第11話益野白は恋愛が分からなかった

というわけでアラームでどうにか目を覚ますと支度を整えて海に向かう。

地元の海に向かうと朝からサーフィンなどをしているおじさんやお兄さんの姿がいくつもあって、益野白の居場所がわからず適当に海の近くのコーヒーショップに入店する。

「ここに来るって分かってたんだなぁ〜」

二人がけのテーブル席で益野白は先に飲み物を二つ注文して待っていた。

「お姉さんの奢りだよ〜」

因みにだが益野白は留年して二年生である。

本来は三年生であるのだが去年は体の不調から休みがちだったらしい。

というわけで今年は留年して二年生をもう一度やっている。

「奢ってもらう謂れはないんだよなぁ」

頬を掻いて席に着くと彼女は世間話程度に口を開いた。

「聖女様で何が不満だったのかな?」

その言葉を聞いて僕は嵌められたと勝手な思い過ごしをする。

警戒心剥き出しで逃げ出す準備をしていると彼女は首を左右に振った。

「いやいや。そうじゃなくてさ。学校一の人気者だよ?聖女様。少し性格に難があっても普通の男子だったら別れたりしないんじゃない?だって付き合えるわけのない高嶺の花なんだから。それに佐伯くんから告白したんじゃないの?どうして別れたかったのかな?」

彼女はわからないことをどうにかして理解したいようで必死に頭を悩ませていた。

「ごめんね。一方的に。分からないことがあるといつもこうなんだ。大概のことは分かっても分からないこともある。特に恋愛のこと。映画を観ても少女漫画を読んでも。私にはわからない。理解できない。もしも私が学校一のイケメンに告白されたらってイメージしても嬉しくない。佐伯くんが聖女様を振ったのもそういう事?」

僕は頭を悩ませて彼女の真剣な質問に正面から向き合った。

「うーん。僕の中でもハッキリと答えが出て別れを決意したってわけではなくて。多分とか、きっとって不確定な要素で別れたんだ。多分、面倒な性格してるんだろうな。きっと僕には合わないな。付き合って一ヶ月でそう思った。だから別れを口にしたんだよ。これからお互いが合わないのに付き合い続けるのは無意味な気がしてね」

そこまで話をすると彼女は少しだけ怪訝な表情を浮かべた。

「それって自分勝手じゃない?聖女様は今でも佐伯くんが好きなんでしょ?それなのに分かりもしない未来を勝手に決めて一方的に別れを告げたんだよね?それって別れたっていうのかな?」

僕は彼女が奢ってくれたコーヒーに口をつけると頭を悩ませる。

「なんて言えば良いんだろう…」

思考を巡らせた僕はしっくり来る一つのワードにたどり着く。

「怖かったんだと思う」

自分の分のコーヒーを彼女は飲みながら僕の言葉を咀嚼するように噛み締めていた。

「怖い?何が?」

「不破さんだけの僕になってしまうことが怖かったんだと思う。さっき益野さんが言った通りだよ。普通の男子だったら別れないかも。相手は聖女様だし性格に難があっても見過ごすと思う。ただうちの両親がそれで失敗しているから反面教師的な部分もあったと思う」

そこまで話をすると彼女は何かに納得したように頷いた。

「なるほど。ご両親の影響ね。わかった。事情があるなら理解した」

彼女は何度も頷くと険しかった表情を元に戻して普段どおりの彼女の表情に戻っていった。

「水着持ってきた?」

何でもないように話題は変化して僕は首を左右に振る。

「入る気か?朝は水温低いだろ」

彼女はそれを吹き飛ばすように豪快に笑って僕を連れ出して海に向かった。

洋服のまま海に飛び込んで観光客が来る間の数時間を遊んで過ごすと濡れた洋服のまま外を歩いた。

真夏の炎天下の中、濡れたシャツとジーンズを乾かしながら僕らは帰路に着く。

帰り道に彼女はふっと思いついたかのように口を開いた。

「何か分かりかけてる」

突然の一言に僕は意味がわからずにその言葉に首を傾げた。

「恋愛。もしかしたら欠陥品の私にも分かるかもしれない」

彼女は突然そんな言葉を口にして僕はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。

「どうした突然…。でも…分かったら良いな」

他人事のように返事をすると彼女はニカッと笑う。

「気付かせてくれたのは佐伯くんなんだけどね」

その言葉の真意を理解することが出来ずに首を傾げていると彼女は嘲笑うように一言。

「恋愛学。一から学び直したほうが良いんじゃない?」

そんな事を言ってケラケラと笑っていた。

服が乾いてから地元まで戻ってくると彼女はそのまま帰宅していった。

「夏休みは始まったばかり!また誘うねぇ〜」

「ってか盗聴アプリ消してくれよ…」

その言葉に彼女は首を左右に振った。

「本当に危険があった場合は助けに行くから。それ以外には使わないでおくよ」

僕は仕方なくそれに頷くとそのまま自宅まで歩いて向かう。

そこで思わぬ視線を感じる。

(最近敏感になり過ぎてるな…。誰かに見られてるだなんて自意識過剰だろ…)

そんな事を思って自宅までの帰り道を歩いているとその人物はヌッと目の前に現れる。

「これはこれは。我が校一番のラッキーボーイこと佐伯進くんじゃないか」

その相手は我が校の生徒なら誰でも知っている人物。

生徒会長の清涼院雅なのである。

「ん?何か潮臭いね。海でも行ってきたかい?」

それに頷くと彼女はある提案をした。

「海は危険だ。なので今度、父の経営するホテルのプライベートプールに招待する。連絡先は聖か白に聞くとするよ。では今日はこのへんで」

そう言うと彼女は颯爽とその場を後にした。

(生徒会長と一言も話した事ないのに…)

彼女に対して若干の恐怖を感じると今日はそのまま帰宅する。




帰宅すると母親は仕事に出ていて妹は部活に行っていた。

誰も居ない家に帰ってくるとまずは服を全て脱いで洗濯機に放り込んだ。

そのままシャワーで全身を洗い流すとバスタオルで拭いてそれを腰に巻いた。

着替えがあるのは自室なのでバスタオル一枚で家を歩き、階段を登って自室に向かった。

自室のドアを開けて…。

「きゃあっー!なんで不破さんがいるの!?」

よくわからない奇声と共に下半身を隠して着替えのある自室に入っていく。

「丁度良かった。このまま始めましょう」

そう言うと彼女はシャツのボタンを外し…。

(この後どうなっちゃうの!?)

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