中庭

小さな声でミューズとマオが話をしていると、人の気配がちかづいてくるのがわかった。

「君こんなところで一人なんて、寂しくない?」

「寂しくないです。放っておいてください」

ミューズを見えないように隠し、マオは声をかけたものに視線も向けず言い切った。


中庭の隅のベンチでポツンと座っていたマオを見て、どこぞの令息達が声をかけに来たのだ。


見るからに怪しい。


「絶対寂しいだろ。だってさっきからずっと一人じゃないか」


確かにティタン達が話し終わるまでと、マオは動かずここにいる。


ミューズがいるから傍目では一人に見えるだろう。


面倒臭いと思いつつ、追いはらう用にティタンが置いていったものを男達に見せる。


「これ、アトガルムの紋の入った短剣ですよ。それにこの上着は、アドガルムの王族である第二王子の物です。彼が気づいて怒りに来る前に、帰ったほうがいいのです」


わざわざ見せたのに、令息達は薄ら笑いを浮かべるだけだ。


「凄い凄い。どうやってそんなの手に入れたの?」

まるっきり信じてないようだ。

「本物ですよ?」

「怪しいなぁ、だってその黒髪黒目は平民だよね?こんなところに居るはずがない。逆にどうやって入り込んだのか、こっちが憲兵に突き出してもいいんだよ」

見当違いな言葉を聞いて、マオはタメ息を吐いた。

バカばっかりだと心底呆れる。


「僕は第二王子の従者です。憲兵に連れていかれるのはそちらです」

呆れた口調のまま言うが、あちらは気づいていない。


「そうか、まぁ話は中で聞くから行こう。ここは寒いし」


マオに伸びてきた手が、ルドが張っていた防御壁で弾かれる。


「なんだ?!魔法か!」

驚いて手を引っ込めるが痺れが取れない。

「そうですよ、アドガルムの護衛騎士に寄るものです。下手すると腕、飛びますよ」

触れないように弾くだけのものだが、マオはわざと大袈裟に言って脅しをかける。


「こんな、こんな事をしてただで済むとでも…」

「ただで済ますと思うか?」


痛みに腕を押さえた令息にティタンが声を掛ける。


「俺の従者に何をしていた。答えよ」

大きな体躯。薄紫の短髪。黄緑の瞳。

隣国の者でも第二王子ティタンであるとわかるだろう。


「いえ、なんでもないのです。こんなところで寂しそうにしていたから、声をかけただけで…」

ティタンは不愉快そうに眉を寄せた。


「俺がここでの待機を命じた。目障りだ、散れ!」

ティタンは大声で令息達を追い払う。


「不快な連中が来ていたか…遅くなってすまないな。ミューズは大丈夫か?」

マオはそっとかけている上着を少しズラすと、ミューズはぶるぶると震えていた。


「怖がらせてしまったか?!」

「大丈夫ですか?」

ティタンはおろおろとし、マオは気遣いの声をあげる。


「ごめんなさい…あのような言葉は初めてだったのでショックを受けたのです」


マオへの悪意のある言葉。

ミューズはすっかり怯えてしまったようだ。


「あのような、平民を差別するような貴族もいるのですね」


ミューズはあまり悪意にさらされた事がないのだろう。




「すまなかった、すぐに安全なところへと場所を移すからな。今ルドに馬車の手配を頼んだから、これから皆でアドガルムへと戻る」


「皆、ですか?ミューズ様もご一緒という事ですか?」

「えっ?!」

驚きに声が出る。


「呪いに詳しいサミュエルなら解けるのではないかと、兄より助言だ。ディエス殿にも経過を報告すると言っていたから、おそらく大丈夫のはずだ」


「すみません、ご迷惑ばかりお掛けしてしまって」

「大変なのはミューズ嬢だ。こちらを気にしなくていい」


やがてルドが来る。馬車の用意が出来たのだろう。


「では行こうか。マオは俺の後ろに、そのほうが周りから見えづらいだろう」

ティタンの後ろにマオ、そしてルドが並ぶ。


後のことは兄に任せ、足早に四人はリンドールを後にした。





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