忌みもなし

雨の止みそうな頃である。

僕は目を覚ました。いや、覚ましていた。よく分からない。気が付くと目がぱっちりと開いていて、いつ起きたか分からない。

暁の頃だ。彼女は隣にいなかった。ホームのすぐ前にただ立っていた。

遠くから車輪の音が聞こえてくる。丁度始発の電車だろう。

その時、

あっ所詮その程度だったのか、

と思った。僕は酷く悲しくなった。

彼女が何を行おうとしているのか、それは容易に想像できた。

僕は駆け出した。

そして彼女の手をつかんで翻させた。

彼女の髪が綺麗に揺れた。

時間が止まったように数瞬、僕らは顔を見合わせた。僕は頬に触れた。そして顔を近づけて唇を重ねた。彼女はそれがただのあいさつであるように驚かなかった。

電車が近づいてくる。

「その行為にどんな意味が込められているの?」

「分かってるでしょ」

彼女から目を逸らした。

水の細い体を抱きしめた。水の細い体はこの時、少しだけ驚いたようにゆれた。

そしてレールに沿って近づいてくる鉄の蛇に僕は、僕らは飛び込んだ。

彼女は泣いていた。

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ハレと雨 枕火流 @makurabiryu

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