【守ってあげたい 04】
「……この国の王族は、どこか異常性を抱えていることが多かった。まともな方もいらっしゃったが、今はもう……」
狂人の為に犠牲となった若者たちの姿を思い浮かべながら、ハンスは続ける。
「国民の意見など何も聞かない独裁者もいれば、結婚を繰り返しては妻を次々と殺していく王もいた。長い歴史から見れば、今の王はまだまともなほうだ。だが、王もイスト様と同じく、幼い頃からの性質を、抑えきれずにいる」
「性質……どんなことですか?」
恋唯が不思議そうに聞く。
「モンスター退治の旅に出たかったのは、本当は王なんだよ。王は若い頃から狩りが好きで、風を操る先天スキルを持っていた。放った弓矢がどこまでも獲物を追いかけてな。あれは確かにすごいスキルだが、己の力を過信して、アッフェの集落に自分から突撃して行くのには参った」
「アッフェ……?」
聞き慣れない単語に、恋唯と若子は目を合せた。
「巨大な猿のモンスターだ。銀色の毛並みを持ち、知能が高く、執念深い。この国は近年、アッフェを中心としたモンスターによる家畜や農作物の被害を受けている」
「それを退治するために、強力なスキルを持つ異世界人が必要なんですね」
「ああ。現在の王は、元々王位を継ぐ筈ではなかったからな。本来ならば姉君であった王女が……。いや、この話まですると、長くなるな」
ハンスはどこか懐かしいような目をして、話を切り上げた。
「王は王位継承の試練という建前で、幼い頃に描いた自分の姿を、息子に実現させているんだ。ひょっとしたら、別の理由もあるかもしれないが……」
「め、めちゃくちゃでは?」
「めちゃくちゃな国なんだよ、フェードゥンは」
苦笑いを浮かべて、ハンスが回顧する。
「俺には妻と娘がいたが、二人とも先に死んじまった。イスト様の元に若い女性の異世界人が連れて行かれる度に胸が痛んだよ。いずれ彼女たちの死体を、俺が回収して、この炎で焼くことになるんだってな……」
「娘さん、亡くなっていたんですね」
若子はいま自分が着ているワンピースに目を落とし、すでに亡くなった人の服を借りているのだと気付いて、申し訳なくなった。
「ハズレ認定された人の中には、男性もいたはずでは?」
「そうだな。男も女も、全員俺が焼いた。もう疲れたよ」
だから、突然恋唯がこの小屋にやって来たときは驚いたらしい。そして助ける決心をしたのだ。
「今さら、勝手な願いだが……俺は生まれ持ったこのスキルで、死体を焼くより、パンやスープを温める生活を送りたい。今までさんざん加担しておいて、虫のいい願いだってことは、分かっているんだが……」
ハンスの苦しみが募った声音に、若子も恋唯も、口を挟めなかった。
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