【守ってあげたい 01】

 涙を零す若子を、恋唯はじっと見つめていた。

 今まで地下にいたからあまり見えなかったが、今は月明かりに照らされて、若子の顔がよく見えるようになった。

 25歳の恋唯よりももっと若い、恐らくはまだ十代なのだろう。顔立ちはもちろん、言葉も仕草もどこか幼い。

 それなのに突然異世界に連れて来られて、長い間地下のあの部屋で、酷い扱いを受けていた筈だ。

「落ち着いて、若子さん」

 恋唯は若子の溢れる涙を指で拭ってやり、安心させるように抱き締める。

「絶対に戻ります。無闇に歩き回って二人で共倒れになってしまうより、私が一人で周囲の様子を見に行ったほうが絶対にいいですから」

「ええ……やだぁ~……」

「ふふ、若子さんお幾つですか?」

「じゅうななです……」

「あら」

「恋唯さんは……?」

「25歳ですよ。私のほうが断然お姉さんですね。お姉さんの言うこと、聞いて下さい?」

 優しく宥めると、腕の中で若子が身じろぎして、恋唯の目を見上げてくる。

「……絶対、絶対、戻って来て下さいね……?」

「ええ。しばらくは大丈夫だと思いますが、若子さんも、万が一誰か追って来たら大きな声を出して下さい。すぐに戻りますから」

「はい……」

 恋唯がそっと体を離す。自分を包み込んでいたぬくもりがなくなって、若子はまた寂しくなった。

「さっきから頼ってばかりで、ごめんなさい……」

 申し訳なさそうに若子が俯く。恋唯は目を細めた。

「……お水、飲めるやつなんですよね?」

「え?」

「流石に喉が乾きました。飲ませて頂いてもいいですか?」

「は、はい。どうぞ」

 若子は慌てて両手をくっつけると、器のようにしてそこに水を溜めた。

「恋唯さんも、手を出してもらっても……」

 恋唯にも同じように手を合わせてもらって、そこに水を移そうと若子は考えたのだ。

 しかし恋唯は前髪を耳にかけると、身を屈めた。若子の手のひらに溜まった水を、直接飲む。

「えっ」

「……ん、ふふっ。生き返ります」

 ちらっと見えた赤い舌に、若子は妙にドギマギした。

「助かりました。じゃあ、行ってきますね」

「は、はい」

 口元を指で拭い、何事もなかったかのように、恋唯が夜の森へと入っていく。

 若子は手のひらに水を溜めたまま、しばらく呆然とそれを見送っていた。


 足裏の冷たさを忘れてしまうほど、いま、顔が熱い。

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