第4話藪採掘現場

 ー ナトルア市治安維持憲兵隊の隊長室ー


 雪生が壊滅させた採掘現場は,『林藪採掘場』と呼ばれている。その場所の森林が『林藪森林』と呼ばれているからだ。

 

 憲兵隊の事務所に,林藪採掘場の作業員の家族から,夫と連絡が取れないという報告がどんどんと上がってきた。憲兵隊の担当者は,やむなく隊長に報告した。


 担当者「隊長,この件,どう処理しましょうか?もう40件以上も,連絡が取れないという報告が来ていますが」


 この憲兵隊の隊長は,ナグダールという名だ。ナグダール隊長は,公務員気質の人物で,適当に時間を潰して給料をもらえばいいという発想をしている。特に,最近は,月本国からのアニメ番組のDVDを見るという趣味にはまってしまい,携帯にアニメのデジタルデータを入れて,職場でも暇な時にはそれを見るという日課を過ごしていた。


 担当者からの報告を受けて,ナグダールはどう返事をしようかと思っていたが,その時,ナトルア国王軍支部のジブルダ支部隊長が,血相を抱えて,憲兵隊の隊長室にやってきた。


 ジブルダ支部隊長「ナグダール!大変なことが起こっているぞ!林藪森林の近くに,魔界で大暴れした千雪の関係者が出現したぞ。そいつは,この大陸を征服すると豪語したらしい。すでに王都の国王軍には連絡済みだ。たぶん,今日,明日には調査隊がここに派遣されると思う」


 この話を聞いて,公務員気質のナグダール隊長も,少し真面目になってきた。


 ナグダール隊長「林藪森林?それって,林藪採掘場のそばじゃないか。そこに作業員が神隠しに遭ったという報告が続々と来ている。何か関係があるのかもしれんな」


 ナグダール隊長は,副隊長に命じて林藪採掘場の調査に向かわせた。それから,暫く経って,ジブルダ支部隊長が予想した通り,国王軍から派遣された編制隊の一行がゲートを使って到着した。


 編制隊一行のメンバーは3名だ。いずれも女性の魔法士で,SS級魔法士ミレーニア,US級魔法士のウラバーレ,TU級魔法士のトレーランだ。


 この新魔大陸では,男は怠け者で仕事をしないというのが定説になっていて,重要な任務は女性が行うことが多い。それに,男は夜になるとすぐに娼館に入り浸りとなり,問題を引き起こすことがしょっちゅう問題になっていた。


 この新魔大陸では,SS級という名称の他に,US級,TU級という表現を使う場合がある。もっとも,一般には知られていない呼び名だが,国王軍のような部隊ではその呼び名を使う。

 

 US級とは,ウルトラSS級魔法士の略だ。たまたま,US級の戦士が,魔体の体をベースにしているが,子宮組織だけを残している女性戦士がそれに該当したため,US級イコール子宮を残した魔体の女性戦士というイメージがついている。


 TU級魔法士とは,トップウルトラSS級魔法士の略だ。この表現も,たまたまTU級の戦士が魔体の体をしていたため,TU級イコール魔体の戦士というイメージがついている。


 一般に,この新魔大陸では,SS級はS級の10倍から100倍のパワー,US級は100倍から1000倍のパワー,TU級は1000倍から1万倍のパワーと言われている。


 魔界では,SS級が,S級の10倍以上というざっくりとした表現なのに対して,細かく分類されているのが面白い。


 国王軍支部隊の分隊長が,王都の正規軍から派遣された3名の女性隊員をつれて,兵隊の隊長室に来た。ここに,分隊長の上司であるジブルダ支部隊長がいると聞いていたからだ。


 分隊長が,連れてきた3名の女性隊員を皆に紹介した。お互いの自己紹介が終わったところで,女性隊員の中のリーダー格のミレーニアが,早速,本題に入った。


 ミレーニア「早速,本題に入りたいのですが,千雪の仲間に実際に遭遇した人物に会いたいのですが,手配は可能ですか?」


 ジブルダ支部隊長「はい,実際に遭遇したのは,契約兵で,ボダーラという女性戦士です。少々お待ちください」


 彼は,早速,ボダーラに連絡を取って,直接,憲兵隊の隊長室に転移してもらうことにした。転移座標点も連絡した。


 15分後,ボダーラがこの隊長室に現れた。そこから,正式な会議が行われた。


 ボダーラが,昨晩,遭遇した状況を詳しく説明していった。


 ボダーラ「以上が,昨晩,遭遇した内容です。その後,千雪の仲間は,どうなったのかは知りませんが,多分,藪に潜んでいた女性たちを連れて,このナトルア市に来たのだと思います。潜んでいた女性の数は,およそ10名ほどです。たぶん娼婦でしょう。この町の娼婦街を詳しく調べれば,昨晩の娼婦が見つかるかもしれません」


 分隊長「ですが,あの藪採掘現場で娼婦をしていたとなると,この町の娼婦街では雇ってくれない可能性が高いと思います。あそこで働くのは,かなり年増連中だと噂されていましたから」


 ジブルダ支部隊長は,皮肉たっぷりに,分隊長に声をかけた。


 ジブルダ支部隊長「お前はよく状況を知っているな。頻繁に訪問しているのか?」


 分隊長は,慌てて否定した。


分隊長「いえいえ,そんなことはありません。たまたま私の友人がそっちの方面に詳しいのがいまして,耳学問です。はい」


 ジブルダ支部隊長「ともかく,その藪採掘現場で働いていた娼婦を探すか,千雪の仲間を見つけるかだな。でも,簡単ではないな」


 ミレーニア「千雪の仲間は,千雪とそっくりな顔をしていたのでしょう?私は会ったことはないのですが,似顔絵を作って,報奨金を出してはどうですか?」


 ジブルダ支部隊長「おお,それはいい考えだ」


 ピピピピーーー,ピピピピーーー!緊急連絡ーー!!


 このとき,憲兵隊のナグダール隊長の携帯電話が鳴った。副隊長からだ。ナグダール隊長は,音声をスピーカーから出すようにして,副隊長と通話した。


 副隊長「大変です。調査員が2名ほど死亡しました!!」

 ナグダール隊長「何?何が起こった?」

 副隊長「それが分からないのです。この採掘現場には,人っ子1人いません。まったくの無人です。我々調査隊は8名で行動していました。採掘現場内部,管理事務所などを調査した後,娼館小屋と思われる部屋を調査していました。その部屋のひとつで,2名が息を引き取っていました。手にはビデオカメラを持っていました。でも,死因がまったくわからないので,そのまま一切触れずにしています」


 ミレーニア「隊長,わたしたちも行きましょう。ここにいては拉致があきません」


 ナグダール隊長は,同意して,副隊長に転移座標点を連絡させた。すぐに,彼ら全員が,転移魔法でその事件現場に到着した。



 ー 藪採掘現場の娼館小屋 ー


 副隊長は,正規軍のミレーニアたちを事件が起きた場所に案内した。2名の死亡した隊員は,そのままの状態で,いっさい手を加えずに,事件現場を保存していた。


 ミレーニアたちは,その死亡事件のあった場所の周囲を徹底して調査した。だが,原因がなかなかわからなかった。

 

 分隊長が,たまたま死亡していた隊員の持っていたビデオ画面を見てしまった。見るだけならいいのだが,分隊長は,『ビデオ画面を見ると,この部屋の表に貼ってあった宣誓契約違反になる』のではないかと思ってしまった。このことを思い出したことで,宣誓契約が発動してしまうのだ。


 うううーー,わかったーーーー!


 分隊長は,『わかったーー』と言い残して,息を引き取った。


 周囲の者は,何で分隊長が死亡したのか,まったく分からなかった。


 ナグダール隊長は,全員に号令をかけた。


 ナグダール隊長「全員,いったん,この場を去りましょう。このまま調査をすると,また犠牲者がでます!」


 全員は,同意してその場を去った。


 彼らは,この採掘現場の管理室に行って,そこで,死亡事件の原因を徹底的に議論した。死亡するあらゆる可能性を書き出していって,現場の状況を図示して,ひとつひとつ潰していった。机,椅子,ビデオカメラ,ベッド,ドア,カーテン,敷布,布団,水,コップ,照明,携帯,宣誓契約の内容,壁紙,などなど,どんなつまらないことでも,書き出して,そこから死亡に至る可能性を引き出していった。


 その作業は,丸2日かかった。


 その結果,ある可能性が浮かんだ。


 それは,もともと宣誓契約で,撮影禁止されている部屋なのに,何でビデオカメラがあるのかだ。誰かが持ち込んだのか?


 一番の可能性としては,宣誓契約違反で死亡したと考えるのが一番合理的だ。宣誓契約については,彼らはあまり精通していなかった。まったく,そのような契約をする環境になかったからだ。


 宣誓契約は,もともとは,敵対する者同士が,武力を行使しないでうまく取引をするために編み出された禁忌的な魔法だ。そのため,ここにいるだれものがその契約違反となる細かな条件は把握していない。


 ナグダール隊長は,ナトルア市管理局の契約部に務める契約部長を緊急招集した。彼は,中級魔法士なので,転移が使えない。そこで,ナグダール隊長自らが迎えに出向いた。もっとも,最近は,磁場嵐がひどく,S級魔法士でさえも転移に失敗して死亡する例がたまに起きている。そのため,最近では,よっぽどの場合でないと,転移魔法は使われない。


 契約部長がこの会議に合流してから,やっと解決の糸口が判明した。


 契約部長「なるほど,いままでの説明で,状況が理解できました。彼らの死因もだいたい理解できました。宣誓契約は,われわれにとっては,あまりなじみのない契約ですが,盗賊や強盗など闇の組織では,ごく一般的に行われる契約です。あの部屋でわざわざ宣誓契約をしている,ということ自体,そこで娼婦をしていた女性は,ただものではないということになります。それに,だれであれ,宣誓契約の内容を理解してしまい,かつ,自分の行った行為が『宣誓契約違反に当たる』と認識した時点で,魂が死んでしまします。霊体が破損してしまい,死んでも,転生できないという,もっとも重い死亡事故になってしまいます」


 ナグダール隊長「『宣誓契約違反に当たる』と認識することが問題なのか,,,ということは,この事件の場合,ビデオカメラを見ることで,撮影禁止に違反したと認識することが死に繋がってしまったのか?」


 契約部長「そう理解していいでしょう。ですから,私もだめですが,その状況をまったく知らないものなら,ビデオカメラの内容を見てもまったく問題ありません。ただし,後日,宣誓契約の事実を知って,宣誓契約違反と認識してしまうと,死亡してしまいます。ですから,もし,他の第三者に,ビデオカメラの映像解析をお願いするのであれば,この場にいる者たちは,いっさい,宣誓契約の事実を隠す,ということを徹底しなければなりません」


 ナグダール隊長「結構,厳しいものだな,宣誓契約って,,,」

 契約部長「もともと大変厳しいものです。でも,その扱いに慣れたものなら,たとえ誰が考えても『契約違反』だと見えるような行動でも,当の本人が心から『契約違反には該当しない』と考えれば,死ぬことはないです」


 ナグダール隊長「ほほう,面白いものですね。宣誓契約って,そういうものなのですか?」

 契約部長「ええ,それが宣誓契約の本質です。この事実は,なかなか一般には知られていませんが,悪の組織の連中にとっては,基本的な知識なんです。なんせ,自分の死と直結しますから,絶対に忘れることはありません。そのため,宣誓契約の条文については,よく吟味されたものが多いです」


 ナグダール隊長は,契約部長にお礼を述べて,彼を彼の事務所まで送ってあげた。


 死亡原因が判明してから,対策会議を行った。宣誓契約の内容を隠すこと,ビデオカメラの解析をどこの部署に依頼すべきかなど,多少時間がかったが,方針を決定することができた。だが,作業員や管理者の失踪調査,事件現場の保全など,することが山ほどあり,数日間はこの場所から離れることができなかった。


 

ー デラブラ市の乙女教の控え室 ー


 雪生は,9名の娼婦たちに,盗んだお金の一部を分け与えて,住み込みの家政婦の仕事に就かせることにした。5名をデラブラ市周辺の屋敷に,残りの4名をナトルア市周辺の屋敷に就かせることにした。家政婦の給与は安いので,いくらでも仕事はあった。


 彼女らの目的は,真面目に家政婦をすることではない。その美貌?と胸?で当主を籠絡させることだ。それが成功すると,雪生に連絡して,雪生が当主をユスるという美人局的な発想だ。これがうまくいくかどうかは不明だが,ともかくもそのアレンジをした。雪生は,娼婦たちに標的魔法陣を植え付けたので,連絡があれば,彼女らの場所に転移することが可能だ。尚,標的魔法陣による転移魔法は,磁場嵐の影響を受けないので,安全に転移することができる。


 ところで,マイラは,今,雪生と一緒に乙女教の控え室にいる。ケンと逢うためだ。


 しばらくして,ヒト型をしたケンが現れた。ケンは,微笑んで母に言った。


 ケン「お母さん,私が犬になっていたのは知っていたのですね?気を遣わせてごめんなさい。でも,やっと,本来の魔体を得ることができました。これも,すべて,雪生さんのおかげです」


 マイラは,雪生の両手を取って,感謝の意を示した。


 マイラ「雪生さん。ほんとうにありがとうございます。私たちの借金を全部肩代わりしてもらって,ほんとうに,なんてお礼をしていいのやら」


 雪生「そうですよ。私が貸主ですよ。今から,しっかりと住み込みで家政婦としてがんばってちょうだい。当主をメロメロにさせるのですよ。浮気させるのですよ。後は,私がいくらでも,ユスッてあげますから」


 マイラ「はい,他の皆さんからも化粧術を勉強しましたので,かなり美人顔にすることができます。なんとか,がんばってみます」


 雪生は,ケンに言った。


 雪生「ケン,マイラさんを仕事場の屋敷まで送ってちょうだい。その後でいいから,私に連絡してちょうだい。召喚して私のもとに呼び戻すわ」


 ケン「わかりました。私は,スペアで犬型の魔体もあります。必要に応じて,どの体も使うことが可能です。どの体で現れたらいいのか事前に指示してください」


 雪生「あらら,ケンも意外と使えるようになったわね。たのもしいわ。これなら,目的を達成するのもそう遠くないかもね,ふふふ」


 そう言った雪生自身も,実際のところ,世界征服など,夢の夢だと思っていたが,ケンは,すこぶる真面目に返答した。


 ケン「はい,私もかなりの魔力を蓄えましたから,今では,S級魔法士並のパワーがあります。徐々にSS級にレベルアップしていき,US級,最後には,TS級までレベルアップしていきます。雪生さんの『筆頭騎士』にふさわしい人材になってみせます。期待していてください」


 雪生「あらら,期待していいの?私の『騎士』さん?」


 ケン「はい,雪生さん,いえ,雪生様!!たった今,この場で,『雪生王国』が誕生しました。そして,雪生様が女王様です。私は,『筆頭騎士』です。その名に恥じないように頑張ります」


 雪生「筆頭騎士さん,じゃあ,マイラを見送っていってちょうだい。私も,家政婦の仕事に行くわ」


 

 ー ナトルア市 ー


 ケンとマイラが去った後,雪生は,当初,ガルベラ王国ナトルア市の職業紹介所から紹介された屋敷に向かうことにした。幸い,ガルベラ王国のナトルア市と,メランブラ女王国のデラブラ市は,共に新魔大陸の南方地域に位置しており,ナトルア市とデラブラ市は,距離にして30kmしか離れていなかった。そのため,馬車で移動するにも比較的容易だった。


 雪生は,デラブラ市からナトルア市の職業紹介所所に馬車で移動した。そこから,1週間前に紹介された屋敷に行くことにした。やっと,その屋敷に行けると思って感慨深かった。


 今の雪生の外見は,40歳くらいのおばさん姿だ。胸は,両方の乳房の重さが1.5kgにもなるFカップの胸だ。もとも顔が超美人なので,40歳くらいに化けたとしても,充分に美人で当主を誘惑するには充分だ。千雪の来ている服は,スカートのワンピースで,胸が充分にはだけていて,まさに娼婦の格好だ。


 雪生が世界征服できるとすれば,それは戦うことではなく,美貌と胸で,一国の国王か王子を籠絡して自由に操るという方法だ。雪生は,自分のFカップの胸を見て満足した。


 目的地の屋敷に徒歩で向かった。


 外見が40歳では,町中を娼婦の格好で歩いていても,誰も声をかけるものはいなかった。ちょっと,寂しい気がした。北側の城壁を抜けて,緑丘森林にさしかかった。こんな緑丘森林には,以前は,検問がなかったのだが,今は,憲兵隊が検問していた。


 雪生は,無垢な調子で,検問の憲兵さんに,質問した。


 雪生「憲兵さん,何かあったのですか?こんな道で検問があるなんて」

 憲兵「殺人事件だ。火炎魔法で人を消去したらしい。現在調査中だ。ここは通れん」

 

 雪生は,びっくりした。火炎魔法で消去しても,その殺人事件がバレるとは思ってもみなかった。やはり,このような検査に関する魔法科学技術は,魔界よりも数段レベルが上だと感じた。


 雪生「えええーー??じゃあ,屋敷には,どうやって行ったらいいのですか?」

 憲兵「迂回するしかない。道案内をするやつがいるから一緒に行け」


 憲兵は,下っ端の憲兵に途中まで道案内をさせることにした。その下っ端の憲兵は,雪生の胸元を見て,ニヤっと口元が緩んだ。


 下っ端憲兵「ついてこい。道案内してやる」

 雪生「はい。ありがとうございます。憲兵さんは,やっぱりやさしいのですね。何かお礼をしないといけませんね,ふふふ」


 雪生は,わざと,意味深な文句を述べた。下っ端憲兵は,この意味が,体でもお礼だと理解した。


 直線で行くところを,半円状のようにして迂回して行く途中で,茂みが多くある場所に来た。そこに来ると,下っ端憲兵は雪生に言った。


 下っ端憲兵「おばさん,さきほど言ったお礼をしてくれないか?あんたは娼婦なんだろ?一発やらせろ」

 

 雪生「わかりました。でも,服を汚したくありません。憲兵さんの服を下敷きにさせてください」


 下っ端憲兵「わかった」


 下っ端憲兵は,ズボンを脱いで,パンツも下げた。それを見た雪生は,ワンピースを脱いで全裸になった。雪生のきれいな玉の肌が露わになった。雪生は,憲兵の脱ぎ捨てられた服の上で横になった。憲兵は,もう我慢が出来ずに,雪生に抱きついた。


 それと同時に,彼は,どんどんと歳を取っていき,1分後には,ミイラになって,息を静かに引き取った。雪生は,名実ともに悪魔的な魔女になったようだ。


 雪生は,彼とその持ち物すべてを亜空間収納に収めた。これまで亜空間に収めたミイラは,すでにケンによって焼却処分された。


 この下っ端憲兵の精気と寿命はすごいもので,雪生のFカップの胸は,すぐに両方で2kgにもなるGカップの胸に変化した。


 身支度を調えてから,雪生は,何事もなかったかのように道なりに沿って歩いていった。しばらくすると,緑丘森林を越えて,草木が枯れた場所に出てきた。そこは,雪生が精気を奪った場所だった。


 雪生が精気を奪った場所は,1週間かそこらでは,まったく回復するようなものではなかった。たぶん,2,3年ほどかかると思われた。


 感慨深そうにして,林藪森林の方向に歩いていくと,前方から,軍隊の一団がやってきた。彼らは,憲兵隊のナグダール隊長や正規軍のミレーニアたちだった。契約兵のSS級魔法士ボダーラが雪生に遭遇した場所を視察するところだった。


 ボダーラが先頭を歩いていて,彼らに,どのようにして遭遇したかを説明していた。


 ボダーラ「ちょうど,あのおばさんのいるところで,千雪の関係者にあったのです。年齢は15歳くらい。中肉中背で胸の大きさなども,ちょうどあのおばさんと同じくらいでした」


 その説明を聞いて,ミレーニアが反応した。


 ミレーニア「じゃあ,あのおばさんを15歳にすれば,千雪の関係者とそっくりになるということですね?」


 ボダーラ「そうです。まさにそうです,,,」


 ボダーラは,15メートルほど先で歩いてくる雪生をまじまじと見た。どうみても,40歳にしか見えない『おばさん』だ。だが,共通点があった。魔力の波動がまったく感じられない。魔法が使えない人は普通にいるし,その人たちは魔法の波動を発することはない。だが,ここは新魔大陸だ。魔界ではない。魔界からここに来るには,そのような魔法が使えない『カス』のような人材が来るようなところではない。


 だが,勝手に難癖つけるわけにもいかず,ボダーラはその『おばさん』を素通りさせることにした。


 雪生は,相手が,1週間前にあった魔法士であることがすぐにわかった。だが,なにくわない顔で,少し微笑みを浮かべて,軽く会釈をして,彼ら一行を通り過ぎようとした。


 その時,ボダーラは,『おばさん』の難癖をつけるべき点を見いだした。



 「おい待て!!」


 ボダーラは,『おばさん』を引き留めた。


 『おばさん』の振りをしている雪生は,ギクッとした。この姿で,バレてしまったのか?しかも,相手は,ボダーラひとりだけではない。憲兵隊のナグダール隊長,国王軍支部のジブルダ支部隊長,王都からの正規軍であるSS級魔法士ミレーニア,US級魔法士のウラバーレ,TU級魔法士のトレーランの6名だ。今の雪生が戦って勝てる連中ではない。それに,魔力の能力が高い連中は,それだけであらゆる攻撃からの抵抗力が高い。


 雪生は,しばらく,時間稼ぎと,男連中から精力を奪えるかを試した。


 雪生「え?私ですか?」


 雪生が声を発したことで,よけいにボロが出た。その声は15歳の声だ。とても40歳の声ではない。声を出して,始めて自分がなんてバカなんだろうと思った。ここは,聾唖者の振りをすべきだった。


 ボダーラ「そうだ。お前,その指にしている指輪はなんだ!魔法石だろう?そんな高価な魔法石の指輪を2本もして,どうやって手に入れた?まさか,盗んだのではないだろうな!」


 ボダーラは,うまい具合に難癖をつけることができた。


 雪生は,ギクッとした。


 でも,霊力を地中に這わして,男たち2名を足元から全身を霊力で覆って,精力をこっそりと奪うことは忘れなかった。同時に精力を奪えるのは,今の雪生の能力では2名が限界だ。今,雪生ができる戦略は,時間稼ぎだった。


 雪生「え?この指輪ですか?えーーと,そのーー,あの,,そうそう,あの,,,息子がひとりいまして,,,その,,,あの,,,息子が,,,,私の誕生日なので,,,その,,そのお祝いで,,,あの,,,」


 雪生は,15歳の声をできるだけ,おばさん風にしようと,押し殺して,言葉をしどろもどろにした。


 業を煮やしたボダーラは,『おばさん』に怒鳴った。


 ボダーラ「なんだって,もっおとはっきり言いいなさい。盗んだものなら,今からお前を逮捕して牢屋に放り込むぞ!」


 ボダーラは,雪生に時間を与えなかった。


 それでも雪生は時間稼ぎの方策しか手はなかった。


 雪生「はいはいはい,はっきりと言います,言います。そうそう,今,はっきりと思い出しました,最近,とみに物覚えが悪くて,時々,完全に忘れてしまうのです。今,はっきりと思い出しました。はい。はっきりと思い出しました」


 雪生は,ここまで言ったものの,肝心なことはいっさい言わなかった。


 ここまで時間を稼ぐと,次に精力の寿命を奪い始めた。この霊力による精力と寿命を吸収する際は,相手にほとんど吸収されるという自覚を与えない。それが,この能力の怖いところだ。


 雪生は続けて答えた。


 雪生「はい,実は,息子がいて,名前はケンタといいます。ケンタは,この新魔大陸に来て,一生懸命働いてお金を稼ぎました。そして,そのお金で,私に,この貴重な魔法石の指輪をプレゼントしてくれました。今,はっきりと思い出しました。私は,こんな貴重なものは,いらないと言ったのですが,でも,,,,」



 ドター-!!

 ドターー!!


 このとき,国王軍支部のジブルダ支部隊長と憲兵隊のナグダール隊長が,老人の顔からどんどんとミイラ化して地に倒れた。


 「え? 何?」


 ボダーラだけでなく,SS級魔法士ミレーニア,US級魔法士のウラバーレ,TU級魔法士のトレーランの3名も,何事が起きたのかと騒いだ。


 雪生「キャーー! 人殺しーーー!」


 雪生は,びっくりした振りをして,その場に尻餅をつく演技をした。そのときから,雪生は,次のターゲットをボダーラとミレーニアに向けた。すぐに彼女らの全身を霊力で覆った。


 雪生のこの下手な演技ではあったが,ボダーラたちは雪生を犯人候補から外してしまった。


 雪生のおっぱいは,Gカップから両方で4kgにもなるIカップの胸に変化した。だが,女性たちは,胸にはあまり興味はなかったので,その変化には気づかなかった。


 王都からの正規隊3名とボダーラは,お互いを背に向けて4方の方角に敵がいないかを注意した。

 

 1分ほど注視してから,ボダーラは正規隊の3名に声をかけた。


 ボダーラ「どう?そっちの方向に敵は??」

 ミレーニア「遠方には,数名の人影はあるけど,どうも敵ではないようだわ」

 ウラバーレ「こっちの方角にはだれもないわ」

 トレーラン「私の方向にも,誰もいないわ」

 

 この時,雪生は時間稼ぎのため,遠方に人影のある方向に指差しした。


 雪生「なんか,向こうの方に,変な波動が感じられます」


 その言葉に,4名とも,全員がその方向に注視した。


 10秒経過,,,20秒経過,,,


 ドターー!!

 ドターー!!


 ボダーラとミレーニアがミイラ化となって地に倒れた。


 シュパーー!シュパーー!


 その時だった。ウラバーレとトレーランの首が胴体から離れて勢いよく飛んだ。


 雪生は,加速ができた。今では10倍速が可能だ。その速度で,ウラバーレとトレーランの首を手刀で刎ねた。


 一瞬の隙をついた行動だった。雪生は,悪霊大魔王出身だ。霊体さえも認識することができる。


 ボァー! ボァー! ボァー!


 な,なんと,ミレーニア,ウラバーレ,トレーランの3名の霊体に転移魔法陣が出現して,霊体が消えてしまった。


 それを見た雪生は,背筋が凍った。


 雪生「や,やばーー!もしかして,とんでもない連中を敵に廻したのかもしれない,,,霊体を転移するなんて,とんでもないわ。どんな魔法なの??奇想天外の魔法だわ!!浄化されて消える前に,魔体の体の中に収納させる気だわ,,,,あーー!やばい!」


 雪生は,独り言を吐いた。だが,もう遅い。遅かれ早かれ,雪生の能力はバレる運命だ。雪生は,すぐに家政婦として身を隠すことにした。当面は,露骨な行動は控えなければならないと切に感じた。この場は,敵の隙に乗じて勝利を収めることができたが,もうこんなラッキーはないはずだ。雪生は徹底して戦闘力のレベルアップに励まないといけないと感じた。


 雪生は,死体と付随品をすべて亜空間収納にいれて,何事もなかったかのように,検問のある林藪森林の入り口に来た。ここでも同じように半円月状に迂回するように指示された。今回は道案内はなかった。


 そして,それから3時間後に,やっと目的地の屋敷に着いた。


 ーーー

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