死者との結婚~引きこもり探偵の冒険7~
藤英二
死者との結婚(その1)
夜10時きっかりにメールがあった。
夜昼逆転の引きこもり生活なので、夜10時はまだ宵の口だ。
「今夜、探偵さんの家に泊めて」
sakurako@のメールはその一行だけだった。
GPSは新宿の西口あたりを指している。
「ごめん。家は遠いし、スペースがない」
断ると、sakurako@は家出人サイトで泊めてくれるひと募集をはじめた。
放っておくと、30分ほどして、
「探偵さん、救けて!!!!!」
SOSマーク付きで、同じ子からメールが来た。
「どうしたの?」
メールを返すと、
「ホストにつきまとわれて・・・」
すぐに折り返して来た。
可不可を見ると、まだ充電中なので、スフィンクスのようにうずくまって目を閉じている。
本来なら、時給5千円で、かつ前金をもらって出動するところだが、
「緊急事態だし、それに暇つぶしにちょうどいいか・・・」
と軽く考え、
「分かった。すぐいく。どこかファミレスとかに逃げ込んで到着を待ってくれ」
とメールを入れたが、返事はなかった。
高層ビルの四角い影が折り重なるモザイクの下で、極彩色のネオンが妖しく輝く街、眠らない街、・・・それが新宿だ。
西口に着くころに、店の名前を伝えるメールがあった。
そこは、歌舞伎町の中央通りの裏手の24時間営業のファミレスだった。
ファミレスの駐車場にオンボロ車を入れ、ドアを開けて入ると、客はまばらにしかいなかった。
左手の奥に、20歳ぐらいのベレー帽を被った女の子が、見るからにホスト然とした金髪の若い男と向き合っていた。
「桜子さん?」
と声をかけると、
「あんただれ?」
金髪の若い男が目を剥き、顎を突き出して威嚇した。
「探偵です。この子からSOSを受け取ったので、救出に来ました」
「頼んだの?」
金髪男がたずねると、ベレー帽を粋に被った女の子は小さくうなずいた。
「救出も何も。・・・スカウトの商談中だよ」
「何のスカウトです?」
「デルモ。モデルだよ」
女の子をよく見ると、抜けるような色白で目鼻立ちの整ったきれいな顔をしているので、少しばかり胸がときめいた。
もっとも、家出少女をソープランドやデリヘルに送り込むスカウトマンも多いので額面通りには受け取れない。
「本人は明らかに断っています。ここはお引き取りを・・・」
頭を下げると、スカウトマンは舌打ちをして席を立った。
女の子と店の前に立つと、先に出たスカウトマンが、女の子を物色しながら、暗い舗道をぶらぶら歩いているのが見えた。
その彼が、角を曲がろうとしたとき、不意に金髪の頭が揺れ崩れ落ちた。
駆けつけると、金髪男は、苦しい息をして側溝板の上に横たわっていた。
抱き起すと、手で押さえた脇腹から血らしきものが滲んでいた。
「大丈夫か?」
たずねると、
「ああ」
と答えたスカウトマンは立ち上がってよろけながら歩きはじめたので、女の子のところへもどった。
・・・女の子は棒のように立ち尽くし、夜目にも白い顔は蒼ざめていた。
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