にした。
「私の両親は事故で亡くなったの。私が学校に行っている間に。だから私は思ったの。好きな人を一生家の外に出さないで飼い続ければそんな最悪な死に方はしないでしょ?私に飼い殺された方がまだマシじゃない?最期は私も一緒に死んであげる。私には好きな人。つまりは進くんだけ居ればいいの」
彼女の闇の部分に触れると僕は何を思ったのか彼女を抱きしめる。
何故そのような行動に出たかと言えば彼女が寂しそうに映ったからだ。
「大丈夫。そんな極端な思考じゃなくても誰も簡単に何処かに行ったりしないよ。それに不破さんは聖女様でしょ?学校で一番の人気者の優等生。そんな不破さんから皆離れたりしない。大丈夫だよ」
僕は本心だが気休めのような言葉を口にすると彼女は僕の目を虚ろな瞳で覗き込んでこう言った。
「じゃあお父さんとお母さんはいい子じゃない私から離れたかったの?だから死んじゃったの?」
それを耳にして僕はやってしまったと先程の失言を後悔する。
思考を回転させると取り繕うわけではないがどうにか口を開く。
「そういうわけじゃないよ。だって事故だったんでしょ?それは不幸が重なった結果でしか無い。きっと不破さんのお父様もお母様も不破さんのことが大好きだったはずだよ。そうじゃなければ聖女様って呼ばれるほど出来た人間に成長できなかったはずだよ」
やっぱり僕は気休めしか口にできない。
彼女の両親のことを知らないし、彼女のパーソナルな部分を深く知っているわけではない。
それなので僕は誰でも言えるようなことしか言えない。
そんな自分を無力に感じる。
「じゃあ安心させて…。私が眠るまで側に居て…。両親が亡くなってから充分に眠ることも出来ないの…。子供の頃に両親と眠っていたときみたいに私を安心させて…?」
その言葉に頷くと僕はひとまず着替えを済ませる。
「じゃあ一緒に寝る?それで安心できるなら僕がその相手をするよ」
彼女は僕の言葉に頷くとベッドに潜り込んだ。
続いて僕もベッドに潜り込むと電気を消した。
「ゆっくり安心しておやすみ」
そんな事を言うと彼女が眠るまで僕は天井を見上げて過ごす。
すると突然彼女は甘えた声でこんな事を言った。
「胸を撫でて…?安心するから…」
生唾を飲み込むとそれに従って僕は彼女の胸を上下に優しく撫で続けた。
(精神衛生上良くない!理性を保つのがやっと!やばい!久しぶりに不破さんが可愛い!)
そんな不埒な思いが胸を覆い尽くす前に口内を強く噛んで痛みで理性を取り戻した。
しばらくすると彼女は静かな寝息を立てて眠りについた。
それを確認すると胸から手を離す。
彼女は寝ぼけながら僕の離した手を軽く握ってそのまま深い眠りに入っていく。
僕は眠りにつくことなど出来ずに彼女のことを考えた。
(恋人じゃなかったとしても不安定になった時に寄り添うぐらいは許してもらえるよな…)
誰に許しを請うわけでもないが僕はそんな事を思いながらしばらく天井のシミを数えて無心で居るのであった。
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