【守ってあげたい 05】
「二人とも、よくイスト様から逃げることが出来たな。鍵はどうやって手に入れたんだ」
「それは、恋唯さんが。そう言えばどうやったんですか?」
「あの方は最初から私に対して油断していましたから、隙を突いただけですよ。私に鍵を取られたことも、気付いていないと思います。でも、この鍵どうしましょうか」
まだ持っていた鍵の束をテーブルの上に置く。ハンスが身を乗り出した。
「俺が預かって、元の場所に戻そう。神官に託してもいい」
「神官さんにですか? 私を地下まで先導したのは顔がそっくりの二人組です。恐らく双子だと思うのですが。あの人たちに渡してしまっては、騒ぎになるのでは?」
「ああ、双子の神官か。あの二人は……あの二人も、好きでイスト様や王に従っているわけじゃねえんだ。どれ、証拠を見せてやる」
「え?」
ハンスが立ち上がったので、二人も着いていく。ハンスが開けた扉の奥は、どうやら物置に使われているらしい。
「これが何か分かるか?」
「……? 何ですか?」
ハンスの足元、床には太陽の模様が描かれている。若子は不思議そうに首を傾げただけだったが、恋唯には見覚えがあった。何せ今日、目にしたばかりだ。
「お城にあった模様と似ていますね。召喚されたときに、足元にあった気がします」
「えっ、そうなんですか!? おじさん、召喚スキルも持ってるってことですか!?」
「違う違う。お嬢ちゃん、悪いが落ち着いてくれ」
希望を見出してはしゃぐ若子に、ハンスが申し訳なさそうに言う。
「これはあの双子の神官の片方が、スキルでここに残していったんだ。俺は二人と協力して、かろうじて生きていたハズレ異世界人を、ここから逃がしてたんだよ」
「ええっ!?」
「元の世界に帰った人はいないと聞きましたが……」
「ああ……。申し訳ないが、行き先はあんたたちがいた世界じゃない」
恋唯の冷静な質問に、若子も唇を閉ざした。
「あんたたちをここに喚んだ召喚陣は、双子神官の父親である、神官長の先天スキルによるものだ。恐らく二人が喚ばれた場にも、年老いた神官が一人居たはずだ」
「そう言えば、ご老人がいたような」
「あの方のスキルは強力で、異なる世界を繋げるほどの力がある。だが、双子神官が持っているのは『鑑定』と『移動』のスキルでな」
「移動ですか。召喚ではなく」
「ああ。『鑑定』は分かるか? 神官の片方に、付与スキルを鑑定されただろう。双子のもう片方が持っている先天スキルが『移動』だ。この陣を用いて行う」
若子がまじまじと床に描かれた模様を見つめている。
すでに話についていけなくなっているのか、難しそうな表情だ。
「この陣が繋がる先は、王都から少し離れたヒメカという街でな。ブドウの栽培が盛んな穏やかな街で、俺の弟がそこで診療所を開いている。まだ息があるハズレ異世界人がいた場合、俺は弟に彼女たちの治療を頼んでたんだ」
「そ、それで助かった人もいるってことです、よね?」
恐る恐る若子が聞くが、ハンスは首を横に振った。
「いや、大抵は手遅れだった。治療しても間に合わなかったと、何度か手紙を貰ったよ」
「……私たちも、弟さんのお世話になればいいのでしょうか?」
「ああ。その服だけじゃなく、他にも持って行きな。自分の足で歩いて陣に入れそうな異世界人は初めてだ。勝手な願いで申し訳ないが……」
ハンスが呼吸を整える。恋唯と若子を見つめて、しっかりとした口調で言った。
「あんたたちにはどうか、生き延びてほしい」
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