【きっと美味しい 01】

「若子さん、今よろしいですか?」

「はい、どうし……リリーちゃん?」

 恋唯に連れてこられたリリーはすでに泣きじゃくっていた。

 膝に怪我をしており、わずかだか血が滲んでいる。

「えっ、どうしたの?」

「アルバン先生に診てもらいましょうと言ったのですが、知られるのが嫌だと言うので……。若子さんのスキルで、治して頂けないかと」

「このくらいなら大丈夫だと思います! リリーちゃん、すぐ治すからねっ」

 ぐずぐずと泣いているリリーを椅子に座らせて、若子は自分の手のひらに水の膜を作ると、怪我をしている膝にそっと押しあてた。

 ここに来てからはちゃんと食事が出来ているので、スキルをコントロール出来ているのが判る。

 痛みが引き始めたのか、リリーも次第に泣き止んだ。

「転んじゃったんですか?」

「いえ……それが」

 話してもいいことなのだろうかと、恋唯がリリーを見ると、リリーは自分から話し出した。

「ロッゲンっていう男の子が、いつも意地悪なことをしてくるの。悪口言ってきたり……今日みたいに石を投げたり……髪ひっぱりする……」

「はあ~!? なんですかその子、許せません!」

「カミルさんやお父さんには、相談しましたか?」

「してない。だって言ったら……なんて言われてるか、言わなくちゃいけなくなるもん……」

「……リリーさんは、もしかして……」

「お母さんとお父さん、再婚なの。お父さんは前に別の女の人と結婚してて、それがカミルお兄ちゃんのお母さん」

 髪も目の色も違う兄妹の関係が明かされて、恋唯と若子はどこか納得した。

「お母さんは薬草学を学んでたから、学校を出てからここの診療所に勤めることになって……その時にはもう、お兄ちゃんのお母さんは亡くなってて、それで再婚することになったんだって」

「そうだったんですか」

 リリーの母親にはまだ会ったことがないが、ひょっとしたらわりと若い方なのかもしれないと恋唯は推測した。

 勤め始めてすぐに結婚したから、アルバンの手が早いという悪い噂でも立ったのだろうか。

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