第3話パスワード解除
ー 雪生の部屋 ー
雪生が客を取る部屋に来てから30分が経過した。雪生の部屋の入り口には,注意事項が大きく書かれていた。
『宣誓契約により,女主から客への魔法攻撃・物理攻撃を禁止する。同様に,客から女主への魔法攻撃・物理攻撃を禁止する。室内の撮影を禁止する。定められた時間は厳守すること。これに違反したものは,宣誓契約違反により,死刑に処す』
この注意事項は,大変厳しいものだ。だが,この記載があるため,客は安心して遊ぶことができるのも事実だ。
だが,例外はある。
それが雪生だ。霊力による攻撃は例外になる。
客3名がこの部屋に入って全裸の雪生のそばに来て,客が服を脱いで,下半身を反応させようとすると,その場所から,どんどんと精気が奪われていった。
3名の客は,どんどんと精気・寿命が奪われていき,見る間にミイラ化していった。その速度は,3分もかからなかった。だんだんとミイラ化していく速度が速くなっていくのが分かった。それは,雪生の能力ではない。霊力の体自体の持つ力だ。それが,ますます開発されてきた。
ミイラ化になった屍と,付属する物品はすぐに亜空間に収納した。かくして,魔鉱脈の採掘作業員の全員が,3時間の間に雪生を抱きに来て,ミイラ化されて殺されてしまった。
その後,盗賊団の団員が一名ずつ来たが,性行為をする暇もなく,ミイラ化されて殺されていった。
最後に,団長の番となった。だが,本来なら,団長を呼び来る団員がいるはずなのに,呼びに来ないのだ。疑問に思って,団長が団員を探そうとするも,だれも発見することはできなかった。唯一いたのは,雪生だった。
雪生は,相変わらず全裸の姿だった。
団長は,全裸の雪生を見たが,あまり興奮しなかった。というのも,この異常事態は雪生に関係していることが明らかだった。
団長「雪生さん,団員や採掘作業員はどうしたのだ?」
雪生「皆さん,裏口から帰っていきましたが,それがどうかしましたか?」
その返答に,団長は何も言い返せなかった。やむなく団長は,隠しビデオカメラの映像を見ることにした。その行為は契約違反になる。だが,安全管理上やむを得ない場合は,見なければなならない。そのビデオカメラは,月本国製の高性能ビデオカメラだ。このビデオカメラは,団長が設置したものではなく,万一のために,設置しているもので,いやらしい目的のためではない。そのため,契約違反にはならないと信じている。
団長が,ビデオカメラを巻き戻して,再生させると,そこには,採掘作業員が徐々に老化していき,しまいにはミイラ化して息絶えている様子がはっきりと映っていた。
団長「な,なんだ,これは!」
団長は,雪生の方を見て怒鳴った。
団長「雪生!お前がみんなを殺したのか!」
ビデオカメラに写っているのを見られては,雪生も何も反論はできなかった。
雪生「そうです。私がみなさんを天国に送りました。でも,契約違反をしているわけではありません。契約違反をしているのは,団長さんです。ビデオカメラで撮影していたのですから,明確な契約違反になります」
団長もそれを言われては,返答のしようもない。確かに契約違反に違いはない。だが,,,
団長は,言い返そうとしたが,団長自身も,『契約違反には違いはない』と自分で認めたことにより,宣誓契約の違反行為が成立してしまった。
ううーーーあぁぁーー!
ギャーー!ぐぁぁーー!
団長は,急激な苦痛で,悲鳴を上げた。だが,それは,さほど続くものではなかった。
そのまま,団長は,床に倒れて絶命してしまった。
宣誓契約違反の厳しいところは,霊体が破壊されて,完全に死滅してしまうことだ。転生する機会さえもなくしてしまう恐怖の契約だ。
それを,団長自らが認めたことにより,この契約違反による処刑が実行されてしまった。
この処刑は,霊体の破壊にある。肉体は,なんら損傷はない。そこで,雪生は,この霊体を失った肉体から精気と寿命を奪うことにした。
シューーー! シューー! シューーー!
団長の肉体から精気と寿命が奪われていった。50代,60代,70代,80代,90代,,,そしてミイラ化になって干からびてしまった。
雪生の胸は,60人以上もの精力と寿命エネルギーをおっぱいに蓄えてしまったので,片側だけで12kg,両側で24kgにもなる両側でにもなるZカップを超える超巨大なおっぱいになってしまった。
これでは,家政婦としての仕事を全うすることはできない。
雪生は,亜空間からスペアの肉体を取り出した。そして,雪生の霊体は,スペアの肉体に移動した。そして24kgにもなってしまった霊体の体を亜空間に収納した。
雪生は,肉体の交換を,破損ではなくエネルギー貯蔵タンクとして使用してしまった。
雪生は,Bカップの新しい肉体に変更してから服を着て,この採掘現場で娼婦をしている女性たちのところに移動した。状況を説明するためだ。
この採掘現場では10名の娼婦たちがいた。雪生は,娼婦たちにこの作業現場は閉鎖になり,作業員全員がいつの間にか消えたと説明した。もし,ナトルア市に戻るのであれば,及ばずながら雪生が護衛代わりに一緒に付き添うことことを提案した。
彼女らは,ここにいても商売にならないので,夜道になるが,2時間かけてナトルア市に向かった。
このような場所で働く娼婦は,あまり人気のない連中だ。年齢も,一番若くても38歳だった。
採掘現場のある森林を抜けた後,もうひとつの森林を通過する必要がある。雪生も娼婦たちも,男どもに襲われて犯されるのは構わないが,体に傷をつけられるのだけは困る。商売に支障がでるからだ。
雪生が護衛を申し出た手前,しっかりと護衛を務めなければならない。周囲に気を配って,夜盗どもがないかを注意した。
この森林の出入り口には,見張りの下っ端夜盗がいた。彼は,罰当番として,1週間毎夜この場所で見張りの役目を言い渡された。
下っ端「チェッ!!今頃,ボスたちは女たちと遊んでいるんだろうなぁ,俺も早くあんな身分になりてぇーー!」
彼は,独り言を言ってぼやいていた。夜の見張り役など,ほとんど意味がないと思っていた。だいたい,真夜中にこんなところを通るやつなんていないからだ。
だが,何事も例外はあった。下っ端は,女性の一団が歩いてくるを感知した。下っ端と言っても上級魔法士だ。それに,剣技もある程度,収めている。接近戦では,剣技のほうが役に立つ場合が多い。そのため,基礎的な剣技の修得は必須項目だ。
下っ端は急いで緊急メールをボスに送った。
『女性の一団約10名が通行中。9名は娼婦風。1名は護衛と思われるが若くて超美人。男性の護衛なし!』
ー ナトルア市の娼館街のある娼館 ー
この夜盗のボスは,緊急メールを受信した。隣でボスの相手をしていた娼婦は,ボスの代わりにそのメールを読み上げた。
ボス「なるほど,,,女性の護衛か,,,よっぽど,腕に自信のあると見ていいな。よし,緊急招集をかけろ。SS級剣士のドブラとSS級魔法士のクリルも呼べ!万一のためだ。集合場所は,緑丘森林の3番ゲートだ!俺も,すぐに行く!」
ボスの相手をしていた娼婦は,普段は,別の客をとっているのだが,夜だけは,ボス専属の娼婦となる。そのため,ボスの連絡係の仕事もする。彼女は,一斉連絡網で,緑丘森林の3番ゲートに緊急集合命令を発した。
緑丘森林の3番ゲートは,この夜盗たちが使っている専用の転移ゲートだ。緊急集合命令が発するということは,すぐに転移魔法で来いという意味だ。上級以上の魔法士でないと対応することができない。SS級剣士のドブラも,上級魔法までは使えるので,短距離程度ならギリギリ転移魔法が使えた。SS級魔法士やSS級剣士は,専属契約ではない。雇用費用が高くつくので,出来高払い契約となる。そのため,かれらは複数の雇用主と非専属契約を結んでいる。
ー 緑丘森林 ー
このナトルア市に近い側にある森林を『緑丘森林』と名乗っている。だが,その名前を知るものはほとんどいない。というのも,もともと決まった名前などはなく,この夜盗が勝手に名前をつけているだけのことだ。
雪生たちは,この緑丘森林に迫っていた。娼婦のひとりが,雪生に耳打ちをした。その女性はマイラだった。ケンの母親だ。
マイラ「雪生さん。あそこの物陰に見張りのものがいるようです。仲間を呼んだ可能性があります。今,この森林を通過するのは危険だと思います」
雪生「私も気づいていました。ですが,見つかった以上,後戻りもできないでしょう。幸い,ここは,見晴らしがいいので,戦うとすれば,この場所がお互いにとっていいでしょうね。燃える草木も少ないですし,火炎魔法は打ち放題ですから」
マイラ「雪生さん,あなたは怖くないのですか?失礼ですけど,雪生さんには魔法の波動が感じられません。魔法は使えないのでしょう?どうやって戦うのですか?」
雪生「私は魔力ではなく,それに代わるパワーを持っています。まだ戦いの実践経験がまったくありませんし,どれだけ戦えるのか不明です。でも,いい機会ですから,この場で戦いを経験したいと思います。この肉体で,,,」
マイラは,雪生の言った『この肉体で』という意味がよくわからなかった。だが,雪生の自信のある顔を見て,これ以上は何も言わないことにした。
雪生は,娼婦たちに,この場で留まるように言って,偵察の下っ端のいるところに歩いていった。
下っ端は,雪生が向かってくるのを見て,どうしたらいいのかわからなかった。ボスたちは,いくら急いでも,10分後か20分後くらいにしか集合しない。やむなく,起き上がって,敵意のないことを示すことにした。相手の強さがわからない以上,もっとも有効な方法だ」
下っ端「私は偵察員だ。私はあなたがたに危害を加えることはしないし,戦闘員でもない」
この説明に,雪生は,いっさい返事をせずに彼に近づいた。
雪生が新しい肉体になってから,ここまで歩いているときに,草花から精気を奪う練習をした。その結果,半径2メートルの範囲くらいなら,奪うことが可能だとわかった。
半径2メートルということは,範囲を絞れば,5メートル先までは霊力を伸ばせるということだ。
雪生は,下っ端の偵察員から5メートル手前で止まった。
雪生「お前は,誰に私たちのことを連絡したの?」
下っ端「もちろん,私のボスだ。たぶん,ボスは,緊急指令を出して仲間を呼ぶはずだ」
雪生「そう?時間はどれくらい余裕があるの?」
下っ端「たぶん,10分かそこら,,,うっ,,,ううううーー」
下っ端の偵察員は,話の途中で急にうめき声をあげて膝をつき,そして地面に倒れた。彼は,息を引き取って,ミイラ化していった。雪生は,彼を亜空間に収納した。死体の痕跡をいっさい残さないためだ。携帯も一緒に亜空間に収納した。
やや離れたところでこの様子を見ていた娼婦たちは,いったい何が起こったのかよくわからなかった。
時間的に隠れるには充分な時間があると思った雪生は,娼婦たちに森林の茂みに隠れるように指示した。
娼婦たちは,急いで茂みの方に走っていって,身を隠した。それでいて,雪生の様子がはっきりと見える場所を確保した。
雪生は,見晴しのいいこの野っ原で,ひとりで敵がくるのを待っていた。ケンの経験した魔法修行を追体験した雪生は,魔法陣を構築することなく,上級魔法士の魔法を発動できるはすだった。しかし,残念ながら,霊力から魔法に変換する魔法陣が植え付けられていない。つまり,魔法陣を使わずに,魔法を行使することはできない。
でも,その経験は,霊力の操作能力を飛躍的に伸ばした。霊力の層による防御能力は,飛躍的に向上し,加速もある程度できると感じていた。だが,どの程度なのか,自分でもまったく分からない。
ケンの魔法修行の追体験によって,もうひとつ雪生に影響を及ぼしたことがある。それは,自分に対する自信だ。これまで,おどおどとしていたのに,今では,そんなことは,ほとんどない。人を殺すことにまったく抵抗はない。もともと雪生は死んでいるのだから,相手を殺すことは,自分と同じ環境にすることであって,なんら罪悪感などはない。
雪生は,敵がくるまで,周囲の草木から精気を奪うことにした。狭い範囲で10メートル先まで霊力を伸ばして,ゆっくりと時計回りに回転させることで,半径10メートルの範囲の精気を奪うことに成功した。さらに,20メートル移動して,同じように周囲から精気を奪っていった。雪生のBカップの胸は,Cカップの胸に変化していった。胸の大きさが,霊力量のバロメーターといったところだろう。
さらに,大きな樹木のところでも,同様に精気を奪っていった。樹木の持つ精気は凄かった。もともと樹齢数百年にもなる樹木だった。その樹木は,これからも何百年以上も生き続けるのだ。その寿命パワーをも奪ってしまうのだ。雪生のおっぱいは,どんどんと大きくなり,Fカップに変化していった。
雪生は,人の気配を感じた。そこで,すぐに野原に戻ることにした。野原の方がお互い,戦いやすいと判断した。
雪生は,枯れた原っぱに戻り,そこで敵の到来を待った。
夜盗の一団がやってきた。メンバーは,さほど多くはなかった。ボス,SS魔法士1名,SS級剣士1名,S級魔法士2名,S級剣士1名の6名だ。この夜盗の精鋭が集合したことになる。
娼婦10名を確保することは,そこからピンハネできる金額は膨大になるので,これほどの精鋭で望んでも,充分にペイした。
ボスが,雪生の存在に気がついた。また,周囲の茂みに娼婦たちが隠れていることもわかった。ボスは,雪生から15メートルほど離れた場所から,雪生にむかって言葉を投げた。
ボス「ふふふ,,,浅知恵だな。われわれを前にして,娼婦を隠すなど,意味のないことだ。素直に投降すれば,命まではとならない。それに,お前からは,魔法の波動を感じない。魔法士ではないな。剣士とも思えん。どうだ?投降するのか?」
雪生「いいえ,投降はしないわ。勝負は戦ってみないと分からないわ。これでも,戦いには多少は自信があるわ」
雪生は,少し見えを張った。ボスがもう少し接近してくれたのなら,精気を吸収できるのだが,戦いが始まってからでは吸収することはできない。
雪生の加速がどこまでのレベルかは自分でもわからないが,できるだけ頑張るしかないと感じた。雪生は,48式の動作を何度も頭の中で繰り返し行った。腕は,すでに鋭利な手刀並に変化させた。ダイヤモンドまでの硬さにはなっていないが,硬度8程度にまでは,硬くすることができた。ヒトの一番弱い首を刎ねるには充分硬さだ。
魔界から来て,間もないSS級魔法士が,何やら険しい顔をして,ボスに耳打ちした。
SS級魔法士「ボス,彼女,もしかして,魔界で大騒ぎを引き起こした千雪に似ています。魔界から去ったと思われていたのですが,もしかしたら,この世界に来たのかもしれません」
ボスも,千雪の噂は聞いて知っていた。
ボス「まさか!!??では,本人に聞いてみよう」
ボスは,雪生に向かって叫んだ。
ボス「お前は,魔界の千雪に似ているようだが,千雪なのか?」
『千雪』という名前が出たことに,雪生は少しびっくりした。千雪の悪名は,この新魔大陸にまで広がっていたのだ。
雪生「千雪様のことは知っているようね。でも,それに答える義理はないわ。知りたかったら,私を倒してからにしてちょうだい」
ボスたちは,雪生の『千雪様』という言葉から,雪生が『千雪』ではないが,千雪の関係者であることが判明した。今はその答えで充分だった。
ボス「なるほど,千雪の仲間だったか。さて,どうするか,,,」
SS級魔法士は,再度,ボスに耳打ちした。
SS級魔法士「ボス,彼女は,千雪と同じ霊力使いと見ていいでしょう。霊力使いとは,SS級剣士が,魔法無効化結界を装備した状態と言われています。しかも,SS級レベルの魔法が使えると聞いています。今,ここで命のやりとりをする価値はないかと思います」
ボス「そうか,,,わかった。ここは引こう」
ボスは,雪生に向かって叫んだ。
ボス「お前が千雪の関係者であることはわかったし,霊力使いであることも予測できた。この場は,われわれは引く。ところで,偵察していたやつが見当たらないのだが,お前,何か知っているのか?」
雪生「彼? 死んだわ」
雪生は,簡潔明瞭に答えた。
ボス「何?彼は,戦闘員ではないし,お前には手出したしなかったと思うが,それでも殺したのか?」
雪生「そうよ。敵らしいものは皆殺しが基本です。それが千雪様の方針です」
ボス「お前は,とんでもない厄介ものだな。この世界を征服にでも来たのか?」
ボスは,冗談のつもりで言い返した。ところが,雪生から予想外の答えが返ってきた
雪生「あら?どうして知っているの?私は,千雪様に命じられて,この世界を征服に来たのよ」
ボスだけでなく,この場にいた6名全員がのっけに取られた。この世界を征服する,,,とても正気の沙汰ではない。この地域を支配するガルベラ女王国だけでなく,隣のメランブラ王国,さらには,魔獣たちが結束して,治外法権的になってしまった未開の北部領域をも支配してしまうという意味だ。
ボス「冗談のつもりで言ったのだが,それがお前の目的なのだな,,,ならば,われわれが直々に手出しする必要もない。国王軍に進言するだけで済む話だ。引くぞ!転移だ!」
ボァーー!!
ボスたちは,転移でその場を去った。SS級レベルの魔法士なら,磁場嵐の影響を避けて転移することは十分に可能だ。
雪生は,しまったと思った。自分が千雪の仲間であることだけでなく,この世界の征服が目的であることまでバラしてしまった。でも,もう後の祭りだ。こうなったらどうにでもなれ,という気持ちだ。
娼婦たちが茂みの中から出てきて,雪生のそばにきた。
マイラ「雪生さん,もう大丈夫なの?奴らは帰ったの?」
雪生「もう大丈夫みたいね。さあ,行きましょう。多分,もう変な奴らは出てこないと思うけどね」
雪生は,どうやって,自分の姿を隠すかを考えた。そこでマイラに変装方法について聞いた。
雪生「すいません。私,素性がばれたみたいなんです。それで,変装したいのですけど,何かいい変装方法はありますか?」
娼婦たちにとって,化粧方法は,大事な商売の一つだ。50代のおばちゃんでも,20代に見せる化粧術は心得たものだ。この帰る道すがら,娼婦たちは,手持ちの化粧道具を取り出して,15歳に見える雪生を40代の女性に見えるような化粧方法を伝授した。おまけに,いろいろと服装も雪生にあてがって着替えさせて,一見して,なおかつ,詳しく見たって,40代にしか見えないように,小じわの作り方まで教えてもらった。
ー 国王軍のナトルア支部 ー
雪生と逢って,千雪でないかと見抜いたSS級魔法士は,国王軍ナトルア支部隊の契約兵でもあった。彼女の名はボダーラ。ボダーラは,夜中にも関わらず,国王軍ナトルア支部の部隊長に緊急連絡をした。そして,魔界を騒がせた千雪の関係者が,この新魔大陸を制服に来たという情報を流した。
この情報は,すぐに,王都ラガロン市の国王軍本体の軍隊長バーミランの知るところとなった。バーミラン隊長は,すぐに国王秘書に連絡して,明日の朝,編制隊を準備して,ナトルア支部に派遣させることを報告した。
ー ナトルア市 ー
雪生と娼婦たちは,無事にナトルア市に到着した。娼婦たちは主に夜間仕事をする。だから,この時間は寝る時間帯ではない。管理者のいない娼婦たちは,道ばたで客を取るか,ポン引きにマージンを支払って客をとるかのどちらかしかない。
40代に変身して娼婦風になった雪生とその他の娼婦たちは,娼館街に来て,仕事をさせてほしいと依頼した。だが,変装しても雪生はOKだったが,ほかの10名は,いずれも断られてしまった。雪生が連れてきた手前,雪生だけが仕事につくことはできなかった。そこで,雪生は,彼女ら10名を連れて,いったん旅館の部屋に泊まることにした。
そこで,雪生は,これまで盗んだ亜空間収納指輪70個ほどを取り出して,この解錠を彼女らにさせた。彼女らは,指輪の解錠方法には精通していないので,パスワードが設定されていない指輪を選んでもらうことにした。
雪生は,念話でケンと連絡を取り,パスワードの解除の仕方を一から教えてもらった。魔力残渣を調べる,という基本的なことが雪生にはできなかった。
雪生は,ケンに連絡して,今からケンを召喚すると連絡した。
ボァーー-!!
かわいい子犬がこの部屋に現れた。
「あらーー,かわいいわね」
「きゃー!!かわいい!!」
「毛並みがいいわね」
などと,娼婦たちは騒いだ。子犬は,この場でちょっとしたスターになった。ケンは,周囲を見渡して,雪生がどこにいるのか分からなかった。だが,自分の母親であるマイラの存在は,すぐに分かった。
ケンは,こころの中で叫んだ!
ケン『お母さん!!』
それと同時に,だれが雪生なのか分からないが,念話で雪生にすぐに伝えた。
ケン『雪生さん!!ここに私の母がいます。母には,この犬の姿を見られたくないです。それに,母も自分の境遇を知られたくないでしょう。ここは,私をケンではなく,『ケンタ』と呼んでください。お願いします』
雪生『ケン,いや,ケンタ。わかったわ。じゃあ,そう呼ぶわ。あなたのお母さんの名前は何?』
ケン『マイラです。謝金を金貨5000枚しています。利子がつくので,金貨1万枚は返却しないといけないでしょう。ほかの娼婦の方も,状況は同じだと思います。皆,子供のために,頑張っていると思います』
雪生『そうか,,,世界征服の前に,娼婦にやさしい世界を創る必要があるわね。それは,おいおい考えましょう』
雪生は,念話をやめて,ケンに声をかえた。
雪生「ケンタ,その指輪のパスワードを解除してちょうだい」
ケンタ「了解した」
「えーー??犬が言葉をしゃべった!!」
「始めてだわ,びっくり」
「これって,何?もしかして,もとは人間だったの?」
などと,驚嘆の声が聞こえた。
ケンは,自分がマイラの子供でないことがバレないように,それ以降,言葉をしゃべらずに,指輪のパスワードを手際よく解除していった。
その手際の良さを見て,マイラは,ぽつんと言葉を発した。
マイラ「私の子供も,パスワード解除はうまかったけど,この子犬もすごい上手だわね。あなたは,出身はどこなの?」
マイラにとっては,挨拶みたいな感じで何気なく聞いたのだが,ケンにとっては,そう受け取らなかった。もしかしたら,身分がバレたのかもしれないと,ギクッとした。
ケン「え??あの,,,その,,,」
ケンが,言葉を濁らしているのを見て,雪生が助け船を出そうと思ったが,事の顛末が面白そうなので,このまま黙っていることにした。
ケン「えっと,,,ちょっと,この体になって,昔のこと少し忘れてしまって,,,」
マイラは,今のおどおどとした様子が,とてもどこかで感じたことのあるものだったので,もう少し,この子犬と話して見たかった。
マイラ「そうだったの?ごめんなさいね。でも,この大陸に来たのはいつごろなの?」
ケンは,少し怒ってマイラに言った。
ケン「少し黙ってください!今,解除中です!!」
この場に険悪な空気が流れた。もう,誰も口を挟むものはいなかった。
雪生も黙ってケンの解除の様子を見守っていた。それを見ながら,この10名の娼婦たちをどうしたものかと思案していた。
この場が静かになったので,指輪の解除がどんどんと進んでいった。解除できた指輪から,順番に娼婦たちに渡して,貴重品を探してもらう作業をしてもらった。貴重品とは,魔法石関係,お金類,宝石類,魔法書類,魔法陣関係,呪符類,爆弾類,武器類などに分類した。分類できないものは,未分類として,別の亜空間に収納した。
ケンがすべての指輪の解除に成功した後,ポツンと言った。
ケン「あの採掘現場からの採掘量から判断すれば,今解除した収納指輪に貯蔵された量は微々たるものです。つまり,まだまだ未発見の収納指輪が多くあるとみていいでしょう」
雪生「そうね。見て『ケン』,これ」
そう言って,雪生は,左手にした魔法石の指輪3本を示した。
雪生「これで,『ケン』の魔法が私も使えるわよ。ふふふ」
ケンは,『ケン』と呼ばれたことに違和感をまったく覚えず,返答した。
ケン「じゃあ,帰りは,雪生さんが転移魔法をお願いしよう。じゃあ,今から,探しにいくよ」
雪生「OK。みんな,作業は継続してちょうだい」
ボォーー-!!
ケンが起動した転移魔法陣が出現して,ケンと雪生はその場から消えた。
彼らが消えたあと,マイラは,みなに聞いた。
マイラ「今,雪生さん,ケンタさんに,『ケン』って,言わなかった?」
娼婦A「そうね,『ケン』って言っていたわね。ケンタだから,略してケンって言ったんじゃない?」
娼婦B「でも,ケンタをケンって,普通,呼ばないわよ」
娼婦C「私もそう思うわ。マイラさんの質問にも,なんか,答え方が可笑しかったし,なんかある感じがするわ」
娼婦D「そうそう。私も感じたわ。マイラさん,もしかして,知り合い?」
マイラ「・・・・,もし,名前がケンなら,私の息子よ。パスワードの解除が得意だったの。金貨5000枚の謝金をして,ケンに魔体の体を与えたけど,それは,ヒト型ではなくて,犬型だったのね,,,それを隠して,,,」
娼婦E「金貨5000枚なら,ヒト型の魔体は買えないわ。私の息子は,金貨4000枚で,やっと猫型の魔体を手に入れたわ。本人が猫型でもいいって言ったの。今は,荒野に出て,魔体維持のために,魔石結晶の集めに行っているわ。危険が多いけど,体が小さいし,木の上をねぐらにできるし,外敵に見つかる危険性が低いので,比較的安全なんですって」
娼婦F「私の娘は,金貨6000枚で,猫型でも,白色長毛型猫の魔体を手に入れたのよ。今は,金持ちの愛玩ペットになっているけど,他には,サーカスとか,客引き用のペットとかの需要があるみたいよ」
マイラの息子がケンかもしれないという話しから,娼婦たちの身の上話が始まった。この話が始まると,10人もいる娼婦たちにとっては,次から次へと話題が出てきて,あっというまに3時間が過ぎた。
ボァーー!!
転移魔法陣が出現して,ケンと雪生が戻ってきた。
雪生は,新しく見つけた収納指輪23個を皆に見せた。
雪生「収穫よ。たぶん,これで全部だと思うわ。もう,日の出が始まりそうだから,いったん,ここで作業は終了にするわ。明日の午後2時ごろから,仕分け作業を再開しましょう。当面は,お金の心配はしなくていいわ。皆さんの新しい職場をどうするかは,ちょっと考えさせてちょうだい。いくつか,アイデアがあるわ」
マイラは,今日のところは,ケンに自分が母親であることを知らせるのは控えた。また,後日,明らかにすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。