6・脱出

久留利の怪我は深く、首長の座を来禅に明け渡すしかなかった。就任祝いに彼は民に語りかける。


「漁業組合と闘うのは労ばかりあって得るものが少ない。魚を捕って生きる暮らしには未来がない。もっと楽に暮らそう。他の部落もやっているように、持つ者から奪い取ればいいのだ」


宇佐の民は来禅の話しに賛同し、異を唱える者は誰もいなかった。この日から、宇佐は海賊となった。


「手始めに今夜近くを通る輸送船を襲うのだ。ドリルで底に穴を開けて沈める」


幸い、襲撃チームに選ばれなかったハルは久留利を見舞う。久留利は、

「民が全員望んでも、俺は海賊になどなりたくない。なあハル、もし同じ気持ちなら、ここから連れ出してくれないか?」


そこで、夜、襲撃チームが出ていく頃を見計らって、別方向からボートを出して筏集落を抜け出した。

ボートは夜の海をひた走り、やがて油もなくなって、海上に揺られていたところに、中規模の観光船がやってきた。船の警備兵はサーチライトで回りを照らし、罠でないことを確認してから、ハルたちを乗船させる。


ハルは警備兵隊長に事情を説明する。宇佐が海賊になったと聞いて、隊長は遠回りにコースを変える。また中国大陸に到着するまでの間、久留利を半ば人質にして、ハルを警備兵の一員にさせる。


中国までの旅の途中、何度か海賊船に襲われるが、ハルたちを乗せた輸送船はなんとか中国成都港にたどり着く。



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