第9話 進化する侵略者 6

俺は跳んだ。見上げた人々は皆俺を見ていた。人と車のバリケードを越えていき、俺は転がるように着地した。

「次の曲がり角を左だ!」

 ジェリーが叫んだ。よろめく体を走る姿勢に戻した。

「あの建物まであとどれくらいだ!」

「ここを曲がった先だ。後ろの奴らはもう追いつけない。私が力を貸してる今の君は車じゃ追いつけない」

「それならいいけど!」

 曲がり角まであと100メートルと言ったところだ。そこまでいけばジェリーがなんとかしてくれる。

 俺は全力で走った。長時間の運動のせいで息切れが止まらない。でも、ここまで来ればどうにかなる。どうにかなるはずだ。

「……おいおい。どうにかなるのかよこれ!」

 曲がった先にはまたバリケードが張られていた。それもさっきの比じゃない。トラックのような車が壁を作っている。

「流石にこれは越えられないぞ! さっきのジャンプで精一杯だ!」

「安心してくれ、ここまでくればあとは私に任せてくれ」

 目の前からは銃が向けられる。さらに後ろからも人の気配が近づいてくる。

「ここまできたのは何もあの建物に完全に近づく必要はなかった。むしろ、この角度がいいんだ。リョウ、バンジージャンプをしたことあるかい?」

 ジェリーの触手の一本がするすると伸びていく。その先には、あの建物のてっぺんがある。

「お前、なにしようとして……」

「リョウ、歯を噛み締めろ!」

突如体が上に引っ張られた。潰れそうな負荷が頭や肩にかかる。混乱したまま俺は思わず目を瞑った。

 風を切る音がする。冷たい冷気が服の隙間から駆け巡る。

 やがて負荷が軽くなり風が穏やかになると、俺は目を開けた。空を見上げたつもりだった。見上げた先には俺たちがいたはずの場所が広がっていた。

 ジェリーは輪ゴム鉄砲のように、俺の体を吹き飛ばしたのだ。確かに飛ぶよりもはるかに速くて高い。

「……失敗だ」

 ジェリーが言った。

「……は?」

「追っ手が多いあたりが予想はしてたんだけどね。目の前の線路を見てごらん」

 俺は街を見下ろして線路を探した。あった。レールと電車がひとつ見えた。しかし、その電車線路上に止まったままだった。

「電車も停められている。私の作戦は失敗だよ」

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