【きっと美味しい 02】

「お兄ちゃんとリリーのお母さんが違うことは知ってるよ。でも、リリーはお兄ちゃんのこと、大好き」

「……ならば尚更、相談しましょう? 子どもだからって、ロッゲンさんのしていることは許されることではありません」

 もしも今後もあのようなことが続いたら、リリーが大怪我を負うような事件に発展してしまう可能性もある。

 恋唯の心配は尤もなものだったが、リリーは悩んでいるようだった。

「なんか、分かんないけど……ロッゲンのお母さん、リリーのお母さんと仲が悪いんだって」

「お母さん同士が?」

 親同士の喧嘩が子どもたちの関係にまで影響を及ぼしてしまったパターンだろうかと、恋唯と若子は目を合わせる。

「でもお母さんは、ロッゲンのお母さんのこと、相手にしてないの。いつも平気な顔してるよ。だから、リリーもそうするの。何されたって、気にしないし」

「どこが気にしてないの!? 泣いてたじゃん!?」

 若子が思わず声を荒げてしまう。

「リリーちゃんのお母さんが平気なのは、大人だからだよ。リリーちゃんは嫌なことされてるんだったら、泣いて怒って、叫んだっていいんだよ!?」

「大人でも……」

 少し悩んでから、恋唯も口を開く。

「辛いと思うことはあります。嫌なことをされたら傷つきます。リリーさんのお母さんも、平気な顔をしていても、心の中では、何も思っていないわけではない……と思いますよ」

「お母さんも……? そうなの……?」

「まだお会いしたこともありませんが……。リリーさんを見ていれば、優しいお母さんなのは分かりますから」

「リリーちゃん、今までずっとそういうことされてたの? その、街の人とか、大人の人はこのこと知らないの?」

 若子の言葉に、恋唯は広場にいた人々の反応を思い返した。

 みんなロッゲンがしていることに気付いていたのに、素知らぬふりをしていたのだ。

「あのね、ヒメカの街は山がブドウ畑になっててね。全部、ロッゲンのおうち……オーマン家が所有してるの。街にはそこで働いてる人も多いから、ロッゲンが何をしてても、大人は何も言わないの……」

「そういうことですか。広場を見張っているというお花屋さんの方も、出て来ませんでしたしね」

 ますますイストと同じだなと、恋唯の中で怒りの感情が芽生えてくる。

 王様の弟だから見逃され、雇用主の息子だからと甘やかされる……。

「お姉ちゃん……」

 リリーの黄緑色の瞳が、涙で揺れている。

「リリー、怒ってもいいの? 平気な顔、しなくてもいいのかな……」

「当たり前ですよ。明日、一緒にロッゲンさんに会いに行きましょうか。面と向かって、ああいったことは二度としないでと、ちゃんと言いましょう」

「言っても、止めないかもしれないよ? あいつ、いつもしつこいもん……」

 リリーが表情を曇らせる。その姿を見て、恋唯は決意した。

「大丈夫。そのときは……私が、どうにかします」

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