王女様とのお忍びデート
私は、王国の状態が安定してきたので休日はゆっくりと過ごすことができるようになった。
私が部屋でくつろいでいると、セシルからの手紙が届いた。
手紙の内容は、どこかの休日にお出かけをしたいということだった。しかし、王女と聖女が街を歩いていたら目立ってお出かけどころではない。
どうしたものか……。
やはり、変装しかないわよね。でも、どうやって変装をしようかしら。女性用のウィッグなんてこの世界はないでしょうし。服装も目立たないものにしないといけない。
賢者様の書物の中に、髪の毛の色を一時的に変えることができる魔法が書かれていた。
しかし、髪の毛の色を変える魔法には粉末状の素材が必要らしい。素材は鉱石にしようか、植物にしようか悩む。
カーナはまだサーマの街で船の建造中で聞けないし、体にも悪そうだ。やはり、植物を素材にしよう。
翌日、王宮植物研究所に行って、ミリーナと相談することにした。
「ミリーナ、ごきげんよう」
「メリア執務官、ごきげんよう。何か御用でしょうか?」
私はミリーナと優雅に挨拶を交わして本題に入る。
「ミリーナ、植物で染料になるものはございますでしょうか。粉末状のものが欲しいのですけれど」
「ええ、ございますわ。花や果実、葉、樹皮、根、茎などから染料用にいろんな色の粉末状のものをお作りすることができます」
おお、すでにたくさんの種類の色のものが研究所で作られていた。藍色や緑色や黄色と複数の色の素材を私はミリーナからもらうことができた。
私は帰宅すると、すぐに髪の毛の色を変えることができるか実験をした。私は藍色の染料で髪の毛の色を変える魔法を使う。
『ヘアメイクアップ!』
魔法名はそのままですわ……。
賢者様の創成魔法のようだ。魔法を使うと私の髪の毛の色が金色から藍色に染まっていく。
全くの別人に見える、髪の毛の色は洗っても落ちないようだ。
完璧ですわ!
私は髪の毛の色が落ちないので、そのまま食堂へ行く。
しかし、お父様とお母様は何か見てはいけないものを見たような顔をされた。
「メ、メリア、その髪の毛はどうしたのだ?」
「申し訳ございません。魔法の実験をしておりまして、髪の毛の色がこのままになってしまいました」
「メリア、魔法の実験もほどほどになさい」
「はい、お母様。洗っても色が落ちないようなので、今日は様子を見ることになります」
今夜の食事はなんとも異様な雰囲気になってしまった。
今後は魔法を使う時間を考えて使わなくてはなりませんわね。
私は食事を早々に切り上げ、自分の部屋へ戻る。いつも通り、セリアが待機していてくれて着替えをする。
「メリアお嬢様、藍色の髪の毛も綺麗でございますわね」
「セリア、変じゃないかしら?」
「驚きはしましたが、変ではございませんわ」
「ありがとう、セリア」
髪の毛の色を変える課題は解決した。次はお洋服ですわね。セリアに相談してみようかしら。
「セリアはお洋服を作ったりできるのかしら?」
「はい、女性の使用人は一通り裁縫の心得はございます」
おお、ではセリアたちに仕事の合間をぬってお洋服を作ってもらおうかしら。
セリアにお洋服の件をお願いしたら快く応じてくれた。ただ、採寸をしないといけない。私はすぐにでも採寸ができる。
しかし、セシルの採寸もしなくてはいけないのだ。明日、セシルに会って確認してみよう。採寸は後日行うこととして今夜はそのまま眠りについた。
翌朝、私は鏡を見て髪の毛の状態を確認する。すると、髪の毛の色は元の金色に戻っていた。魔法の効果はだいたい半日程度かしら。
王宮へ出勤すると、私はすぐにセシルに会いに行く。もう婚約者同士なのだから気軽にセシルの部屋へ行くことができる。
「セシル、ごきげんよう」
「メリア、ごきげんよう」
私たちは優雅に挨拶を交わす。
「メリア、今日は何かしら?」
「お出かけの件なのですけど。そのままの格好だと目立ってしまって大変なことになってしまいますわ。だから変装をしてお出かけをしようと思うの」
「まぁ、変装ですって。楽しそうですわね」
セシルはノリノリだ。
「髪の毛の色を変える魔法を習得しましたわ。あとはお洋服を使用人に作らせるのだけど、採寸が必要ですの」
「まぁ、では次のお休みにメリアのお屋敷にまいりますわ」
結局、次の休みにセシルが私の屋敷に泊まりに来て、髪の毛の色を変えたり採寸をすることになった。
次の休み、私はいつも通りセシルをお出迎えして私の部屋へセシルを案内する。
髪の毛の色を変える実験は寝る前に行うことにして、まずは私たちの採寸をする。
その後、私たちはどのデザインの服にするかを選んで決めたものをセリアたち使用人に作ってもらうことになった。
婚約をしたからといっても、お茶を楽しんだり、読書をして盛り上がったりと何かが変わるものでもなかった。
私とセシルは夕食とお風呂を済ませたあと、髪の毛の色を変える実験をする。
いくつかの色の染料を並べて、私はセシルに好きな色を選んでもらった。セシルは藍色が気に入ったようだ。私は同じ色にならないように薄いピンク色に決めた。
「セシル、いくわよ。『ヘアメイクアップ!』」
セシルのワインレッドの美しい色の髪の毛から藍色の髪の毛に変化した。
「メリア、すごいですわ!」
セシルはものすごくはしゃいでいる。
セシルはなんでも似合って可愛いですわ。
「では、私も。『ヘアメイクアップ!』」
私の金色の髪の毛が薄いピンク色の髪の毛に変わる。「これで完璧だね!」と二人で笑い合いながら呟いた。
さてもう寝ないといけない時間だ。私とセシルは手を繋ぎながら同じベッドに入る。
なんだかとても幸せな気分ですわ……。
私たちは幸せを感じながら眠りについた。
◆お忍びデート当日
今回のお出かけの計画は、ケールという王国の川の上流にある街へ行き観光船に乗ってサーマへ行く。サーマの街で観光を楽しんだあと王都に戻るというものだ。
私はアルストール家の馬車で王宮までセシルを迎えにいく。
「メリア、ごきげんよう。とても楽しみにしていましたわ」
「セシル、ごきげんよう。私もですわ。それでは支度をいたしましょう」
私とセシルはセシルの部屋に行き、事前に準備したお洋服を着て、魔法で髪の毛の色を変える。一応、警護のためにフィーリア騎士団長も同行することになった。
当然ですわね。
フィーリア騎士団長にもあまり目立たないような服装にしてもらった。
私たちは馬車に乗り込みケールの街に向かって出発して、2時間ほどで到着した。ケールの街の港から観光船に乗り込みサーマに向かって出港する。
私たちは観光船から川を挟んだ王国の景色を楽しんだり、川を泳ぐ魚などをみたりして楽しんだ。
「メリア、お魚が跳ねましたわ。向こう岸の景色も見えて新鮮ですわ」
「セシル、あまり身を乗り出すと川に落ちてしまいますわ」
川の景色を楽しんでいたが、あっという間にサーマに着く。私たちは色々なお店を見てまわり、装飾品のお店を見つけた。
「ねえ、メリアこのイヤリングとても可愛いですわ」
「では、このイヤリングをセシルにプレゼントいたしますわ」
セシルは今までで一番の笑顔を見せた。
胸がキュンキュンしてしまいますわ。
「私もメリアに同じものをプレゼントいたしますわ。これでお揃いですわね」
早速、私たちはお揃いのイヤリングをつける。「とても似合いますわ」とお互い笑顔で呟きあってさらに観光を続ける。
サーマ名物の石焼き芋は季節外れなので売ってはいなかった。
とても残念ですわ……。
「セシル、そろそろお食事にいたしましょうか?」
「ええ、良いお店はございますかしら」
サーマ1番の食事処は調査済みである。しっかりと予約もしてある。フィーリア騎士団長の分も別席で予約済みだ。
このお店の1番の売りは、デザートのサーマイモのスイートパイだ。
「なんですの、このお菓子は? 程よい甘さで紅茶ととても合いますわ」
「ええ、季節が外れていてもサーマイモを楽しめるように私が考案したのですわ」
お食事を楽しむことができて、まだまだデートを満喫したいと思っていた。しかし、そろそろ魔法の効果が切れる頃だ。
そう思った瞬間、段々と髪の毛の色が元に戻ってきた。これでデートはおしまいですわ。
騒ぎにならないように、私とセシルは手を繋ぎながら走って待機していた馬車に乗り込んだ。
「メリア、今日は楽しかったですわ。ありがとう」
「ええ、セシル。私も楽しかったですわ」
帰りの馬車の中では、遊び疲れたのか私とセシルは体を寄せ合い眠ってしまった。
王宮へ着くと、私はセシルと優雅に挨拶をして今日のお忍びデートは終わりとなってしまった。
「またデートをしましょう」とセシルが呟いたが、フィーリア騎士団長は少し難しい表情を見せた。私たちの警護、お疲れ様でした。
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