僕らはカフェに行くことにした。僕の自殺願望の話をした辺りから親密に…、とまではいかないけれど話を出来る程度の関係になった。

「ここだよここ。腫れてるだろ」

僕は前髪をかきあげて青く変色した痣を見せた。

「うわぁ…」

水は汚物を見たように顔をひきつらせた。

「いじめによる自殺、なんていうとさ。普通過ぎるっていうかもかもしれないけど。十人十色なんだぜ」

「その四字熟語って良い個性の時に使うのよ」

「自殺から互いに救いあった仲だろ。僕は言ったんだから君の番だよ」

「嫌だ」

今度は僕が断られた。水は小さな舌をちょっと出しておどけるとストローでオレンジジュースを飲みだした。

(オレンジジュースなんて、、、子供じゃないんだから。周りに目も気にすればいいのに)

なんて思ったけれど、周りの目に合わせて行動していたら今頃額に瘤なんてないはずだ。

窓際に座った僕たちは窓を通して大通りを観察することが出来た。

騒がしく通る車、走る人、山よりも高くなってしまった高層ビル、エトセトラ、、、

僕はふと、この『現代社会』という作品を見ている傍観者の気分になった。昨日の今頃にはこの作品の中に深く入り来んでいた僕は独立した僕は第三者とは言えない第2.5者の気分である。僕はそこから目を逸らした。水も窓を眺めていた。

水は慣れていた。

窓を見る様子が、である。水は、まるで美術館でその絵の全てを知り尽くしているといった風にそれを眺めている老人の様に窓を眺めていた。肘をついてオレンジジュースを飲みながらまるで達観する様な彼女の様子はこのカフェに勝るとも劣らないほど艶やかである。

やがて雨が降り出した。颶風を伴う豪雨などではない。ただの弱い細雨。

当然ながら『現代社会』には影響を与えない。天気予報なるものがあるのだから、人々は毎々の傘を繰り出して歩いている。

ただ問題があった。僕たちは傘を持っていないことだ。

当然である。死ぬつもりだったのだから。

僕は肩をすくめた。

「どうする?」

「どうするって濡れるしかないでしょ」

雨が止むまでカフェに居座ってもよかったがそうはしなかった。

「御馳走様でした」

ポケットに偶然あったお金を二人で合計してギリギリ払うと外に出て、何も考えずに走り出した。

何人かの大人が不審そうな眼差しでこちらを見たけれど、自然と二人とも気が晴れてきて大気者の様な気分になった。

「どこへ行こうかしら」

「自由なところ!」

「賛成!」

何も考えずに走った。今頃、屋上に置いてきた二人のカバンは濡れているだろう。

気持ちがいい。

こんな雨ならずっと続いてほしい。

切に神にそう願った。

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