楽しい楽しい?お泊まり会(裏5)

 お兄さんの話を聞いて、そのまま何もするつもりになれずに寝てしまった昨日。



 頭の中でぐるぐる色々なことを考えて、やっとお兄さんが見ず知らずのわたしに優しくしてくれた理由に見当がつきました。


 きっと、守れなかった、大切にしていた妹さんの、茉莉さんのことをわたしに重ねてしまったのでしょう。考えてみれば、お兄さんはわたしのために行動してくれつつも、時折強迫観念のような、こうしなくてはという考えに陥っていたように思えます。自分のことを度外視して、でも、そうあろうとしていたように思えます。




 これまでのわたしは、それはお兄さんの優しさの表れだと思って、あまり深く考えていませんでしたが、きっとお兄さんにとって、それは贖罪だったのでしょう。瑠璃華さんの話を聞いて、お兄さんの行動を振り返ったらそうなんだろうなと思いました。



 そもそもとして、身近に置いておくだけで、マイナスになるような存在を、優しくしながら受け入れるなんてことは、なおかつそれに自由を許すなんてことは、それを大切にすることが目的でもない限り、おかしなことです。


 瑠璃華さんですら、自分であればマイナスが少ないからと受け入れの意を伝えてくれたのですから、全く利のないどこかマイナスになってしまうお兄さんがわたしを求めてくれるのは、おそらく半分くらいはお兄さんの自己満足のためのものでしょう。



 特に、最初期のわたしなんて、なんにもプラスの要素のない、不良債権どころかそのまま借金みたいな存在でした。それにあれやこれやと理由をつけて受け入れてくれた恩は、忘てはならないものです。わたしがお兄さんの居場所に縋りたいと思っていなくとも、お兄さんには何の利もないのに問題だけを集めるような存在でした。そんなふうに存在を認めてくれた相手に、マイナス感情が抱けましょうか。



 一応、今であれば最低限、お兄さんに存在を認められるだけの技術は揃っていると思いますが、マイナス部分がどうしても大きくなってしまうため、初期段階ではそんなふうにも行きませんでした。



 それを受け入れてくれたのは、やはりお兄さんの優しさなのだろうなぁと思いながら、その優しさが、わたしだから向けられたものでないことを、少し嫌だと思ってしまいます。誰でもいいけどわたしを大切にしてくれたんじゃなくてわたしだから大切にしてくれたのなら良かったのにと思ってしまいました。



 きっと、独占欲なのでしょう。わたしを大切にしてくれたように、他の人に優しくして欲しくないと、わたしだけに優しくして欲しいと思ってしまいます。



 お兄さんが、わたし以外に優しくなければいいのに。そんな有り得ないことを、願ってしまいます。もしお兄さんがそんな人なら、はなからわたしには優しくなかったであろうことをわかっていて、そんな願いを持ってしまいます。


 きっとこれは、世のお兄ちゃんお姉ちゃんが、親からの愛情を弟や妹に取られたくないと思ってしまうのに近いです。お兄さんがわたしのことを雑に扱って、他の人をもっと大切にしたらと思うと嫌で嫌でしかたがありません。


 こんなふうに想像出来る以上、瑠璃華さんの言う、わたしがお兄さんに向けているのは家族的な愛情だというのも、きっと当たっているのでしょう。



「そんなに暗い顔をして、どうしたんですか、すみれちゃん」



 そんなふうに思いながら、わかってはいても自分勝手な思いを抱いてしまうのは嫌だなと思っていると、そんな顔をしていると幸せが逃げちゃいますよーと、瑠璃華さんが私を抱きしめながら言います。


 幸せが、今の生活がなくなってしまうのは、嫌ですね。急いで表情を明るくして、瑠璃華さんにおはようの挨拶をします。



「うんうん、素敵な顔です。それじゃあすみれちゃん、起きて早々ですけど、出かける準備をしちゃいましょう」


 せっかくのお休みですし、今日はいいお天気ですから、デートです!と、にんまりと笑いながら言う瑠璃華さん。デートという言い方は気になりますが、ただのお出かけのことを冗談めかしてそう称することもあるのだと勉強済のわたしは、混乱することなくそれに乗ります。





 どうせなら朝一番からと主張する瑠璃華さんに合わせて、すぐに支度を済ませて家から出ます。バスに揺られて、少し歩いて、着いたのはおしゃれなカフェです。スーツを着た若い男性がパソコンとにらめっこしていたり、私服姿の女性たちが談笑したりしています。



 わたしみたいなのがこんなところに入ってもいいのかと、卑屈な気持ちになりながら瑠璃華さんについて行って、案内されたのは奥の方の落ち着いたスペース。



 渡されたメニュー表にはたくさんの横文字と、筆記体でしょうか?少なくともわたしには読めない文字が書かれています。きっと日本語が読めない人への配慮なのでしょう。


 どれを頼んだら何が出てくるのかがいまいちわからないので、瑠璃華さんのおすすめだというパンケーキとりんごジュースを頼みます。



 少し待つと出てきたのは、アイスや生クリームやチョコレートソースをトッピングされたパンケーキです。朝ごはんにしては随分甘い気がしますが、昨日のスコーンのことを考えるに、瑠璃華さんは朝から甘いものを食べる派なのでしょう。


 わたしは、これまで朝に甘いものを食べてなかったのと、そもそも甘いものを食べること自体が多くなかったこともあり、少し違和感というか、しっくり来ないものがありますが、ものはとっても美味しかったです。ただ、パンケーキとジュースがどちらも甘かったので、次の機会にはコーヒーや紅茶にした方がいいかもしれません。



 食休みに少しお話をして、今摂った糖分が頭に回るのを待ちます。程々で切り上げると、今度はお散歩です。あまり遠くないところにあるらしい商業施設まで歩いて向かい、到着すると服を見るという名目で着せ替え人形にされます。


 寒い季節なのに、おへそがちらっと見えちゃうようなものとか、やたらと丈の短いズボン?パンツ?を推してくる瑠璃華さん。オシャレは我慢!と主張されるのを、外に出れなくなっちゃうので無理ですと何とか拒否して、普通に暖かそうな服にします。



「私がすみれちゃんに着せたくて買うんですから、私が当然払いますよすみれちゃんのお小遣いは、すみれちゃんが欲しいものを買うのに取っておいてください」



 お兄さんから貰っているお金があるので、それで払おうとしたら、瑠璃華さんに止められました。そんなことを言われても、欲しいものがほとんど見つからないせいで貯まりに貯まって、結構な額になっています。



 それを伝えると、瑠璃華さんはさっき戻した、おへそが見える服を持ってきます。



「それなら、すみれちゃんはこれを買ってください。先輩の家でこれを着て、そうですね、ツーショット写真を送ってくれればお代としては十分です」


 さあ早く!と急かされて、言われるがままに約束して買ってしまいます。少ししてからとんでもない約束をさせられてしまったことに気付きますが、時すでに遅しです。


 瑠璃華さんの方を見ると、にんまりと笑っています。完全に勢いに乗せられた形ですね。とても恥ずかしいですが、これを着たらお兄さんも褒めてくれるかな?という考えが頭を過り、満更でもなくなってしまうわたしはチョロい子なのでしょう。



 もう乗せられないようにしようと決心して、ちょっと警戒心高めに瑠璃華さんに向き合うと、威嚇してる子猫みたいでかわいいとこねくり回されます。ふしゃぁー!



 ウィンドウショッピングなるものをして、13時になったのでお昼の時間です。何か食べたいものはあるかと聞いてくれた瑠璃華さんに、実はずっと気になっていたお子様ランチを食べてみたいと伝えます。



 ちょっと生暖かい目をされましたが、お子様ランチという名前でも子供以外が食べちゃいけない訳ではないと、ちゃんと調べてきましたし、大人になってから食べたくなることもあると知っています。わたしは幸いと言うべきか、まだ子供ですし、お出かけの回数だけで言えばそこらのお子様とは比べ物にならないほど少ないです。


 なので、わたしがお子様ランチを食べることはおかしなことでは無いのだと瑠璃華さんに説明して、よりいっそう生暖かい目で見られます。不思議です。


 初めて訪れたファミレスでお子様ランチを頼んで、店員さんにも生暖かい目で見られましたが、食べたかったのだからしかたがありません。食べたい人が食べれるように、ドリームとかスペシャルとかそんな名前ならいいのにと思いながら待ちます。


 少しして届いたのは、ハンバーグにオムライスにナポリタン、エビフライにコーンスープと、誰でも好きなものが少しずつのせられた夢の一皿です。オムライスの旗が旭日旗なのは少し大丈夫か心配になりますが、きっとお店の思想が強いのでしょう。



 好きな食べ物を同時に食べれる嬉しさとともに、この量を少量ずつ作るのは家ではできないことだなぁと少し寂しく思います。冷凍の作り置きを駆使すればある程度は出来そうですが、やっぱりできる限り出来たてがいいです。



 食べ終わってからまた少しウィンドウショッピングを続けて、ちょっと大きい土鍋を買ったら、今日のお買い物、瑠璃華さんとのデートはおしまいです。最後に買った食材を含めてものが多かったため、たくさんのものを持って移動することになりました。いつもよりも多めに歩いたことを踏まえると、明日はもしかしたら筋肉痛になってしまうかもしれません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る