幸せの異世界ライフ再び

 翌日、ミリーナからもらったサクラの苗木20本を植えることにした。


 私は、貴族、平民問わずサクラの苗木を植えるお手伝いをしてくれる者を募った。


 20本のサクラの苗木を植えるだけなのにたくさんの人々が参加してくれた。

 

 王宮へ続く一本道に一定の間隔で左右に10本ずつのサクラの苗木を植えていく。


 しっかりとした木に育つようにミリーナが持ってきた肥料も加えた。


 人が多すぎて手が余る人がいたが、見守ってくれるだけで十分だ。


 中には「何をしているんだろう?」と見物する人もたくさんいた。


 何ができるかは春になってからのお楽しみですわ。


 王都は以前よりも活気が増したように感じた。


 人々が笑い合い、賑やかな街並み。


 サイネリア王国はもう大丈夫ですわ。


 後はお父様の目覚めを……。


 私は国王陛下の謁見の許可を得て、休暇の取得をお願いすることにした。


 私は国王陛下の前で跪く。


「国王陛下、謁見の許可を賜り誠にありがとう存じます。この度、長期の休暇を頂きたく存じます」


「うむ。理由はなんとなく察しておる。問題ない。メリア執務官代理のお陰で以前よりも王国がさらに良くなった。王として心から感謝する。ブルセージのことは任せたぞ」


「はい、かしこまりました。ありがとう存じます」


 私は国王陛下から、長期間の休暇の許可を頂いた。


 それは、お父様を治す魔法の研究を集中してやりたいからだ。


 医師からは余命が残り少ないと告げられていた。


 延命のために、ミリーナから栄養ポーションを作ってもらい無理やり口から体内に入れていた。


 しっかりと食事を取れないため、じわじわとお父様の体は衰弱していたのだ。


 私は眠る時間を削って賢者様の書物を読んでも答えが見つからなかった。


 ……なんで、なんでなの?


 私は無力を感じて悔しさでいっぱいだった。


 諦めかけたその時、どこからか風が吹いて賢者様の書物がパラパラとめくれて止まった。


 そこに書かれていたのは「創成魔法」だった。


 どういう魔法を使いたいのかイメージして詠唱をすると書かれている。


 最後の魔法名は自分で考えるようだ。


 なんで気が付かなかったのだろう。


 焦りすぎて冷静さを失っていたようだ。


 私は、ハッとイメージが湧いてきて、一か八かやってみることにした。


 私はお父様の部屋へ駆け込んだ。


 お母様はとても驚いた顔をして私を見る。


「メリア、急に部屋に入ってきてお行儀が悪いですわよ」


「お母様、申し訳ございません。試してみたいことがございます。よろしいでしょうか?」


 お母様は黙って頷いた。私は跪き、両手を握り詠唱する。


『世界を見守られし癒しの女神様、我が父に癒しの力を与えたまえ……』


 ……お父様の回復を邪魔するものは全部なくなれ。お父様、戻ってきて。


 私はお父様の体の中心に両手をかざす。


 魔法陣が浮かび上がり、金色の光の粒がお父様の体に集まってくる。


『キュアヒーリング!』


 魔法の名前は私が考えたものだ。


 金色の光はお父様の体全体に降り注いだ。


 「聖女様のお力だ……」と一緒にいた医師が呟いた。

 

 もう、聖女だなんてことを気にしている余裕はない。


 10秒くらいたつと光は消えた。


 すると、お父様のまぶたが少し動いた。


 意識が戻ったのだろうか、まぶたの動きがぎこちない。


 私はお父様の左手を握りながら見守る。


 数分たつとやっと目を開けることができて、私と目があった。


 「メリア」と呼びたそうだったが、お父様は声が出なかった。


 でも私を呼んでいるとすぐにわかった。


「お父様! もう王国は大丈夫ですわよ。平和な王国が戻ってきましたわ」


 お父様は目を一回閉じて「わかった」と合図をした。


 お父様の体は弱りきっていて一粒の涙しか出なかった。


 でも、とても安心した表情をしているように見えた。


 医師からは「今日はもうお休みさせてあげましょう」と助言があったので私は自室に戻った。


 私の部屋に戻ると、セリアが待機していてくれた。


「メリアお嬢様、よく諦めずに成し遂げられましたね」


「ありがとう、セリア」


 私はセリアに抱きついて喜んだ。


 ……でも、誰があの時手助けをしてくれたのだろうか。


 偶然であのページが開かれることはあり得ない。


 女神様なのだろうか、それとも賢者様?


 どちらにしても感謝しかございませんわ。


「女神様、賢者様、お力をお貸しくださり、誠にありがとうございました」


 私は祈りを捧げて眠りについた。



 10日ほど経つと、お父様は上半身を起こすことができるくらいまで回復した。


 食事はまだ流動食だが、少しずつ回復してきている。


「メリア、私の代わりに頑張ってくれたようだね。本当にありがとう」


「いいえ、お父様。私の友人、王宮の方々、たくさんの方の協力があったからこそ実現できたのですわ」


「あんなに小さかったメリアがこんなに成長して……」


 もういつものお父様に戻っていた。


 私のことになると声を上げて泣き出すのだ。


 お母様が毎回慰めるのが大変のようだ。


 お父様は赤ちゃんみたいですわ。


「メリア、あなたも頑張りましたわね」


 お母様の久しぶりのぎゅぅだ。


 やっとこの幸せを取り戻せた、長かったですわ。


 お父様が体の状態が安定してきたので、私は王宮に出勤することにした。


 国王陛下にお父様の回復具合を報告すると涙ながらにお喜びになられた。


 私が休んでいた間もノエルを筆頭に王国の運営を頑張ってこなしてくれていた。


「ノエル、ただいま復帰いたしましたわ」


「メリア様、おかえりなさいませ。ブルセージ様が回復されてよかったです。お父様もとてもお喜びになっておりました」


 ノエルのお父様も、私とノエルと同じように仲が良かったようだ。


 お父様が復帰するまで、まだまだ頑張りますわ。



 春が訪れお父様は杖をつきながら歩けるくらい回復した。


 今日はお父様と一緒に王宮へ出勤する。


 久しぶりに馬車の中から王国の景色を私はお父様と一緒に眺めた。


「以前よりもとても素晴らしい王国になったな。違う国に来たようだ」


 王国中の街の整備をして以前とは違う景色になっている。


 お父様はとても驚いている。


 まだまだこの先にもっと驚くことがございますわ。


 馬車は王都の王宮へ向かう一本道に入る。


 そこには、夢に見ていたサクラ並木ができていた。


 淡いピンクの花びらがひらひら舞い落ちていて、とても美しい景色だった。


 見たこともない景色をお父様は涙を流しながら見ていた。


 私も知らない間に涙が溢れていた。


「お父様、これはサクラの花でございますわ。ミリーナに頼んで品種改良を繰り返して生まれたのですわ」


「ああ、こんなに美しい花を見るのは初めてだ。メリア、ありがとう」


 王宮へ到着すると、国王の間へ行きお父様の復帰の報告をすることになった。


「国王陛下、長らくお待たせいたしました。本日、復帰いたしました」


「ブルセージ、待っておったぞ。また其方の顔が見られて、わしは嬉しいぞ」


 国王陛下の目からキラリと光ものが見えた。


 本当にお喜びになっているのですわね。


 セシルや周りの家臣たちももらい泣きをしていた。


 お父様が現場に復帰することで役職の変更があるようだ。


「ブルセージ執務官、其方はわしの右腕として宰相の位に就くことを命ずる」


「はっ、ありがたき幸せ。王国のため、国王陛下の右腕として尽くすことを誓います」


「うむ。よろしく頼むぞ」


 お父様はグワジール元宰相が失脚して空席のままだった宰相に就くことになった。


「それから、メリア執務官代理。其方を執務官に就くことを命ずる」


「はっ、ありがたき幸せ。王国のため、全力を尽くすことを誓います」


 必然的に私は執務官に昇格した。


 エルミーナ秘書官は引き続きお父様の秘書官として務めるようだ。


 ノエルは助手から、私の秘書官に昇格した。



 こうして、サイネリア王国は、1年前の王国崩壊寸前の状態から、以前よりも最も豊かな王国に発展を遂げた。


■■ザンネーム王国の王宮の国王の間にて


「忌々しい、サイネリア王国め。国境線に鋼鉄の壁を作りおってぇ!」


 ザンネーム国王陛下はとてもお怒りだ。


 しかも、サイネリア王国を追い出された元宰相が大きな顔をしているのが気にくわない。


 国王陛下とは旧知の仲とはいえ我慢ならない。


「ボージャス・ルキア騎士団長、平民から徴兵をせよ。軍備を整えるのだ」


「はっ、かしこまりました」


 ……また王国の民を犠牲にしなければならないのか。


「軍備が整い次第、サイネリア王国へ進軍する!」


 サイネリア王国から巻き上げたお金は全て王族の贅沢にまわるか、軍備費にまわるだけだ。


 ザンネーム王国の民たちは飢えや病に苦しんでいても、国王陛下は何とも思わないのだろうか。


 ザンネーム王国に未来はあるのだろうか……。


第2章 完


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第2章を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


次回からは第3章となります。


引き続き、応援をよろしくお願いいたします

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