第2話 逃走する侵略者 2

 遠くでパトカーが鳴っている。サイレンの音が車の少ないビル街によく響いた。

帰りながら携帯を触っていると、世界がこの寄生生物に夢中であることに気づいた。


『Eー204ってなに?』

『一匹の生き物のために高速道路封鎖って正気かよ』

『Eー204っていえば確か海外から研究のために来たっていう、人類史上初の人工生命体だよな。』

『特別公開!Eー204人工生命体の実物とその生態!』


「人類史上初の人工生命体」

 俺はつぶやいた。人間が生き物を作り上げたなんて聞いたことがなかった。人間は今まで新しい生き物を作りあげることはおろか、滅んでしまった生物も完全に復元できなかった。それを俺の知らないところで成功さていたなんて。まるで神様みたいだ。

 さらに携帯を触っていると、ある投稿が目に入った。


『四原市駅の前で交通規制されてる!もしかしてあの寄生生物?』


 四原駅からここまでは1㎞もない。俺はあたりを見渡した。ここオフィスが数多く存在する日々人通りが多い場所。それなのになぜこんなに静かなのかという違和感に気づくには、やや遅かった。

 気づいたら四方からサイレンの音と拡声器の人の声が聞こえる。上空にはヘリコプターが2機見えた。ただ事ではないことは状況を見ればわかる。俺は緊張で胸がざわついた。

 真っ黒な車が何台も集まり、道路に停まった。車から出てきた人々は明らかな武装をしており、無線で連絡を取っている。車は通りをふさぐように止められており、バリケードになった。

「危険ですので離れてください!」

 武装した人間の一人がこっちを向いて声をかけた。彼の手にはライフルのようなものがあった。彼に応じて俺は通りから離れようとした。そんな時だった。

「来る! ぶつかるぞ!」

 バリケードの手前で派手な衝突音が響いた。車の破片が飛び散り、バリケードに火が上がる。武装した人々はその火柱に銃を向けた。

「気を抜くな! いずれ飛び出してくるはずだ! 逃がすな!」

 車から黒煙が上がる。その中から飛びだしてくる影があった。それは俺たちになじみのあるシルエット、人間だった。白衣を着た男がバリケードをくぐり抜ける。待ち構えていた人々が銃を撃ち始めた。

「寄生体を発見。宿主は研究員のままです。四原市26ー3にて捕獲作戦を継続します」

 寄生がのっとった体は華麗に弾をよける。銃弾の雨をくぐり抜ける姿を目で追っていると、信じられないことが起きた。ライフルを撃っている一人が驚いたような声を挙げた。

「な……。いったい何が起きてる」

 白衣を男はそこが地面であるかのように、ビルの壁を駆けた。ガラス張り壁にありの隊列のように銃弾の跡が残る。男はビルを登っていく。

 俺はその寄生生物を夢中で見た。超人的な身体の能力。ありえない挙動。まるで映画を見ているようだった。寄生生物ビルから飛び出した。その先にはヘリコプターが一機。寄生生物はその中に入ったように見えた。

「やつめ、ヘリを乗っ取るつもりだ! 撃ち落とせ!」

「しかし、中には人が……」

「かまうな!」

 何かがヘリコプターに貫通した。ヘリコプターは不安定な挙動を繰り返し、目の前に墜落した。

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