死者との結婚(その20)

長い時間眠ってすっきり目覚めてブランチも食べたせいか、桜子は生気をとりもどし、みずみずしい感性がよみがえったように見えた。

コーヒーカップを手にしてベッドに座った桜子は、問わず語りはじめた。

ひそかに電源を入れると、状況を悟った可不可は、スフィンクスのポーズのまま身動ぎひとつせずに聞き耳を立てていた。


「三代続けて市会議員を務めた実家は江戸から続く名家で、。家業は不動産業です」

とシンプルに家系を紹介すると、

・・・父が若くして急死してから家は暗転した。

母はどこからか現れたひとり宗派の宣教師の鍬形に魅入られて、古民家を改造した教会を提供するまで入れ揚げた。

やがて熱狂する女性信者を周りに集めてハーレム化した鍬形に嫉妬した母が、結婚を迫った。

母と結婚してからは思いのままやりたい放題で、家業の不動産の商売にも口出しするようになり、古参の社員たちは辞めてしまった。

諫めるひとがいなくなった鍬形は、やがて義理の娘に結婚を迫って来た。

・・・桜子は、おおよそそんなストーリーを語った。


「言いなりにならなければ母を殺すと脅したのです。それで・・・」

桜子は唇を噛んだ。

義理とはいえ父親と娘が結婚などできるものだろうか?

・・・思いもよらない話を聞いて、ただ身がすくむ思いがした。

「狂ったように嫉妬する母が邪魔になった父は、莫大な保険金をかけて母を殺したのです」

「警察に行くべきです」

震える声でそう言うと、桜子は両手で顔を覆った。

可不可が微かに首を振った。

「ああ、結婚しなければ、君を殺すとおどしている・・・」

気を取り直して言うと、

「ええ、まあ」

と桜子はあいまいに答え、

「母にかけた保険金が半年経っても下りないと怒っています」

と新しい事実を口にした。

「お父さんが?」

「ええ」

「ああ、・・・ということは、保険会社も殺人を疑っているということですか?」

その時、インターフォンのチャイムが鳴った。

ぎくりとした桜子がベッドの上でからだを固くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る