ザンネーム王国の進軍

■ザンネーム王国にて


 ザンネーム王国はとても重たい空気に包まれている。


 我が王国の王はそんな空気をよむことができる器ではない。


 今の王国の惨状を見れば誰もが感じることだ。


 だが、誰も抗うことは許されない。


 兵を集めるためにどれほどの民を犠牲にしたか……悔しくてたまらない。


 そして、サイネリア王国に攻め入る日がきてしまった。


 私は5万の兵を準備して国王陛下の前に跪く。


「ボージャスルキア騎士団長、兵は整っているな?」


「はっ、平民兵を合わせて5万の兵を用意いたしました」


 5万とはいえ、8割くらいはもうボロボロの平民だ。盾の役に立つかどうかというレベルだ。


 それでも5万という数字に国王陛下は大満足のようだ。

 ため息を我慢するのが大変だ。


『ザンネーム王国軍の兵士たちよ、サイネリア王国に進軍せよ!』


 国王陛下の一言で、ザンネーム王国軍は5万の兵を率いてサイネリア王国へ進軍を開始した……。



■サイネリア王国にて


 私は今日も執務室で平和な日々を過ごしていた。

 部下たちも私のスパ……いえ、教育のたまものでかなり成長してきた。

 最近の私の仕事は書類の決済承認をするくらいだ。今は本当に何もやることがなかったので、ノエルと一緒にお茶を楽しんでいる。


 あまりにも暇だったので私は紙飛行機を折る。


「メリア様、それは何ですの?」


「紙を折って遊んでいるのですわ」


「メリア様、私にも教えてくださいませ」


「ええ、いいわよ」


 私はノエルに紙飛行機の折り方と飛ばし方を教える。ノエルは紙飛行機が優雅に飛ぶのを見てとてもはしゃいでいた。


 ノエル、ありがとう。


 私たちが紙飛行機で遊んでいるところに、カーナが書類を届けるために執務室にやってきた。


 カーナは紙飛行機が飛んでいるのを見て好奇心にかられて質問してきた。


「これは何でございますか?」


「紙飛行機でございますわ」


「ヒコーキとは何でございましょう?」


 しまった、この世界に飛行機は存在していない。

 どうやって説明しようかしら……。


 私が考えをめぐらせていると、ちょうどよくクックルちゃんがノエルの元へ飛んできた。

 クックルちゃん、グッジョブ。

 おやつを奮発いたしますわ。


 しかし、クックルちゃんの報告は呑気でいられる報告ではなかった。

 ザンネーム王国に動きがあったという報告だった。


「メリア様、動物たちに報告をもらいました。今朝方、ザンネーム王国軍が動き出したそうです」


「ノエル、それは緊急事態ですわね。ブルセージ宰相閣下のところへ報告へ行きましょう」


「はい、かしこまりました」


 私とノエルはお父様の部屋へ向かい、お父様の部屋のドアにノックをする。


「どうぞ」


「失礼いたします」


「メリア執務官、何か起きたのか?」


 私の表情を見てお父様は何となく悟ったようだ。


「はい。今朝方、ザンネーム王国軍がサイネリア王国に向けて進軍を始めたと報告が上がりました」


「何てことだ。やっと王国に平和が戻ったというのに。メリア執務官、報告をありがとう。すぐに軍事会議を開く。一緒に会議室へ来てくれ」


「はい、かしこまりました」


 私とノエルはお父様と一緒に会議室へ向かう。部下たちが一斉に関係者に伝達をして、騎士団長と魔法師団長とその副官たちが揃う。


 国王陛下が到着して軍事会議が開始された。


「これより、軍事会議を開始する。メリア執務官、説明を」


「はい、今朝方、ザンネーム王国軍がサイネリア王国に向けて進軍を始めたと、ノエルから報告が上がりました」


 会議室内は騒然とする。


「ザンネーム王国軍が国境付近に到達するまでに4日から5日かかる見込みです」


 ザンネーム王国軍の半数以上が歩兵とのことなので進軍には時間がかかる。


 しかし、サイネリア王国にはカーナの魔動シリーズの「魔動補助荷車」がある。今ではかなり量産されている。


「我が王国からは、魔法工学研究所の『魔動補助荷車』で多数の歩兵を運ぶことが可能です。おそらく、1日もあれば国境付近へ到達できます」


「うむ。さすがメリア執務官じゃのう。敵国の先手を取れる体制を既に築いておるとはな。わっはっは」


 国王陛下のお言葉で、会議参加者全員の緊張感がとけたようだ。国王陛下のカリスマ性は素晴らしい。


「では、騎士団、魔法師団は準備が整い次第国境付近へ向けて出発せよ」


 お父様は騎士団と魔法師団に向けて命令を下す。


『はっ、かしこまりました』


 騎士団と魔法師団関係者は、軍備を整えるため会議室を出て行った。


「メリア執務官、其方も戦地へ行くのか?」


 お父様はとても心配そうに私を見つめる。


「はい、私も戦地へまいります。王国最強の秘書官もおりますし」


「メ、メリアさまぁ」


 ノエルの困った表情に萌えてしまいそうですわ。


「あっはっは。そうだな。余計な心配であったな。私は王宮に残ることになる。頼んだぞ」


「はい、おと、いえブルセージ宰相閣下!」


 しばらくすると、騎士団と魔法師団の準備が整ったようで私たちも出発することになった。


 騎士団は騎馬隊とその他は馬車に乗り込み、残りの騎士と魔術師は「魔動補助荷車」に乗って出発する。

 さらに大きな大砲を10台も運んでいくまで余裕があった。



 王宮を出発して翌朝に国境付近に到達することができた。かなり余裕を持ってザンネーム王国軍を迎え撃つことができそうだ。


 戦略は、基本的に防衛である。

 鋼鉄の壁は特殊加工されていて、程度の低い魔法は弾く仕組みになっている。 

 鋼鉄の壁が打ち破られる事態になるならば一斉攻撃を仕掛けるという計画だ。


 仮拠点の外に出ていると、ノエルの元にクックルちゃんが飛んできて報告を受ける。

 私はフィーリア騎士団長のところへ報告に行く。


「フィーリア騎士団長、新しい情報が入りました。ザンネーム王国軍は総勢5万ほど。8割が歩兵のようです。到着予定は明後日の昼ごろと推測します」


「メリア執務官、ご報告ありがとうございます。あとは騎士団と魔法師団にお任せください。メリア執務官は後方で戦況を見届けてくださいませ」


「ええ、お任せいたしますわ」


 フィーリア騎士団長への報告が終わり私たち用の仮説テントに向かおうとしたとき、カーナが馬車を飛ばしてやってきた。


「メリア執務官、ついにサイネリア号が完成いたしました!」


「カーナ、よくやりました。素晴らしいですわ」


 フィーリア騎士団長へ報告して、私とノエルとカーナで馬車を飛ばしサーマの港へ向かった。

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