第三話 「六気」

「じゃあ、まずは実践してみましょう……!!」


 顔前に垂れた緑の前髪を払い除けながら、風道さんは元気良く先生の様に指導してくれる。


「うん」と頷いた白髪の少年は、気を放出し、風道さんがやったような、全身に気を蔦の様に纏わせる感じを意識して実践する。


(全身を気が包み込んでる様な感覚がする……。 もう全身に纏えてるのか……。 だとしたら次は、気を横に回転させる感じね……)


気を全身に纏う感覚が掴めたので、武蔵は次に、その気を横に流して、ろくろの様に形を作る感じで回転させる。


「まぁ、最初のうちは無理にやろうとしなくても良いわよ。 これ本当に難しいし……ん?」


風道さんはそう言いながら、武蔵の気を見てみると、まるで、ろくろで壺を作る様に、綺麗な流道体の形が出来上がっていた。


それを見た風道さんは、自分が半年で習得した事がとても馬鹿らしく思える程、習得スピードの早い武蔵に心の中で感嘆していた。


(恐ろしく速いスピードで習得出来ている……! 凄いわ……! これなら、次の市内大会で凄い成果を見せてくれるに違いない……!!)


「武蔵君、貴方、本当に気の才能があるのね……」


「ん……?」


「出来てるわ……”流道体”……」


「えっ……? 本当……!?」


「本当よ……。この調子なら、二つ目の”波道体”《はどうたい》も難無く出来そうね!」


「はどうたい……?」


「そう、これも実際に見た方が早いから、じっくり見てて!」


そう言って、風道さんは、気を放出させて、白煙の渦が一瞬にして体を纏うと、その気は風道さんの前方に向き、風の様に体から気を放出する。


その気の風は、此方に向かって飛んできて、台風の様な突風が吹き荒れて、その風はグラウンドの砂から、砂埃が舞う程だった。


そして、風道さんは気の放出を止めると、台風の様な風は吹き止み、俺に感想を聞いて来た。


「どうだった? 波道体を見ての感想は……」


「と、取り敢えず、風が強いって事が一つ目。立ってるのもやっとだった位……それと、気の動きは何となく分かった。あの風を体感してみると分かりやすい!」


「ほう、じゃあ実践ね! やってみなさい!」


「うん!」


少し命令口調なのは気になったが、武蔵は、そのまま無言で波道体に挑戦する。


(まずは、気を体に纏って……思いっきり爆発させる感じかな)


武蔵は、普通の人だと一、ニヶ月でようやく出来る事を、一日どころか、一時間すらも経たずして、気を体に纏う感覚を既に掴んでいた。


それを見た風道は、武蔵のその実力に嫉妬していた。


(もう、気を体に纏う方法も難無く出来ているのね……。羨ましいわ……。これが、天才って言うのかしら……。)


風道は、気の使い方が下手で見下されていた経験があり、その事から、武蔵に対して羨望の眼差しで見ていた。すると、武蔵の気によって生み出た風が、此方に向かって吹き付けた。どうやら、波道体を纏う事に成功したらしい。


「出来た……!」と、武蔵は叫んで喜んでいる様子だった。


それに対して風道さんは(そりゃ出来るわよね。流道体をこんなにも早く習得したんだから……)と、頭の中でツッコミを入れつつ、次の話題に切り替える。


「流石ね、こんな短期間で波道体と流道体が出来るなんて……ここまで来ると、いよいよ本題の異能について説明しても良いわね」


「ようやくずっと憧れだった異能について教えてくれるのか……!」


武蔵は、異能についての話だと聞いて、胸が弾んでいる様子だった。


「じゃあ、説明するわ。まず、気って言うのは、自然から生まれた力なの。だから、気にはそれを象徴する六つの属性があって、これを六気りっきって言うの。寒、暑、湿、火、風、土って言う感じにね」


「……? じゃあ、さっきまで俺が出してた気にも属性があったの?」


「ううん」と風道さんは首を横に振る。


「波道体とか流道体には属性が無いから、基本的に誰でも使えちゃうの。属性が含まれた気は、放出された瞬間から能力が発現するから、かなり分かりやすいわ。そんな感じで、人間には無属性の気と他に、六つの気道があるんだけど、それは閉鎖されちゃってるの。それで、閉鎖されてる気道を開放させる為には、仙道の修行が必要よ」


「仙道って仙人になる為の……?」


「うん、気道を開放させるには、気の量と質がある程度高くなくちゃいけないの。だから、その為に仙道の修行を行って、気の量と質を向上させる。そして、それを極める事で、六気の力は極致に達し、”仙術”となる」


「仙術……?」


「そう、六気の中で最高峰とも言える技の事を仙術って言うの。これは八仙って呼ばれる八人の仙人が編み出した技なんだけど、私でもまだ習得出来てないの。それ位、長年やってても出来ない位には難しい技なんだけど、あそこの白灰君なら、この部員の中で唯一それが出来るわ」


異様にも、グラウンドの砂や石が転がっている地面に直で端座している白灰を、風道は謎に誇らしげな顔で指差した。


「へ~、白灰君が……」


「仙術の事を知りたいなら、彼に教えてもらって? 私はまだ教える程のレベルに至ってないし……」


「うん、じゃあそうさせて貰うよ」


風道さんの説明を受けていると、野球部が練習を終えて、練習用具などを片付けている姿が見えた。


「あっ、もうそろそろ下校の時間ね。どう? 今日は、気の事について何となく分かった?」


「うん、風道さんの説明分かりやすかったよ。教えてくれてありがとな!」


「そう……それなら良かった」


風道さんは、少しホッとした表情でそう呟いた。


「じゃあ、今日はここまでね、仙道の修行とかは明日教えるから」


「分かった! それじゃあバイバイ!」


「うん、バイバイ!」


そう言って手を振って別れた後、仙道の修行って何だろうと思いながら、武蔵は下校した。



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