「かっ、固い……！」

「スープに浸すと少し柔らかくなります」

「や、やってみます！」

　恋唯が若子に持ってきた食事は、固い黒パンと、柔らかい鶏肉が浮かんだ優しい味のスープ、野菜とジャガイモを卵液で包んで焼いたオムレツだった。

　スープとオムレツは美味しいのだが、どうにもパンが固いのだ。スープに浸して、若子が何とか食べようとする。

「この国のパンって、固いのが一般的なんですかね。恋唯さんが持っていたパンは、どうしてあんなに柔らかかったんですか？」

「ああ、あれは……」

「失礼。もう一人の子、目が覚めたって？」

　ノックの音とともに、男性がドアを開けた。白い服に身を包んだ銀髪のその人が、ハンスの弟の医者なのだろう。

「初めまして。私はアルバン・ベルガー。兄から聞いているとのことですが、この診療所の医者です。よろしく」

「あっ、初めまして……！　その、色々ありがとうございます！」

「食べられるようなら、食事はそのまま続けて下さい。慌ただしくて申し訳ありませんが、少しだけ質問に答えて下さいね」

「あっ、はい！」

　口の中でパンをもごもごと動かしながら、若子は必死に飲み込んだ。恋唯がすかさず水の入った木のコップを手渡してくれる。

　無骨なハンスに対して、弟のアルバンは物腰も穏やかで、優しそうな人だった。

「コイさんから聞いた限りでは、歩くことは出来たとのことでしたが、しばらく無理は禁物です。なるべく沢山食べて沢山寝て、徐々に運動して下さい……と言いたいところですが、食文化に違いがあるようですし、すみませんがしばらくは出されたもので我慢して頂ければと」

「そ、そんな。食べ物があるだけありがたいのでっ」

　さきほどパンが固いと言っていたのが聞こえてしまったのだろうかと、若子は恥ずかしくなって縮こまる。

「一応寝ている間に体を診させて頂きましたが、目立った外傷はないようでした。回復スキルをお持ちだとか？」

「あ、はい。擦り傷を治せる程度のものですけど……」

「なるほど。頭痛がするとか、目眩とかは？」

「今はないです。あ、そうだ、恋唯さんは大丈夫だったんですか？」

「え？」

　突然自分に質問が飛んできたので、アルバンの後ろで若子を見守っていた恋唯が驚く。

「私が……どうしました？」

「怪我とか体調不良とか、ないのかなって。恋唯さん、ここに召喚されたばかりですし」

「ああ、いえ……私は特に、何も。むしろ胃の不調が治ったくらいで……。森に出る前に、若子さんのお水を飲ませてもらったからかもしれませんね」

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