第4話用意周到なヤンデレ

ここで私、不破聖が以前より佐伯進を狙っていた理由を話すとして。

一年生の頃から佐伯進は一匹狼を気取っていた。

本当は友だちに囲まれて充実した高校生活を送りたいのに一人で居るのが好きなのを装っていることにすぐに気付いた。

他人の目を見れば大抵のことは分かる。

何を望んでいて何に飢えているのか。

その愛玩動物のようなつぶらなひとみを見るたびに私の中の何かがうずいていた。

この感情を何と言うのかあの頃の私は理解できずに居た。

いつも目で追うようになってどんなときでも彼のことを考えてしまう自分を不思議に思った。

(もしかしてこれが恋…?)

そう思ったがすぐに頭を振った。

(そんなわけない。私にそんな感情は残っていない…)

そう思ったのも両親が亡くなったあの日に感情なんてものは何処かに置いてきたはずだからだ。

それでも私は彼を目で追い続けてしまう。

この感情に名前をつけるとしたら知識欲と支配欲かもしれない。

お気に入りのぬいぐるみを自分の手元にいつまでも置いておくような感覚。

もしくはペットを飼い続けるような感覚。

どちらも支配欲に似ていると言えるだろう。

そしてペットの生態をより知りたいと思う知識欲。

そんなわけで私は佐伯進に興味があるのだろう。

お気に入りのペットとして。

飼い殺して亡くなった後も肉が腐って骨だけになっても愛で続けるのだ。

そんな事を思っていたところに突然の告白。

これは千載一遇のチャンスだと思った。

だけど付き合っても彼は中々上手いこと言うことを聞かない。

彼は思い通りに動いてくれない。

主人である私の言うことを聞いてくれない。

私に黙って他の女子と話し、あまつさえデートに行くだなんて…。

先日彼の鞄に仕込んだGPSと盗聴器で行動はチェック済み。

私の言うことを聞かないそんな彼にはお仕置きが必要だよね…。




まずは早退した彼の家の前で待機。

そこでスタンガンで脅して私の家まで連行すればいいわ。

などと考えつつ私は彼が帰ってくるのを待っていた。

(早くこないかな…)

そんな事を思っているとそこに彼は姿を現す。

しかしながら隣には見覚えのない女子とふたりきり。

仲よさげに話をしていて私の怒りは爆発寸前。

だけどよく見ると二人は顔がよく似ている。

「お兄ちゃん。今日、お母さん遅いんだって。夕飯どうする?」

柱の陰に隠れているとその様な声が聞こえてきて私はホッと胸をなでおろすが…。

(妹だとしても私以外の女子と話してほしくないんだけどな…)

二人が家の中に入っていくのを確認すると私は数分置いてからチャイムを押した。

「はい?どちら様でしょうか?」

妹と思われる子の声が聞こえてきて私は声を繕って彼を呼びつけた。

「進くんのクラスメイトです。今日、早退したみたいなんですが学校に鞄を忘れていったので届けに来ました」

「わざわざありがとうございます。すぐに兄を呼びますね」

数分してから彼は出てきて私を確認すると身を捩って踵を返そうとする。

「そんなに警戒しないで。今日はこれを届けに来ただけだから」

そう言って彼が教室に置いていった鞄を差し出す。

「あぁ。わざわざありがとう…」

そこまで言って伸ばしてきた腕をガシッと掴む。

そしてそのままグイッと引っ張り彼の耳に口を近付けて冷たい口調で言葉を発する。

「何度も言わせないで?私以外の女子と話さないでよ」

彼は当然のように怯えた表情を浮かべていてそれがまた可愛らしく感じる。

躾に怯えるペットのようだと思った。

パッと手を離すと満足して笑顔を浮かべた。

声を元のものに変えると彼に軽く手を振る。

「今日はそれだけだから。じゃあまた明日ね」

それだけ告げると私は帰路に着く。




帰宅してベッドに潜ると先程の彼の表情を思い出して身を捩って悶える。

(本当に可愛いわね…!早く飼い殺してあげたいなぁ〜!私だけのペットにしたい!)

そんな事を思いながら先日、彼の鞄に忍ばせた盗聴器を確認する。

一音一句聞き逃さないように良質なヘッドホンを使って情報を聞き逃さないようにする。

ちなみに一度消えた盗聴アプリもこちらが起動させれば再インストールされる仕組みなことに彼はまだ気付いていない…。

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