第14話 ケンの死亡と復活

 ー メランブラ女王の父親の屋敷 ー


 メランブラ女王の父親の屋敷は,王都から南西方向に40kmほど離れた場所にある。メランブラ女王は,この地にあっても,安穏とはしていられなかった。ひっきりなしに,王府の政務責任者から採択が山のように来ていた。


 この原因は何なのか?その理由は,充分すぎるほどわかっていた。王都の市民の命を優先して王都を放棄した結果だ。


 そのため,北方領域の魔獣どもに王都を火の海にされてしまったのは,少々予想外だったが,彼らが行わなくても,フララが遅かれ早かれ行うだろうことは予想された。


 王都については,時間をかえて再建すればいいだけのことだ。幸い,食料は充分にあるので,市民の命は守れうことができる。



 だが,メランブラ女王には,政務以外に頭痛の種があった。自分の結婚相手をどうするかだ。彼女はまだ24歳で未婚だ。もうそろそろ結婚したいのだが,適当な相手もいない。隣国の王子クラスが最適なのなのだが,隣国の王子はバカばかりで結婚する気になれない,というのが正直なところだ。


 メランブラ女王は,甥にあたるセダルを密かに結婚相手にしたかった。結婚できないまでも,情夫として自分のそばに置いておきたかった。今回のフララ討伐の命令は,王族であるという責務もあるが,セダルが無事に役目を果たせば,自分の結婚相手として公にできるという腹つもりもあった。そのため,討伐できなかったら死という背水の陣を敷いた。討伐できなくてもセダルを殺すつもりはないのだが,でも,その気概なくしては,到底倒せる相手でないことも重々知っていた。



 だが,世の中,そううまくは自分の思い通りには運ばない。なんと,セダルは,フララに,恋文とも取れるお触れを出したのだ。フララを捕まえることができない以上,それしかなったとしても,あまりにも軽率な行動だ。例えば,お金で釣ることもできたはずだ。調停を依頼することもできたはずだ。


 メランブラ女王は,いろいろと考えることが多かった。だが,その思考は,中庭に転移してきた者たちよって中断された。


 ボォーー-!!


 セダル,生前の姿をした魔体のフララ,女王秘書,ボボ隊長,ベベ隊長の5名が転移してきた。


 この場所は,セダルが小さい頃,よく過ごした場所だ。勝手知ったる中庭だ。セダルは,転移してきた仲間たちを本宅のほうに連れていった。


 だが,フララは急に立ち止まった。


 それに気がついたセダルは,フララに声をかけた。


 セダル「フララ?どうしたの?」


 フララは,返事する余裕はなかった。ケンから,緊急転送依頼の連絡が入った。それと同時に,ケンから,直近の記憶が送られた。


 その記憶は,次のような内容だ。


ーーー

 ケンは,仲間の上級魔法士5名と一緒に,北部領域の魔獣居住区へ,気球による攻撃部隊の一員となった。しかし,その居住区に着く前に,魔獣の飛行部隊によって墜落させられてしまった。幸い,気球に同乗の5名の魔法士は,全員風魔法を使えたので,地表に激突して死ぬことはなかった。だが,地表に無事に降りたケンたちは,竜魔獣部隊に包囲された。


 そこから,魔法合戦が始まった。ケンは,霊力を展開して,竜魔獣の魔力を封じようとしたが,その効果は低かった。というのも,竜魔獣の魔力が膨大すぎたのだ。しかも竜魔獣の精力と寿命エネルギーを吸収するつもりだったが,それもあまり効果はなかった。というのも,素早く動きすぎて,じっくりと吸収することができなかった。


 彼らは,魔獣軍団の中でも,トップレベルの攻撃力を有する部隊だ。S級の1000倍ものパワーを発揮できるTU級の魔法士集団だ。上級魔法士の5名がどうのこうのできるレベルではなかった。


 魔獣軍団の強烈な爆裂弾攻撃の前に,上級魔法士の5名は,次々と倒されていった。この地は,強力な磁場嵐のため転移魔法がまったく使えない。天然の転移防止結界があるようなものだ。転移で逃げれない。

 

 ケンは,うずくまって,自分の周囲の何重もの霊力の防御層を構築した。


 ボーン!!ボーン!!ボーン!!ボーン!!ボーン!!


 ケンへのTU級の爆裂弾攻撃が火を吹いた。爆発するたびに,何枚もの防御層が吹き飛んだ。それと同時に,また,防御層をすぐに構築していった。


 その,防御しているわずかな時間を利用して,ケンは念話でフララに緊急連絡した。フララの標的魔法陣による転移なら,磁場嵐があっても影響は受けない。


 そして,今,まさに,ケンがTU級の爆裂弾攻撃を受けているのだ。



 フララは,何も考えずに,標的魔法陣を起動して,ケンをこの場に緊急転移転送した。


 ボォーー!


 標的魔法陣が起動した。そして,うずくまった『雪生』の体をしているケンが転送された。と,同時に,ケンに接触していた爆裂弾の残弾が爆発した。


 ボーーーーン!!ボーーーーーン!!


 まったくの無防備状態だったセダル,女王秘書,ボボ隊長,ベベ隊長は吹き飛ばされた。フララだけは,防御層を展開できたので無傷だった。


 この状況では,転移してきた『雪生』の体をしているケンが敵だと,誰ものが認識した。女王のいる屋敷だ。SS級はおろか,US級の魔法士・剣士が10名も控えていた。



 シュワーーーー!シュワー--!!


 US級の剣士が10倍速の速度で,『雪生』の体をしているケンに向かって,魔法剣を放った。まさに,一瞬のことだった。


 フララは,爆風を防ぐことで一杯だったので,まったく動けなかった。


 シュパー!シュパー!シュパー!


 『雪生』の体をしているケンの首は,一瞬で飛ばされた。その首は,なんと,フララのところに飛んできた。


 ポン!


 飛んで来たその頭を受け取ったフララは,すぐにその額に自分の額を着けた。そして,ケンの霊体をフララの霊体に接触させた。これこそ,フララの特殊能力なのだ。


 フララは,何食わぬ顔して,『雪生』の姿をした頭をズタズタになった胴体のところに投げた。その後,頭やバラバラになった胴体は,アメーバ状になって,テニスボール状に変化して,透明になって消えた。いや,消えたように見えた。


 透明になったその霊体の塊は,フララの足元から這い上がり,股間部を経て子宮に侵入した。そして,そこにある霊力の塊と合体した。


 その時,フララは,さらに子宮にある霊力の塊から,強烈な意識を感じた。『さっさと早くこの世界を征服しろ!!』


 それは,当初からの千雪からの命令だ。いまさら,言われるまでもないが,その意識はかなり強烈だった。フララは,適当に曖昧に済ませて月本国に早く帰りたいという思い,セダルと楽しく過ごしたいという思い,そして,この世界を征服して千雪様に褒められたいという3種類の異なる思いが交錯した。


 

 護衛たちは,吹き飛ばされた女王秘書たちに回復魔法をかけた。彼らは,かなりの重傷であったが,優れた回復魔法士ばかりであったため,大事には至らなかった。でも,すぐには立って歩くことはできず,数日はベッドの中で過ごすはめになった。


 フララは,地に落ちていたケンの収納指輪を自分の膣の中にこっそりと隠した。そのことに気づくものは誰もいなかった。


 厳重な護衛のもと,フララは女王と面会した。ただし,その前に,厳しい宣誓契約を行ったのは当然のことだ。なにせ,フララと女王は初対面だからだ。



 ー 女王の執務室 ー


 メランブラ女王の執務室には,フララしかいなかった。女王は,フララが何者か知りたかった。コードネーム『チユキ』の仲間の可能性は高かった。もしかすると,『チユキ』本人かもしれない。どのみち,本人に聞けばわかることだ。


 フララが宣誓契約で同意した内容のひとつに,フララは女王に対して嘘をつかないことも含まれている。


 女王は,フララに聞いた。


 女王「フララ,あなたは,いったい,誰なの?コードネーム『チユキ』とどのような関係なの?」


 フララは,どのように説明していいか,わからなった。嘘はつけないが,余計なことまで話す必要もない。


 フララ「コードネーム『チユキ』は,セダル様によって殺されました。死亡したのは,肉体だけです。その霊体は,新しい魔体の体を得ました。この体です。今の体には,呪詛はありません。この裸体を写しても,何もおこりません。コードネーム『チユキ』は死亡しました」


 女王「そうなの,,,死んだの,,,意外とあっけなかったわね。セダルに『チユキ』を殺せるとは思ってもみなかったわ。それで,あなたは,これからどうするの?何をするつもりなの?」


 フララ「私は,セダル様とのんびりと過ごしたかったです。セダル様と甘い生活をしかったです。でも,,,それは出来なくなりました」


 女王「どういうこと?」


 フララ「この国の王都は,無人状態だったとはいえ,北部領域の魔獣で火の海にされました。もともとは,私の手で,火の海にするつもりでした。私の仕事を魔獣によって奪われました。それだけではありません。さきほど,ここに転送された者は,私の仲間でした。ここの衛兵に殺されたのは,意外でしたが,それについては,恨んでいません。当然の行動だったと思います。それよりも,ここに転送しなければならない程の状況に追い込んだ魔獣軍団を恨みます。私の行動は,単純です。魔獣軍団を壊滅させます。あとは,それからのことです」


 女王「あなたは,その魔体の体で,魔獣に勝てると思うのですか?」

 フララ「それはわかりません。でも,負ける気もしません。なぜかそう感じるのです」

 女王「・・・,そうですか。魔獣軍団の討伐は,隣国のガルベラ女王国がいろいろと作戦を練っていると思うのですが,彼女と協力はしないのですか?」


 フララ「それはないです。ガルベラ女王国は,ケンを,つまり,私の仲間を見捨てました。ケンと一緒に同行した魔法士は,すべて上級魔法士でした。多分,途中で,磁場嵐にでも影響を受けない特殊な転移魔法で逃げるつもりだったのでしょうが,奇襲を受けて,その機会を失ってしまったようです。このわたしが支配しているこの魔体は,ガルベラ女王国からの贈り物ですので,その恩はあります。それに免じて,ガルベラ女王国を壊滅させるのは,魔獣どもを征服してからにします。そして,そのあとこの国を征服します」

 

 女王「なるほど,,,そのような考えなのですか,,,この国には,セダルがいるのですよ。それでも,征服するのですか?」

 フララ「・・・,はい。そうします」

 女王「もし,セダルが国王だったら,どうしますか?」

 フララ「セダル様が国王だったら,,,私をお嫁さんにしてもらいます。それなら,征服したことになると思います。千雪様も納得すると思います」

 

 フララは,顔を少し赤らめた。


 女王「でも,セダルが国王になったら,お嫁さんは,一人だけではないわよ。わたしもセダルのお嫁さんの1人になるかもしれないわよ。それでもいいの?」

 フララ「はい。それは,かまいません」


 フララが北部領域の竜魔獣軍団を征服することに,女王は協力することにした。


 女王「では,北部領域の途中までかもしれないけど,飛行船を出してあげましょう。体力を戦いのために温存できるわよ」


 フララ「ありがとうございます。助かります」


 女王「じゃあ,1ヶ月後くらいに,ここに来てちょうだい。飛行船とサポート役の魔法士も何人かは準備しておくわ」


 フララ「ありがとうございます。では,諸々のことを片付けて,ここに戻ります。あの,,,女王様に,標的魔法陣を植え付けていいですか?転移に失敗しない方法ですので」


 女王「標的魔法陣?まあいいわ。あなたは,私に害を与えることができない契約ですしね」


 フララは,女王に標的魔法陣を植え付けた。そして,女王に別れの挨拶をして,その場から消えた。


 ーーーーーーー


 フララは,ナタハル領主邸にいるマイラのところに転移した。そこで,股間からケンの収納指輪を出して,ケンのヒト型の魔体を取り出した。そして,フララの霊体に接着していたケンの霊体をその魔体に移した。さらに,その魔体に,一定量の霊力と,ケンが使っていた『雪生』の体を構成していた霊力の塊も流し込んだ。本来であれば,女性の子宮に住まわせるものだが,ケンは,霊力使いとしては,かなりのレベルに達しているため,霊力の塊を,丹田の部位に収めることができた。


 フララ「ケン,どう?調子は?」


 ケン「フララ,助かったよ。フララの霊体の能力はほんとにすごいな。どんな肉体の能力にも勝るかもしれない」


 フララ「お世辞はよしてよ。ケン,あなたは,ガルベラ女王国から捨てられたのよ。わかる?」


 ケン「ああ,よく理解している。ガルベラ女王国は,やっと戦力の立て直しがほぼ終了したところだ。それで,俺を見限ったのだろう。それに,未確認だが,『超魔獣生命体』をこっそりと開発しているみたいだ。犬の姿で一緒に寝た女の子の仕事が,その開発に携わっていた」


 フララ「なるほど,,,北部領域の魔獣どもを征服したあとは,ガルベラ女王国の『超魔獣生命体』ともやり合う必要があるわね。ケンは,当面はここでおとなしくしてなさい。私が竜魔獣と戦うときは,呼んであげるから」


 ケン「わかった。楽しみにしている。それまでは,この魔体で霊力と魔力両方の修練を積んでおく」


 フララ「私もこれで安心だわ。じゅあ,またね」


 フララは,この場から消えた。


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