第2話

 かじかむ手を温め、改札へと向かう。今日は特別面倒な教科はなかったので清々しさを感じる。風もなんだか心地がよい。教室の暖房がちょうどよい温度で、最近は眠っていることが多くなり、何のために学校に行っているのだろうと思う。面倒だから家に帰ったらちゃんと復習をする、寝ながら聞いている、と言っても最初は何も信じなかった教員たちだが、定期考査の点数もそこまで悪いわけじゃないので今では黙認している。

 それでも目を瞑る時にふと気になってしまうと思う。近所で起こった殺人事件はいつ解決するのだろう、と。この事件を通して、高校生になって初めて人の命を、自分の命を、肌で感じた。今日は一層冷えるな、と改札を通る。電車に乗り込むと雪がほろほろ、と降ってきた。この時期に降るのはいつぶりだろうか、もしかしたら今年が歴代で最速の積雪を観測した年である、とニュースでは騒いでいるかもしれない。


 今年の冬を感じるようになったのは、夏の終わりというのか、秋の気まぐれというのか、大きな台風が過ぎ去ってからだった。その日の夜、冷えた風を連れてきた台風は今までに体験したことのない雨をもたらした。記録的な豪雨で家屋の倒壊、死者も数名出た台風だった。日本ではこれが当たり前となっているので他者の死にはニュースでさえも、報道番組でさえも、誰も騒がない。被害者のインタビューしてもどうとも思わないだろう。それらは他者なのだから。人の死に麻痺している僕たちはいつ人になれるのだろうか。

 ニュース番組はすぐに新たな面白いネタを求めている。印象操作しているかのように、一人が熱狂的に批判したり、あたかもそれが正しいかのように放映されている。言い換えれば面白さを求めているのは見ている側の我々なのかもしれない。今では台風から地震までの自然災害や、コロナウイルス、戦争まで飽きてしまったかのように、風のように、当たり前のように流れていってしまう。きっと今回の事件も最初だけなんだろうな、と思う。それも地方の番組だけの。


 当然、電車は止まることなく目的駅へと進み、改札を出て学校へと歩いた。これといって何も思うことはなく、無心で歩く。学校への道中、後ろから友人が自転車を止めて、話しかけてきた。当然、話題にそう言ったことが出てくることはなく、何もないまま今日は終わった。結局、眠りにつく前にいろいろと考えたけれど何も起こることはなかった。

 帰宅中にも、何も思うことはなく、ただ生きているだけのような気がした。息をして、ただひっそりと。

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