第3章 ザンネーム王国の崩壊

聖女様と王女様との婚約発表

 春が訪れ、王国の再出発の日になった。


 今日は、王国の重大発表を行う日である。

 

 その日の朝、私は家族と食事をとっている。


 セシルとの婚約についてお父様にお話をしなくてなりませんわ。


 ……ドキドキ、緊張いたしますわ。


「お父様、お話がございますの。よろしいでしょうか?」


「うん? なんだ、いきなっり改まって、言ってごらんなさい」


 私は怖じ気つきそうになったが、腹をくくって話し始めた。


「私、セシルと婚約をすることになりました……」


 それ以上は言葉が浮かばなかった。


 お父様が固まってしまって、手に持っていたナイフとフォークを落としてしまった。


「なっ、メ、メリアがお嫁に……うぅぅ」


 お父様は私の発言に対して驚き、泣き出してしまった。


「お父様、セシルが私のお嫁さんになるのですわ。私はお婿さんでございます」


 私の言葉はお父様の混乱にさらに拍車をかけてしまったようだ。


 さらに激しく泣き出してしまった。


 お母様は事前に事情を知っているので取り乱したりはしていない。


「メリア、食事を早く切り上げて支度をしなさい。旦那様は私が何とかしますわ」


 お父様をなだめるのをお母様にお任せして、私は早々に食事を済ませ私の部屋に戻った。


 今日は私にとって、執務官として初めての出勤になる。


 私はセリアに執務官用の制服に着替えさせてもらう。


 支度が終わると、お父様はお母様になだめてられて正常に戻っていた。


 気まずい雰囲気の中、お父様と一緒に王宮へ向かうのだった。


 王宮へ到着するとお父様と別れ、私は執務室に向かった。


 お父様は宰相専用の部屋があり、国王陛下の書斎の隣だ。


「メリア執務官、ごきげんよう」


 ノエルが優雅に挨拶をして迎えてくれた。


「ノエル秘書官、ごきげんよう。よろしくお願いいたしますわね。うふふ」


 慣れない呼び方で挨拶をするのは少しくすぐったい感じでお互いの顔を見て笑い合ってしまった。


 まだ少し時間があったので、お茶をしてくつろぐことにした。


「メリア様の制服は素敵でございますね。とてもお似合いですわ」


「ありがとう、ノエル」


 くつろいでいる時はいつも通りの呼び方で接している。


 堅苦しい呼び方は疲れてしまいますわ。


 私たちがくつろいでいると、トントンとノックの音が鳴る。


「どうぞ」


「メリア執務官、お時間でございます。王宮のバルコニーまでお越しください」


「はい、かしこまりました」

 

 式典の係の者が私たちを呼びにきたようだ。


 私とノエルは係の者に案内され、バルコニーに向かう。


 バルコニーの中央には国王陛下が、右にはお父様、左にはセシルと私が用意された椅子に座る。


 秘書官たちは影に隠れて待機となる。


 もう多くの貴族や平民たちが外の広間に集まっている。


 今回の国王陛下のお言葉は、王国放送という新しい仕組みで王国中の民たちに届けられる。


 これは、カーナたち魔法工学研究所が開発したもので、私たちは王国の全ての街や村などに受信機兼放送装置を設置した。


 言葉を伝達する魔法と魔法工学を組み合わせて出来上がった画期的な装置だ。


 簡単に言えば、電波と魔法が置き換わったようなものだ。


 おそらく他の街でも王国放送が聞こえる場所で人々が集まっていることだろう。


「国王陛下、そろそろお時間でございます」


「うむ」


 国王陛下が立ち上がると同時に私たちも立ち上がる。


 そして、王国の民たちが見える位置まで前へ出る。


 王宮の外の広間は人で埋め尽くされれていた。


 ざわざわと話し声で賑やかだった広間が、国王陛下が更に一歩前へ出ると、しーんと静まり返った。


「サイネリア王国の民たちよ。其方たちに多大なる心労をかけたこと心からお詫びする」


 国王陛下が王国の民たちの前で頭を下げた。


 王国の民たちは驚き、言葉を失ったみたいに沈黙が続く。


「だが、功労者のお陰で王国の民たちの笑顔が戻った。本当に喜ばしきことだ。このサイネリア王国を救ってくれた功労者を紹介する。メリア・アルストール執務官前へ」


 いきなり私の名前があがってびっくりした。


 私は王国の民たちが見える位置まで前へ出た。


 全ての人に私は注目されている。


 ものすごく緊張いたしますわ。


「こちらが、サイネリア王国を救ってくれた『聖女』、メリア・アルストール執務官だ」


 うぉぉぉと、王国の民たちの歓喜の声が上がった。


 私が聖女!? いきなり国王陛下は何を仰られるのですか……。


『聖女メリア様、ばんざーい!』


『サイネリア王国、ばんざーい!』


 王国の民たちは大盛り上がりだ。


 やめてくださいませ、歓喜に押し倒されそうですわ。


「おお、言い忘れておった。ブルセージ・アルストール執務官を宰相に昇格、メリア・アルストール執務官代理を執務官に昇格とする」


 もう拍手と歓声が鳴り止まない。


「それでは、聖女メリア執務官に一言もらおうかのう」


 え、えぇぇぇぇ、聞いてないですわよ!?

 

 国王陛下は私にウィンクを送ってきた。


 忘れておりましたわ、国王陛下もかなり茶目っ気のある性格でございますわ。


 私はもう一歩前へ出て王国の民たちの前で話し出す。


「この度、サイネリア王国を再建することができました。皆様のご協力があってこそだと思っております。王国の民のみなさんありがとうございます」


 私が頭を下げるとよりいっそう、拍手と歓声が大きくなった。


 たくさんのお礼の言葉が私に向けて飛んできた。


 しかし、もう一つの重大発表がある。


 国王陛下が両腕をあげると一気に辺りが静まり返る。


「あともう一つ、重大発表がある」


 セシルが私の横に立つ。


 セシルも緊張しているのがわかったので、私はセシルの手を握る。


 セシルは少し安心した表情に変わる。


 しかし、お互いの手の汗ですごいことになっておりますわ……。


「ここに、我が娘、セシル・フォン・サイネリア第1王女とメリア・アルストール執務官との婚約を発表する!」


 うぉぉぉと、またまた王国の民たちの歓喜の声が上がった。


 ものすごい祝福の嵐に驚いた。


 同性の結婚に疑問を持たない世界なのだなということを私は実感した。


「この二人が手を取りあえっていけば、サイネリア王国の未来は安泰じゃ! わしもまだまだ引退はしないがな。あっはっはっは」


 私たちがバルコニーから下がった後も盛り上がりはおさまらず、王国中はお祭り騒ぎだった。


 サクラ並木でお花見をしながら祝いの酒盛りをする人たちもたくさんいたそうだ。


 私もお花見をしたかったですわ。


 この世界の成人年齢は15歳。


 私は13歳で、結婚はお互いが成人となるまであと2年だ。


 今後も何事もなく平和な日常が続きますように……。

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