第5話ゴゲラート領主

 屋敷の主は,ガルベラ女王の従兄弟にあたるゴゲラート領主だ。この地域一帯の農作物を一手に管理している王族だ。王族のため,面接の審査は大変厳しいものがある。宣誓契約はもちろん必須になる。


 面接では,領主,奥様,息子,筆頭執事,筆頭護衛官という早々たるメンバーが揃った。


 雪生の外見は,化粧法を少し変更して,30歳くらいにした。胸元の大きく開いた娼婦が着る服装は,変更がきかなくて,そのままだった。両方で4kgにもなる,かつ張りのあるIカップが見事に誇張された。娼婦としても,30歳の年齢であれば,現役バリバリで大きくお金を稼げる体だ。


 雪生の着ている服は,幸い首をはねたのが魔体であったため,血で濡れることはなかった。多少,転んで土汚れが目立ったが,この長距離を歩いてきたので,それは許された。


 ゴゲラート領主「雪生さんだね?職業紹介所からの連絡では,1週間前に来る約束だったが,どうして遅れたのかね?」


 雪生「はい,その,ちょうど,森林を通るとき,なんか事件が起こったらしくて,怖くなって,翌日に変更しました。ところが,翌日から検問が厳しくなってきて,とうとう,ずるずると今日まで長引いてしまいました」


 ゴゲラート領主「この新魔界にはどうしてきたのかね?」


 雪生「はい。弟が不治の病になりました。それで,唯一助かる方法をいろいろ探した結果,ここまで来ることになりました。乙女教のアレンジです」


 ゴゲラート領主は,乙女教と聞いて,かなり安心した。


 タルベーラ夫人「あなたは,まだまだ若いわね。それに,その大きなおっぱいもしているし,失礼だけど,娼婦にでもなるほうが,はるかに稼ぎはいいと思いますよ」


 雪生「はい。こちらに来た当初は,娼婦になることも覚悟していました。事実,娼婦の仕事をしました。処女でしたので,処女を高く売りました。でも,弟が,どうしても娼婦の仕事を止めてくれといってきました。幸い,弟は,最初は犬の体でしたが,その優れた臭覚で魔鉱石を発見できて,大金を稼ぐことができました。ヒト型の魔体も入手できました。私が背負った借金もほとんど返済できました。そこで,もう,娼婦の仕事をやめて,少し楽な仕事として,こちらを選んだのです。もし,つらい仕事でしたら,すぐに辞めさせていただきたいと思います」


 ゴゲラート領主は,クスクスと笑った。彼は,雪生を採用することに決めた。


 だが,タルベーラ夫人は,不採用にしたかった。領主に納得させる理由を見つけたかった。こんな巨乳のメイドがチラチラしていたら,12歳の息子ダンの勉強に支障がきたしてしまう。


 タルベーラ夫人「あなたは,魔法が使えますか?いざっと言うときは,息子や私たちを守ってまらうことも必要になります。最低限の魔法は必要です」


 雪生「私は,魔法は得意でありません。でも,幸い,弟が私にこの魔法石の指輪2本をプレゼントしてくれました。大変貴重なものだそうです。いざっというときは,この魔法石の魔力で防御魔法を発動することは可能だと思います。上級程度の結界は構築できると思います」


 タルベーラ夫人「なるほどね。あなた,学力のほうは?」


 雪生「弟の学費を稼ぐため,15歳から仕事をしていました。それで,それ以降は,勉強する機会はありませんでした。暇々に魔法の修練程度はしてましたけど,,,」


 タルベーラ夫人「それでは,息子のそばには,おいておけないわね。悪いけど,不採用になるわ」


 息子のダン「お母様。私は,雪生が気に入りました。そばに仕えさせてほしいと思います」

 タルベーラ夫人「だめよ。学力もないし,娼婦も経験していたのよ。そんな人をあなたのそばにおいておけないわ」


 ゴゲラート領主「いやいや,娼婦を蔑視してはいかん。それぞれ理由があって,一生懸命頑張っているんだ。快楽のために娼婦になったわけではない。金銭的に余裕がでたら,きちんと娼婦を止めている。雪生さんは採用とする」


 タルベーラ夫人「あなた!こんな巨乳のメイドをダンのそばに置いたら,ダンが気もそぞろになって勉強どころではないでしょ!」


 息子のダン「お母様。雪生さんを採用してくれたら,今まで以上に一生懸命勉強します。もし,成績が下がったらお母様の言う通りにします」


 そんなことを言われては,タルベーラ夫人もどうしようもなかった。雪生を採用することにした。


 ゴゲラート領主は,雪生を採用するにあたり,宣誓契約の内容に同意するかを伺ってきた。その内容は,以下のような簡単なものだった。


1.メイドとして採用される期間中は,領主の家族に対して,いっさいの加害行為をしてはならない。

2.上記の期間中に,知り得た情報は終生公開してはならない。ただし,すでに公知の情報については例外とする。


 雪生は,この契約に同意して宣誓契約した。この日から,雪生は息子のダンを世話する専用メイドに採用された。


 ーーー

 雪生の日課

  

 ダンは,安全の理由から,学校には通っていない。まだ,自分で身を守れるだけの強さがないため,屋敷内で家庭教師を雇って,勉学と魔法の勉強をする日課だ。


 雪生は,自分の部屋をあてがわれた。午後7時以降は,基本的に自由時間だ。もし,仕事があるときは,別料金が発生する仕組みだ。雪生の制服はメイド服だ。胸が大幅に開いていてひらひらがついて,スカートもかなり短いものだ。下着は上下ともになしだ。へたすれば,乳首や股間の陰毛などが見えることもある。


 だが,これはダンの指定した服装だ。雪生だけの特別のメイド服だ。2,3日もすれば,雪生も化粧するのが面倒になり,地顔に戻った。15歳の超絶美人顔だ。


 ダンはもとより,周囲のあらゆる男性は,雪生を見ると,下半身を反応させた。だが,屋敷にいる手前,王族の屋敷でもあるため,下手な行動はできなかった。


 雪生の仕事は,ダンの着替えを手伝うこと,ときどきコーヒーか紅茶をダンに出すこと,お昼の休憩時間に,ダンとおしゃべりをすること,お風呂で,ダンの背中を流して,着替えを手伝うことくらいだ。その時折で,雪生の乳首が見えたり,陰毛が見えたりするのだが,お触りはタルベーラ夫人からキツく禁止されていた。


 雪生のダンへの役割としては,ダンの勉強のやる気をアップさせることだ。それだけで充分だ。


 雪生は,当面の目的があった。自分を一般人と同じように,魔力を帯びた体にすること。それによって,少しは,『霊力使い』とバレる可能性を低くすることが可能になる。だが,どうすればいいのかよくわからなかった。


 雪生は,ダンが家庭教師の授業を受けるときに,邪魔にならないように,ダンの後方に座って,奪った魔法書を読むのが日課になった。もっとも,ダンの向かい側に座ったものなら,まったく勉強が手に着かなくなるのだが。


 ー--

 数日後,いつものように,魔法書を呼んでいると,魔力を扱える記述があった。


 『妖力,霊力などの力は,一度魔力に変換する必要がある。熱渦流魔法陣を体に植え付けることで,魔力に変換させて魔力を発動させることが可能になる』


 というものだ。この文章を呼んで,雪生は嬉しくなった。早速,その熱渦流魔法陣を自分の体に植え付けた。


 雪生は心の中で思った。『フフフ,もしかして,これで魔法が使えるようになったのかな?』と。 雪生は,さっそく,基礎魔法の火炎を手の平から出してみようとした。


 ボボボボボォーーーーー!!!


 ろうそくの炎大の大きさのつもりだったが,もともと膨大な霊力を溜め込んでいたため,加減がわからず,サッカーボール大の大きさになってしまって,自分の服に着火した。


 雪生「キャーーーーー!!」


 その声に,魔法の指導教官がすぐに反応した。水魔法で雪生を水浸しにして服を消化させた。


 雪生の服はほぼ焼けて半分以上無くなっていて,ほぼ全裸状態だった。


 魔法の指導教官は,いつも半分反応状態だったが,完全に反応してしまった。ダンも,思わず下半身を押さえてしまった。


 雪生の「キャーー」の声に,近くにいたメイドが,ダンの勉強部屋にドアを強制的に開けて入ってきた。この状況を見て,そのメイドは,家庭教師とダンをにらみつけて,倒れていた雪生を抱きかかえて部屋から出ていった。


 家庭教師「まったく無実なのに,なんで睨まれないといけないんだ?」

 ダン「雪生さんの裸を見たのがいけないのでしょう。僕も,ときどきは,服の隙間から乳首とか陰毛は見ているのですが,あれだけの綺麗な裸体を見るのは初めてです」

 家庭教師「今日は,役得だな,勉強に戻るか」

 ダン「はい。俄然,やる気が出てきました。いずれは,雪生さんを私の愛人にしてみせます」

 家庭教師「そうか?じゃあ,俺は,彼女を性奴隷にしてやる。競争だな」

 

 ーーー


 ー ガルベラ女王の執務室 ー


 一方,その頃,ガルベラ女王の執務室では,大会議が行われていた。正規隊の,SS級魔法士ミレーニア,US級魔法士のウラバーレ,TU級魔法士のトレーランの3名は,新しい魔体を手に入れて,会議に出席していた。ほかに,バーミラン国軍隊長,王都憲兵隊のグブダ隊長も参加していた。


 ガルベラ女王「ミレーニア,ウラバーレ,トレーラン。どう?新しい肉体は?」

 ミレーニア「はい,ありがとうございます。女王様の精霊の指輪の力で蘇りました。感謝申し上げます」

 ウラバーレ「女王様,大変貴重な魔体をちょうだいいたしまして感謝申し上げます。」

 トレーラン「女王様,ありがとうございます。この魔体は,以前のようもさらに動きやすいです。魔力も豊富に収納できます」

 ガルベラ女王「それならよかったわ。なんせ,あなた方3名は,この国の要の魔法士ですからね。そう容易く死んでもらっては困りますよ。でも,どうして,あなた方3名が容易く殺されてしまったの?理解に苦しむのだけど?」


 ミレーニア「誠に申し訳ありません。一戦も交えずに,隙に乗じて殺されてしまいました。まったくの不覚です」

 

 ミレーニアは,事の子細を詳しく説明していった。


 ガルベラ女王「なるほどね。敵がわからなかったのね。敵の能力は,霊力なのね?かつ,精気と寿命を吸い取る能力があるというわけか,,,でも,吸い取るには,2,3分は時間が必要なのね。実際の戦闘になれば,その能力は意味がないわ。ともかくも,ポイントは2つ。一つ目は霊力を目視する能力を身につけること。二つ目は,敵の戦闘能力を見極めること。リスクのない方法でね」


 バーミラン国軍隊長「実際に,どうするのですか?」


 ガルベラ女王は,溜息をついた。まったく,自分で考えることをしないのだ,ここの連中は,,,これでは,千雪の関係者に負けても当然だと思った。だが,彼女は,それを口に出さなかった。


 ガルベラ女王「千雪は,魔界で大騒ぎをしたのでしょう?ならば,魔界に行って,千雪の関係者に霊力を目視する方法を探りなさい。絶対にあるはずよ。さんざん千雪にコケにされてきたのだから対策を打ってきたと思うわ。その際,私の指輪を持っていきなさい。万一,殺されても,霊体をスペアの魔体にもどすようにしてくれるわ」


 バーミラン国軍隊長「おおーー,すばらしいアイデアだ」

 グブダ隊長「同感です。女王がいれば,この国は安泰です」


 この言葉を聞いて,ガルベラ女王は,この国の未来は暗いと改めて思った。


 ガルベラ女王「お世辞はいいわ。次に,至急にその千雪の関係者がどこにいるかを突き止めなさい。突き止め次第,最強の魔獣でそこを襲わせなさい。魔獣は殺されてもいいわ。ただし,魔獣にビデオカメラを装着させて,魔法電波網で映像データを飛ばして,ビデオ録画していきなさい。あとで,詳細に解析して,必勝の方法をさぐるわよ」


 具体的な実行プランは,バーミラン国軍隊長が立案しなさい。


 バーミラン国軍隊長「了解しました。至急に対応します」


 具体的なプランといっても,女王の言ったことがすべてだ。あとは,誰を担当者にするかだけの簡単な仕事だ。


 その結果,ミレーニアが魔界に行って,霊力の目視方法を探ることになり,ウラバーレとトレーランが彼女らの部下を連れて,千雪の関係者,コードネーム『チユキ』の消息を探ることになった。もちろんナトルア市の国王軍支部隊やナトルア市の憲兵隊も総動員して,『チユキ』の消息を探らせることにした。



 ー ビデオ映像解析室 ー


 ビデオ映像の解析の仕事は,需要があり,一般の会社や個人業者でも対応する。雪生が客を取っている映像を映したビデオカメラは,現場担当者が,目隠しをしてビデオカメラを回収して,黒いクロスで厳重に包み込み,しっかりと袋に封をした。そして,一般の会社に持ち込まれた。ここに映っている女性の顔をアップにして,『大虐殺人犯!!指名手配中!目撃者は,至急以下の電話番号に連絡されたし!有益情報の場合,謝礼は金貨500枚!』の見出しを入れて,100万枚の印刷をするという仕事だ。


 データの加工会社,印刷会社および,印刷物の配布業者の3社が関与することになる。さらに,ネットでも配信する。誰でもその写真を見ることができるようにするのが狙いだ。


 ビデオカメラの編集を担当することになったのは,40代の中堅作業員ボカベンだ。ボカベンは,厳重に封印されたビデオカメラに違和感を覚えた。


 ボカベン「なんで,こんなに厳重な封印をしているのだ??絶対になにかいわくがあるな,,,この仕事,止めよう,,,」


 彼は,社長に言って,担当者を変えてくれと申し出た。体調がすぐれず,編集作業が迅速にできない旨伝えた。社長は,やむなく,若手の担当者のビルグラに振った。


 ビルグラは,まったく違和感を感じることもなく,まず,動画を流して見ることにした。そこには,な,なんと,とんでもない映像が映っていた。普通なら,超美人の雪生が客をといって,客をとるたびにおっぱいがだんだんと大きくなっていくのを見るにつけ,最高のエロビデオになっているのだ。それ以上に,3名の客が老化してミイラ化していく姿が恐怖そのものだった。そこまで見ると,エロさなど,微塵も感じることはできなかった。


 ビルグラは,この映像を見て,社長に文句を言いにいった。


 ビルグラ「社長,,,とんでもない仕事です,,,私,,,もう,ダメです。恐怖を感じて,仕事になりません。2,3日,休ませてください」


 ビルグラは,社長の了解もなく,会社を去っていった。


 社長は,頭を抱えた。とんでもない仕事だと思った。すでに,お金をもらってしまったし,,,やむなく,損をしてもいいから,下請けに出すことにした。


 下請けで受注したのは,個人の業者だった。アルバイト感覚でしている18歳の若者,ジブルダだ。彼は,いいお金になるので,単純にお金のために引き受けた。


 ジブルダは,ビデオカメラの映像を流して見た。ジブルダは,恐怖を覚えたが,それ以上に雪生の美しさと胸がだんだんと大きくなっていくことに異常な性欲を覚えてしまった。


 ジブルダは,さっさと指定された業務内容のデータ加工を短時間で終了させて,依頼元の会社にメールでデータを送付した。これで,ジブルダの仕事は完了だ。


 生データは,返却しなければならない。だが,ジブルダは,ダビングしてコピーを取った。その動画を見てオナニーするためだ。


 ーーーー


 印刷作業は,翌日実行された。特急印刷だ。そして,さらに2,3日かけて,ガルベラ王国の各都市の役所,劇場,集会場,旅館など人が集まるところに張り出された。


 その人物の写真は,世界的な美女モデルかと思われるほどの美少女の姿がそこにあった。胸元の乳首が見えないぎりぎりのところから上部の半裸体の写真だった。口を半開きにして,恍惚状態で性的に感じているような,セクシー満点の写真だった。


 すべての男性陣が,それを見て,オナニーをしてしまうようなポスターだった。


 このポスターがガルベラ王国の町中に張り出されて,数時間後には,このポスターが町中から消滅した。その後,各市の憲兵局に,ポスターがほしいという依頼が殺到して,憲兵局がパニクってしまった。


 だが,異変はこれからだった。


 ーーーー

 最初の異変は,ビデオの編集作業を行ったジブルダだ。彼は,両方で20kgを超えるほどの超絶おっぱいをした雪生の画像を何百枚もパソコンに保存して,かつ,そのデータをサーバーにも保存した。そのいくつかをA4サイズの紙いっぱいに印刷した。


 彼は,その超最高レベルのエロ画像で何度も自慰をしていった。


 彼は,自慰をしていくたびに,幸せな気分になってしまい,そのまま,気持ちよくなって昇天してしまい,息を引き取ってしまった。


 写真の上に放出されたネバネバの液体は,どんどんと精気を奪われて,褐色の粉状になっていった。


 次の異変は,編集作業を中止したビルグラだ。彼は,ビデオ映像を一通り見たことがあった。その時の恐怖が忘れられず,その恐怖が日に日に強くなって,耐えきれずに自殺してしまった。


 この2人の死は,公にはされなかった。


 その後,100万部の雪生のポスターが全国の集会場等で貼られた。だが,そのポスターは,すぐに盗まれた。盗んだやつは,もちろんオ自分をするためだ。


 彼らは,何度も何度も自慰をして,ポスターの上に大量のネバネバの液体を放出していった。その後,徐徐に精気を奪われていった。


 彼らは等しく幸せを感じて昇天してして息を引き取った。ただ,幸いにして,ポスターの胸に3分以上,触らなかった者たちは,死を免れることができた。だが,そのような者達はごく少数だった。


 各市の憲兵局に,若者の死亡報告がどんどんと出てきた。その死亡した若者は,すべて雪生のポスターを盗んだ者たちだった。


 ーーー


 ー 王府憲兵局 ー


 王府憲兵局では,もうてんやわんやの大騒ぎになってしまった。ぞくぞくと報告が上がってくる若者たちの死亡報告が,全国で2万件以上になってしまった。さらにその数は増加中だ。


 これには,ガルベラ女王も異常事態宣言を出したいところだ。女王の一声で緊急会議が開催された。


 ガルベラ女王「ボランガロ隊長!!これは,いったいどういうことなの??説明しなさい!!」


 ボランガロ隊長「あの,,,全国で,死者数が2万人を超えてきておりまして,まだぞくぞくとその数が増え続けている状況です,,,原因は,『チユキ』のポスターに原因があるのは,なんとなくわかるのですが,,,,なんで若者が死亡したのか,さっぱりわかりません。いそぎ,ポスターの回収を急がしていますが,すでにどこのポスターも盗まれてしまっていて,回収が出来ない状況になっています,,,」


 ガルベラ女王はがっかりした。まったく原因を追及することもせず,人任せにしてしまうという,この国の悪いところだ。結局,ガルベラ女王が陣頭指揮しないと,何も動かないという,どうしようもない組織だ。それぞれの能力は,高いし,月本国からの高度な知識は入ってくるのだが,『応用』という発想が非情に乏しい。これでは,月本国の科学技術が入っていない魔大陸のほうがまだいいのかもしれなかった。


 ガルベラ女王は,いくら怒っても意味が無いのはよくわかっていた。やむなく,ガルベラ女王は,担当者になったつもりで,詳細な状況の把握に努めることにした。


 ガルベラ女王「隊長,問題のポスターは,どこにありますか?」


 ボランガロ隊長「はい,すぐに持って来させます」


 ボランガロ隊長は,小隊長に問題のポスターを持ってこさせることにした。


 しかし,小隊長の帰りが遅かった。30分も経ってから,小隊長が戻ってきた。


 小隊長は,暗い顔をしていた。


 小隊長「隊長,,,本日,職員の300名の内,半数が出社していなかったのですが,皆,自宅で死亡しているのが判明しました。倉庫に保管してあった予備のポスター10万枚はすべてなくなっていました。隊員が密かに持って行ったものと思います。唯一,壁に貼ってあったポスターがありましたので,持ってきました」


 その話を聞いて,ボランガロ隊長が立ち上がったが,,,どこに怒りをぶつけていいのか,よく分からなかった。ボランガロ隊長は,また,椅子に腰掛けた。


 小隊長は,そのポスターを机に広げた。


 ガルベラ女王は,そのポスターをジロッと見た。一目見て,何かおかしいと感じた。それが何なのかは,よく分からなかった。ただ,霊的なものか呪詛的なものであるという直感が働いた。


 ガルベラ女王「隊長,この国の霊能力者,呪詛師を集めてください。インチキでもいいです。中には,本物もいるでしょう。大至急です。これ以上,被害者を出すのはよくないです。あらゆるメディアを使って,『チユキ』のポスターを回収しなさい」


 ボランガロ隊長「了解しました」


 ボランガロ隊長は,生きている部下を使って,この国にいる霊能力者,呪詛師を大至急招集した。数時間後には,10名ほどの霊能力者が集まった。


 ガルベラ女王は,問題のポスターを裏返しにして,その他の普通のポスター20枚も裏返しにした。ひとりひとりに,何か,異常を感じるポスターをピックアップしてもらうということをしていった。初日の10名は,いずれも外れだった。


 翌日は,30名ほどが集まった。だが,誰も異常なポスターを発見できなかった。


 ガルベラ女王は,ボランガロ隊長に少し文句を言った。


 ガルベラ女王「隊長,いくらインチキでもいいって言ったけど,これだけ偽物を呼ぶなんて,ちょっと,もう少し考えてよ」


 ガルベラ女王は,自国で対応するのは辞めにした。借りを創るのは避けたいところだったが,隣のメランブラ女王に依頼することにした。メランブラ女王国は,医療技術では,ガルベラ女王国に劣る感じだが,呪詛や禁呪などは,比較的流行っている国だ。そのため,呪詛師や霊能力者も多いはずだと睨んだ。


 メランブラ女王は,ガルベラ女王に貸しを作るよい機会だと意気込んで,総力を挙げて最高の呪詛師と霊能力者を探した。


 3日ほどかかったが,2名の候補者が選出された。メランブラ女王国の独自の判定方法で,インチキでないことを確認した。


 2名の候補者,ミケルダ女道士と霊能力者イダルバの2名が,ガルベラ女王国に派遣された。派遣といっても,女王国同士でゲートを開通しているので,一瞬でガルベラ女王国の到着ゲートに着いた。


 そこでは,ガルベラ女王が,自ら出迎えて待っていた。


 ガルベラ女王「ようそこ,我がガルベラ女王国へ。どうぞ,こちらにいらしてください。飲み物を用意しております」


 ミケルダ女道士「初めてお目にかかります。ミケルダと申します」

 霊能力者イダルバ「イダルバと申します。お目にかかれて光栄に存じます」


 ミケルダとイダルバは,女王自らのもてなしに,恐縮しつつも,最高級の紅茶をごちそうになった。


 その間,同席した憲兵隊のボランガロ隊長が,ことの顛末を報告した。


 ボランガロ隊長「魔界で大騒ぎを起こした千雪という名前は,知っていると思います。卓越した霊力使いと言われています。その千雪の部下が,千雪に命令されて,この国を征服しにやってきました。この国に殴り込みをかけてきました。我々は,彼女をコードネーム『チユキ』と呼んでいます。すでに,われわれの仲間が何名も殺されてしまいました。また,魔鉱脈の採掘現場の作業員や管理者などが,すべてチユキによって,精気・寿命を奪われました。その数,およそ60名。そこで,チユキを確保するため,一般から情報を集めるため,チユキのポスターを創りました。100万枚印刷して,この国の集会場,旅館などに貼ってもらいました」


 そこで,ボランガロ隊長は,溜息をついて,言葉を続けた。


 ボランガロ隊長「ですが,そのポスターは,すぐに,誰かによって盗まれてしまいました。それからです。続々と,若者の死亡が報告されてきました。死亡した若者の部屋から,そのポスターが出てきました。今では,死者数が20万人を超えて,,,もう数えることすらできない状況です。労働者・作業者が大幅に減って,社会機構が正常に動作しない状況に陥ってしまいました。ですが,,,いったい,何が原因なのか,さっぱりわからずじまいです」


 ボランガロ隊長は,丸まったポスターを開けることなく,机の上に置いた。


 ミケルダ「ゲー--! 何?これ!」

 イダルバ「や,ヤバーーー!」


 ミケルダ道士は,まだ,27歳そこそこの若い天才道士だ。数々の呪詛の解除に卓越していた。先天的にそのような才能があったようだ。一方,霊能力者イダルバは24歳。霊体は見ることができないものの,オーラーを見ることができ,かつ,悪霊,怨霊などもだいたいの位置を掴むことができる。


 その彼女らが,まるまったポスターを見て,恐怖を覚えたのだ。


 ミケルダ「これ,やばいです。若者が死亡するのも当然でしょう。その家族もかなり影響を受けるかもしれません」

 イダルバ「ここに,怨霊,悪霊が集ってきています。私は霊体までは見ることはできないのですが,転生できずにさまよっている霊体もいるでしょう。ポスターを廃棄処分すべきです。それに,ネット配信の画像もだめです。魔力電波網を使っているので,画像に魔力が注入されます。ミケルダの専門ですが,たぶん,なんらかの呪詛のようなものが施されているでしょう」


 ミケルダ道士は,光魔法陣を発動して,この場の周囲を光魔法で覆った。このようにすることで,悪霊,怨霊はもちろん,呪詛の発動もある程度抑えることができる。


 この状態で,ミケルダ道士は,おもむろに丸まったポスターをゆっくりと拡げた。


 そこには,服を着ておらず胸元から上部を映しているので,巨乳で胸元のくびれがはっきりとわかる,恍惚状態になった超絶美人の雪生の写真だった。


 霊感のない一般人なら,まさに最高のオナニーの対象となるエロ写真だ。


 ミケルダ道士は,亜空間から砂鉄の入った袋を取り出した。そして,その砂鉄を薄く写真の上にばら撒いた。

 

 ミケルダ道士「すいませんが,ここから数メートル離れてください。ポスターに隠れている呪詛の効力を強めますので,あなた方に影響がでるかもしれません」


 それを聞いて,ミケルダ道士以外のものは,部屋の片隅に移動した。


 ミケルダ道士は,光魔法の発動を中止して,こんどは,素の魔力をポスター上に加えていった。


 ザザザザザー--!!


 ポスター上の砂鉄は,何かに引っ張られるかのようにして,少しずつ移動していった。ポスター上には,いや,正確には,雪生の胸元に,クッキリと魔法陣が出現した。


 ミケルダ道士は,素の魔力の注入を中止して,また,光魔法で周囲を覆った。


 ミケルダ道士「もう大丈夫です。こちらに来ていただいて結構です」


 ガルベラ女王たちは,もとの場所に戻った。ガルベラ女王は,ポスターの上に出現した魔法陣を見て,ミケルダ道士に尋ねた。


 ガルベラ女王「ミケルダ道士,この魔法陣は何ですか?」


 ミケルダ道士「私も,こんな魔法陣を見るのは初めてです。この文字を見てください。古代の魔界文字です。これは,,,解析はできるかもしれませんが,2,3年はかかってしまいそうです。いったい,どこからこんな魔法陣を見つけてくるのでしょう?」


 ガルベラ女王「この魔法陣がポスターに映っているということは,すべてのポスターにも,同じように魔法陣が映っていると見ていいのですね?」


 ミケルダ道士「そうなります。しかも,ネット配信した画像にも写ってします。これから,ますます,被害がでてくるでしょう。すでに,私のメランブラ女王国にも,この画像は流れていると見ていいでしょう。早急に手を打たないと,この新魔大陸の男性が死滅してしまう可能性だってあります。チユキがこの新魔大陸を征服するのも,そう遠くない未来かもしれません」


 ガルベラ女王「われわれは,ポスターを創ったことによって,逆に,チユキの世界制服を手助けしてしまったという訳ですね?」


 ミケルダ道士「残念ですが,そうなります」


 ガルベラ女王「解除はできないの?解除できなくても,効果を減退させるような方法はないの?」


 ミケルダ道士「解除はすぐには無理です。でも,この魔法陣が,魔力とか精力とか,なにかを吸収するようなものだったら,元の体を破壊すればいいことになります」


 ガルベラ女王「なるほど,,,そうですか。よくわかりました。ほんとうにありがとうございます。ボランガロ隊長,至急に,チユキのネット配信の中止と,ポスターの回収,および,ポスターには呪詛が埋め込まれているという情報を流しなさい!!」


 ボランガロ隊長「わかりました。至急に,対応いたします」


 ボランガロ隊長は,この場から去って,すぐに行動を起こした。


 ガルベラ女王「イダルバさん,あなたの方では,何か,気になることはありませんでしたか?」


 霊能力者イダルバ「はい,このポスターの写真を見て,思うのですが,,,この方とは,敵対してはいけないと思います。潜在的なパワーは半端ではない気がします」


 霊能力者イダルバは,そう言ってから,言葉を繋げた。


 霊能力者イダルバ「私は,オーラを見ることができます。この女性は,人間ではありません。魔体とも違います。魔界の千雪が霊力使いという話を聞いて,もしかしたら,霊力というもので出来ているのかもしれません。さきほどいいましたように,潜在的なパワーは圧倒的です。US級,いや,もしかすると,TU級に匹敵するレベルかもしれません。もし,戦いを挑むなら,彼女がさらに力を身につける前に叩くべきです。時間を延ばせば延ばすほど,半年以上も時間を延ばしてしまうと,もう,勝てる見込みがかなり低くなるかもしれません。私が,アドバイスできるのはこの程度です。何も助けにもならず申し訳ありません」


 ガルベラ女王「イダルバさん。いろいろとアドバイスありがとうございます。この問題は,私の国,一国の問題ではすいまなくなって来ているようです。この状況は,メランブラ女王にもお伝えください。後日,彼女とは,チユキに対して共同戦線を敷いてもらうように依頼するつもりです。メランブラ女王には,事前にチユキの情報をより多く与えておいてください」


 霊能力者イダルバとミケルダ道士は,ガルベラ女王の依頼を引き受けてこの場を去った。


 国王秘書は,ガルベラ女王に尋ねた。


 国王秘書「女王様,今後は,どのように対応しましょうか?」

 ガルベラ女王「秘密裏に進めてきたハイパー魔獣軍団の開発を急がせなさい。3ヶ月で準備させなさい」

 国王秘書「3ヶ月ですか?ちょっと,無理があるように思うのですが,,,でも,時間を引き延ばすのもまずいですね。わかりました。TU級魔法士に相当するハイパー魔獣軍団3体の開発を急がせます」

 ガルベラ女王「よろしくね。我が国の最後の切り札だから,内密に行動してね」

 国王秘書「了解です。この開発を知るものは,王府では,私以外,誰も知りません。秘密が漏れることはありませんので,安心ください」


 ガルベラ女王は,ニコッと笑った。チユキの能力は,最大でもTU級魔法士レベルだ。ならば,ハイパー魔獣軍団3体をぶつけることで,勝機は必ずあると見込んだ。


 ーー

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