【守ってあげたい 02】

 戻って来ると言ったとおり、恋唯はちゃんと戻って来た。しかも、男連れで。

「だ、誰ですか!?」

「大丈夫です、若子さん。この方はハンスさん。助けてもらえることになってます」

「お嬢ちゃん、静かに。今すぐ俺の小屋まで移動するぞ。ほら、靴も持ってきたから」

 見知らぬ男性が若子の足元に置いたのは、柔らかい革で作られた靴だった。

 若子の足には少し大きかったが、恋唯に手伝ってもらいながらなんとか履いて、導かれるまま鬱蒼とした森を歩く。

「わりと近いところに、この方がお住まいの小屋があったんですよ。若子さんのこともご存じだったそうです」

「え、そうなんですか?」

「詳しい話は家の中で話そう。万が一ってことがあるから、あまり喋らないでくれ」

「ああ、そうですね。すみません」

 先頭を行く男性の手持ちの灯りが揺れている。

 若子は地下道と同じく恋唯と手を繋いでいたが、あの男性も緊張状態に置かれていることを何となく察した。

 彼にとって自分たちを助けることは、勇気の要る行為だったのだ。


 小屋の中には暖炉があり、男性は湯も沸かしてくれた。

 若子は桶に溜まったお湯に汚れた足を入れて、ようやく一息ついた。

 恋唯と男性はずっと話し続けており、若子はその会話を気にしながら、一体何から聞けば良いのか迷っていた。

「あ、あの。恋唯さん」

「ああ、すみません。足に怪我はありませんか?」

「擦り傷くらいなので、これならあたしのスキルで治せます。それで、その」

「そうでした。着替えですよね。どうしましょう」

 まだ毛布に青いジャケットという格好で座っている若子を見て、恋唯が男性に目線を送る。

 男は申し訳なさそうに、若子から目を逸らした。

「娘の部屋にある服を好きに着てもらって構わない。あんたも着替えた方がいい。そのままでは目立つ」

「私もですか? じゃあお言葉に甘えて。若子さん、立てますか?」

「え、はい」

 聞きたかったのは着替えのことではないのだが、恋唯が階段を上がっていくので、若子も慌ててそれについていく。

「一気に事態が好転しましたね。良かったです」

「恋唯さん、あの人は誰なんですか……?」

「若子さんは一度ハンスさんに会ってるみたいですよ。イストさんが世話をしたハズレ異世界人が亡くなると、あの方が片付けることになっているそうですから」

「えっ、あっ!」

 では、同じ部屋にいた女の子の遺体を運び出したのはあの人だったのか。

 あの日はいつか自分もこうなるのかと恐慌状態で、やって来た人の顔なんてとても覚えていなかったから、気付かなかった。

「じゃ、じゃあ、あたしたちのこと、お城の人たちに伝えるつもりなんじゃ……!?」

「どうでしょう。あの人も結構な覚悟で私たちを助けるって決めてくれたみたいですけど。着替えたら聞いてみましょうか?」

「どうしてそんなに冷静なんですかぁ~!」

「そんなに心配しなくても、あの人は信用しても大丈夫だと思いますよ。あまり美味しくなさそうですし……」

「え? どういう意味ですか?」

 若子がその問いかけの答えを得る前に、恋唯が扉を開けた。その中に広がっていた光景に、若子は急に胸が締め付けられた。

 木で作られたベッドにチェスト、テーブルには一輪の花が飾られている。

 豪華な作りではないが、どこか温かさを感じる内装で、今まで若子が閉じ込められていた地下室とはまるで違う。

 これは家族にちゃんと大切にされていた、誰かの為の部屋だった。

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