第二章

【新しい生活 01】

 若子が目を覚ましたのは、明るい光と小鳥の鳴き声に優しく起こされたからだった。

「……え? どこ……?」

 慌てて飛び起きると、寝ていたベッドは地下室のものとは違い、ちゃんとした清潔なシーツがかけられていた。

 枕も嫌な臭いはしないし、服はハンスに貰ったワンピースをそのまま着ている。

 ハンスに言われて陣に入り、光に包まれたところまでは覚えているのだが、そこから先の記憶がない。

「ああ、若子さん、起きました?」

「あっ、恋唯さ……?」

 扉を開けて顔を覗かせたのは恋唯だった。一瞬安堵した若子だったが、戸惑いで目を瞬かせる。

 恋唯の腰に抱きつくようにして、黒髪の小さな女の子がまとわりついていたのだ。

「若子さん、昨日こちらに着いた途端に倒れてしまったんですよ」

 小さな女の子を抱きつかせたまま、恋唯がベッドへと近づいてくる。

「ハンスさんの弟さんによると、疲労の蓄積と栄養失調もあるだろうとのことで、若子さんが元気になるまでは、こちらでお世話になることになりました。食事は出来そうですか?」

「あっ、はい、え、えーと? そこの子は……?」

「リリーさんです。ハンスさんの弟さんの、娘さんです」

 恋唯に抱きついている小さな少女は一瞬顔を上げたが、引っ込み思案なのか恥ずかしがるようにそそくさと顔を隠した。

 確かに若子とは初対面だが、恋唯とも昨日初めて会った筈なのに、この懐きようはなんだろう。

「なんかその、急に、すごく、仲良くなったんです……ね?」

「ええ。今朝髪を梳かしてあげたら、嬉しかったみたいで」

「リリー、どこ行ったんだ~?」

 少し遠くのほうから、男の子の声がする。

「お兄さんが呼んでいますよ」

 恋唯に言われて、リリーが名残惜しそうな顔をしながら、抱きついている手を離した。

「若子さん、すぐに食事の準備をしますから、少し待っていて下さいね。色々説明もしますから」

「あっ、はい、お願いします……?」

 リリーを呼ぶ男の子の声はまだ続いている。あれは先ほどの小さな女の子の兄の声らしい。


 穏やかな朝の光。清潔な空気。和やかな家族の声。

 閉じ込められていた真っ暗な地下室から、恋唯と手を繋いで地下道を歩き、森を抜けてハンスの小屋へと辿り着き、今はここにいる。

 目まぐるしく変わる環境に、若子は助かったという気持ちと、落ち着かない気持ちの両方を抱えていた。

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