楽しい楽しい?お泊まり会(裏6)

 瑠璃華さんのお家に帰って、一緒にご飯を作ったり、お掃除をしたりして、余った時間で遊びます。



 わたしがデジタルゲームをよく理解していないこともあって、瑠璃華さんがよくやるというものを横で見せてもらったり、比較的簡単な部類のアナログゲームをやって見たりします。


 ルールがとっても簡単だったリバーシをしばらくやってみましたが、当然と言うべきかなんというべきか、瑠璃華さんには全然勝てません。ぱっと思い浮かぶ程度にはこのゲームを知っている瑠璃華さんと、先ほどルールを知ったばかりのわたしでは、全く理解度が違うのです。運が絡むものでもないので、実力が着くまではずっとこのままでしょう。



 無料で練習できるアプリを教えてもらったので、今度暇な時間にやって練習しておきましょう。最初から勝ち目がないとわかっていても、悔しいものは悔しいのです。



 他にもいくつかのゲームを教えてもらい、どれもメタメタに負けます。一応確率的には引き分けになるはずのジャンケンですら、心理戦で負けて勝率は三割程度です。


 もういつまでたってもまともに勝てるゲームが見つけられませんが、負けて悔しくってもそれを楽しめるのが、ゲームのいいところなのかもしれません。


 この日は一度もまともに勝つことが出来ず、また瑠璃華さんと一緒に寝ました。






 3度目ともなると慣れてきたもので、自分が寝ている時に無意識に抱きついてしまった瑠璃華さんから手を離します。わたしがわがままを言って、朝からご飯を作らせてもらって、瑠璃華さんに食べてもらいます。



 美味しいと喜んでもらえたことに一安心して、お昼までやることがないのでまた瑠璃華さんと遊びます。どうやら瑠璃華さんは、初日二日目とあまり遊ぶことが出来なかったことを気にしているらしいです。



 瑠璃華さんに本気を出されてしまうと、どうして負けたのかの反省点すらわからないくらい完敗してしまうことがわかったため、わたしがギリギリ勝てないくらいまで手加減をしてもらいながら、少しずつ考え方を身につけて、練習します。



 わたしみたいな弱い相手と戦っていて、瑠璃華さんはつまらなくないのかと思って聞いてみましたが、わたしが悩んでいるのを見るのがかわいくて好きと言われてしまいました。喜べばいいのか、照れればいいのか、悔しがればいいのか、どうするのが正解なのでしょう。




 お昼ご飯を食べて、わたしが昨日一昨日その前と着ていた服が乾いるのを確認して畳みます。


 もう何度か瑠璃華さんと遊んで、お兄さんから到着予定時間が届いたらご飯の支度に入ります。普段は連絡から実際に帰ってくるまでにそこまで時間がないので予め準備をしていますが、出張先から帰ってくるお兄さんが着くのは数時間後です。お鍋ということもあって、煮込む分にはいくら煮込んでも問題ないので、多少余裕を持てば時間の見通しは適当で大丈夫です。


 瑠璃華さんに、こうやって切ればもっと効率よく切れるという、調理の際のテクニックのようなものを教えて貰いながらお鍋の準備をします。わたしはお母さんに基本を教えてもらってからは、実直にそれを守る切り方しかしてこなかったので、効率や速さを重視した切り方や、丁寧ながらも速さを両立した切り方の、包丁の先端に軸を置いて円を描くように切る切り方など、初めて知る知識が沢山です。



 なんでも話を聞いてみると、昨日一緒に料理をする中で、わたしに足りないものを考えてくれていたとか。瑠璃華さんの優しさや、思いやりの深さには頭が上がりません。



 教えてもらった包丁さばきを練習しながら、お兄さんのためにお鍋を用意します。わたしの技術向上のために、瑠璃華さんが指導役に徹してくださったので、鍋自体が完成したのはお兄さんの到着予定時間の少し前くらいです。味変枠であるとろろは、わたしが間に合わなさそうだったので瑠璃華さんが磨り下ろしてくれました。




 程なくして、お兄さんが帰ってきます。ギリギリだから手伝ってもらったので当然と言えば当然でしょう。



「お疲れ様です、先輩。ゆっくりしていってください」


「お兄さん、おかえりなさい!……おかえりなさい?いらっしゃい?」


 おかえりなさいと言うのは、お兄さんの家でない以上おかしいでしょうし、いらっしゃいというのも、わたしの家ではないので的確ではありません。なんて言えばいいのかわからなくなりながら、とりあえず荷物だけは受け取ろうとします。


 お兄さんと瑠璃華さんから、揃って生温い目で見られていることに気が付いて、なぜなのかを考えたら、お兄さんが既に荷物を置いていることに思い至りました。いつもの習慣とはいえ、変な状態になってしまっていたのが恥ずかしくて、顔が熱くなるのを感じながら手を下げます。


 多分赤くなっている顔を見られたくないので、食器を運ぶという名目でお兄さんから離れます。本当はお鍋を運べればよかったのですが、わたしに持たせるのは不安だと言って瑠璃華さんが譲ってくれませんでした。



 必要な食器を集めて、顔の熱がだいぶ引いてきたことを確認して、瑠璃華さんの後ろについて行って部屋に戻ります。


「一人じゃこんなにおっきい鍋、いりませんからね。ずっと使い続けられるようにって、願掛けみたいなものですよ」



 お兄さんが土鍋の大きさに言及して、瑠璃華さんがそう言った時には、つい2日前に聞いた話を思い出して、なんと言えばいいのかわからなくなってしまいましたが、その空気も瑠璃華さんがすぐに変えてくれました。



「そんなことより、先輩。すみれちゃんが今日帰るなら明日は私一人じゃないですか。私が朝食べきれないくらい残っちゃったら、すみれちゃんにも泊まって一緒に食べてもらいますからね」


 結構たくさんの量を作ったから、頑張って食べないとなぁと思いながら、お兄さんにもいっぱい食べて貰えるようにご飯を大盛りにします。瑠璃華さんとのお泊まり会も楽しかったのですが、せっかく帰ってきてくれたのだから今日はお兄さんの家に帰りたいです。



 お鍋もたっぷりよそって、瑠璃華さんにお玉を渡します。この季節、部屋の中が暖かくてもお鍋は食べたくなるものです。



 沢山食べて、しっかり味変もして、残ったのはスープだけです。瑠璃華さんの明日の朝ごはんの分も残しておけばこんなに満腹になることは無かったと思いますが、全部食べきってしまったのはその場の勢いというものでしょうか。



 洗い物をする仕事をお兄さんに奪われて、スープを残しておいてと伝えていた瑠璃華さんに、何に使う予定なのかを聞いてみると、冷蔵庫の中にあるうどんと一緒に食べると言っていました。朝は甘いものを食べてるイメージが強い瑠璃華さんでしたが、甘いもの以外食べない訳では無いようです。考えてみれば、今日の朝ごはんも甘くないものを作りましたが、ちゃんと食べてくれていました。



 洗い物を済ませたお兄さんが戻ってきて、すぐに動くと戻しそうだと言われたので、少し休憩がてらトランプをやります。昨日やっていたものや、今日やっていたものは二人用だったため、また新しいものでしたが、やはりまともに勝てませんでした。お兄さんが加わったことで瑠璃華さんの狙いがつけにくくなったのか、2回だけ勝つことが出来ましたが、瑠璃華さんには負けっぱなしのままです。



 そろそろ大丈夫そうだからとお兄さんに言われて、もう一泊だけしませんか?もう一泊だけですから!と誘ってくる瑠璃華さんにお断りを入れて、忘れるところだったとお兄さんがお土産を渡すのを見て、瑠璃華さんの家から出ます。



 瑠璃華さんに渡していたお土産が、わたしの分もあると教えて貰って嬉しさと安心感を感じて、特に不安を感じているわけではないけど、無性にお兄さんの裾を掴みたくなって、スーツにシワをつけちゃいけないのて我慢します。


 瑠璃華さんとお出かけしたことや、そのお出かけで食べたもののこと、お子様ランチを食べて、美味しかったけど視線が恥ずかしかったこと、服を買ってもらったことなんかを話しながら、駅までの道を歩きます。



「お泊まり会は楽しめたかな?」


 実は使うのが初めてな電車に乗って、その速さに驚いていると、お兄さんからそんな事を聞かれました。ちゃんと楽しかったこと、びっくりしたことや瑠璃華さんにからかわれたりしたことを話して、またしたいと言います。そして、楽しかったけど寂しかったことを伝えて、次があるならお兄さんのお家に瑠璃華さんを招待したいことも伝えます。お兄さんがいないと、どうしても寂しく思ってしまうからです。



「そっか、そうだね。僕も向こうで色々食べたりしたけど、やっぱりすみれちゃんが色々考えて作ってくれるものを食べるのが一番嬉しいし、なんというか安心出来る」


 出張はもう嫌だと伝えると、お兄さんがそんな嬉しいことを言ってくれます。胸が暖かくなって、そっと横に触れる体温が愛おしくって、もっと欲しくて擦り寄ってしまいます。はしたない子だと思われてしまうでしょうか。でも、抱きつくのは我慢するので、これくらいは許してほしいです。



「いつもありがとう。すみれちゃんのおかげで、今が幸せなんだ。これからもよろしくね」



 温かくて大きな手が、わたしの頭を撫でます。瑠璃華さんに教えてもらったように、毎日しっかり手入れしている自慢の髪です。お兄さんの優しさが、わたしだけにしか向かない訳ではなくても、今ここにあるのは、わたしのものです。わたしだけのものです。


 その幸せをいっぱい感じて、これからもしばらくはこれが続くことを喜び、これが終わらないように気を引き締めます。この幸せが日常になり、ずっと続くように努力する決意をします。



「お兄さん、おかえりなさいっ!!」


 駅から歩いて帰り、家の鍵を開けて小さくただいまを言ってから、お兄さんを迎えます。わたしの日常は、お兄さんを待つことです。お兄さんの家に、わたしたちの家に帰ってきたお兄さんをお出迎えして、お兄さんのために頑張って、大切にしてもらうことです。



 お兄さんに家族と思ってもらえないと、この生活はなくなってしまうのですから。






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 これで終わったらただのハッピーエンドなのでは?(終わりません)


 この子この段階に至るまで、自分の家って認識がなかったんですよね(ニッコリ)

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