読者への挑戦状

『――読者への挑戦状――

 私はここに、おそらく世界で一番アンフェアな挑戦状を諸君らに叩きつけることを宣言する。第三回木谷栄二賞の最終選考座談会から端を発し、ここまで二転三転、否、四転も五転もしてきたこの物語であるが、どうやらそろそろ燃料切れ、落ち着く所に落ち着きそうな気配がある。それは春の気配にも似て、身を削るような寒さの堪える冬の間は非常に待ち遠しいが、いざ来てみればどうってこともなく、とんだ肩透かしに終わる代物であるかもしれない。あるいはホラー映画における殺人鬼の気配にも似て、来るか来るかとハラハラしている内は一向に姿を見せず、何だ大丈夫だったかと安心したところに大音響と共に現れて、見ている方の度肝を抜く代物であるかもしれない。それは、小説、特にミステリーに慣れている者であれば皆一度は経験したことがあるだろう、『結末に対する不安感と期待感の拮抗状態』だ。それまでさんざん話を盛り上げておいて、ラスト付近で突然失速し、墜落のような体でエピローグを迎える作品は枚挙に暇が無く、この物語がそうならないという保証はどこにも無い。このページを読んでいるということは、諸君らはこの破天荒極まりない物語に、ここまでどうにか喰らい付いて来た猛者達であるのだろうが、だからこそ、ここまで来た者の期待を著しく裏切るような展開を書くのは忍びないし、もしこの段階までで満足していただいているならば、これ以降の物語は黙して語らず、諸君ら各々の心の中でひっそりと自由に羽ばたいてもらえればそれで構わない、と私は考える。きっと中には、私の考えを遥かに上回る妄想の翼を広げ、ばっさばっさと大空目掛けて飛び立ってしまう出来の良い後継者も現れることだろう。だが、私はここではそうしない。それは偉大なことでも何でもなく、至極当たり前のことだと賢明なる読者は既に気付いていると思う。その当たり前のことを当たり前に伝えるために、私はこんなところで読者への挑戦状を挟むという無茶苦茶なやり口をとった次第である。この物語は、私が責任持って着陸させる。出来ることなら、その時の激しい揺れで苦しむような者が一人も現れないやり方で。

 前置きが長くなった。ここで私は読者に挑戦する。私の正体は一体誰であるか? そして、この物語はどのように決着するのか? それを解明する条件は、作品中に幾つか散らばっている。全て出揃っている、とは到底思わない。だからこれは、全くもってアンフェアな代物であり、私は諸君らの想像力あるいは創造力に期待することしかしない。論理的よりも魔法的に、どうか私の世界を解体していただきたい。

 本当に推理しようとしてくれる読者のために、ヒントを二つ。

一、 作者の名前は、既に作中で登場している

二、 決定的なヒントは第二部に転がっている

 以上である。諸君らの健闘を祈る。


 作者』

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