第3話 叡智の書防衛作戦

北島攻略作戦から二日後、俺は悩んでいた。


このままでは計画の遂行に支障をきたす、やばい。


その悩みの種が芽生えたのは今日、学校の放課後に――





『――――フフッ、順調より順調w。明日くらいに河合に接触してみようか』


「―――私がどうかした?秋山くん」


『ウッヒェッ!?お、お前は河合?!』


「あははっ、そんなにびっくりしなくてもいいじゃんか!同僚でしょう?」


河合綾瀬、今回のターゲットのうちの一人、元学年順位は6位、俺は4位。


てか、あーびっくりした。今年一のびっくり、てかめちゃいい匂いするな。


計画のことばれてないだろうな?てかめっちゃいい匂いするな。


『学級委員で一緒のこと同僚って言うなよ、てかめちゃくちゃいい匂いするなお前』


「・・・・・・へ?どした?」


おっと思いが溢れ出てしまった、言霊ってやつか。


『んやなんでもない。それで?何か用事か?』


「そうそう!実は秋山くんにお願いがあって・・・」


『お願い?いや悪いけど断r・・・』


「実は!秋山くんと一緒に勉強会をしたいの!」


『・・・・・・いや、悪いけd』


「秋山くんってさ、試験のポイントとか出そうなところ、いつも手帳にメモしてるでしょう?あれを参考にさせてもらいたくて・・・」


な、なぜそれを知られている!?あれは秋山極秘情報一級の事柄のはずだ、


『え、えーと、ほう。えと、なんで?』


「うん実はね、女子で、赤点取りそうー!って私に頼ってきた娘がいてね。何とか力になってあげたいんだけど私ひとりじゃ力不足で・・・、秋山くんの手帳を参考にして教えてあげたらその娘も助かるんじゃないかな、って思って」


なるほどな、気持ちはわかるが、一つ分からないことがある。


『それで、なんで勉強会なんだ?その娘に直接見せれば・・・』


「いやいや、君だってその手帳で勉強するでしょう?そんな迷惑はかけられないよ。私が見せてもらって、覚えて帰るから」


『うーん、いやでもなぁ』


これだと河合攻略の作戦が使えなくなってしまう。どうしたもんか・・・


「もちろんお礼はするよ!私にできることならなんでも!」


え、なんでも?なんでもってなんでもってことか?


『・・・・・・分かった、じゃあ明日持ってくる』


「本当!?ありがとう秋山くん!じゃあ明日、よろしくね!」




回想終了。


やばい。かなりやばい。


まず手帳の件が非常にまずい。俺の持つ、神羅万象試験対策用手帳「叡智の書」は、今回の試験だけではなく担当教師の過去問からある程度の問題予測も書いてある。


それすなわち、この内容を知られてしまったら俺のこの試験でのアドバンテージのほとんどが失われてしまうのだ。


――――仕方ない、作戦変更だ。


なんとか河合を説得し叡智の書を守り抜く、名付けて「叡智の書防衛作戦」!


・・・一応失敗したときの保険も用意しておこう、怖いわ。





「秋山くん!図書室で待ってるね!!」


適当に返事をして俺は準備を進める。


「ほーう秋山ー、クラスのマドンナと勉強会かー?青春野郎めー!」


『そんないいもんじゃねえよ、じゃあな』


親友たちの的外れな嫉妬にすこし腹が立つが、まあいい。


――さあ、作戦開始だ。


【叡智の書防衛作戦開始!自然な会話で河合を説得しろ!】


『悪い、遅くなった。じゃあ始めるか』


「うん、そだね!じゃあさっそく見せてほしいんだけど、」


『その前に、昨日言った何でもいう事聞く、てやつ覚えてるよな?』


「もちろん!あ、言っておくけど倫理的にアウトなのはなしだよ?」


『やらんわ!そういうのじゃないから安心してくれ。実は・・・もし手帳を見ても、笑わないでほしいんだ』


「えっと・・・どういうこと?」


『――――実は俺、この手帳にポエム書いてるんだ』


「・・・・・・どういうこと」


『授業や部活などの青春を通して思ったことをその場で書き込んでいるんだ。人生の一分一秒、どれももう絶対に戻れないかけがえのないものだ、それを詩という形で描くことは非常に面白くかけがえn・・・』


「ストップストップ!わかったから!き、気持ちは伝わったよ、なんというか、意外だね!」


『ああ、だから正直に言うとあまり人には見せたくない。・・・今からでも、この話無かったことにできないか?』


「うーん、でも私も・・・じゃなかった、友達の娘もそれを必要としてるんだ。ポエムのことは約束通り誰にも言わないし、それに私ポエムって興味あるな!」


『・・・・・・ほう、分かった。手帳は貸す』


「ほんと!?じゃあ、」


『ただし、今の気持ちを詩にしてみろ。それに俺が納得したら貸すよ』


「・・・・・・は?」


『――ん?できないの?なら・・・』


「ッ!分かった!分かったから!え、えーと・・・」


夕陽が私の頬を照らす、ポカポカするのは誰のせい?

夕陽のせいと、君のせいと、両頬ポカポカあったかいな

うれしいな うれしいな 手帳が見れるとうれしいな

 河合綾瀬


『ブフッ‼う、うん良い、とても良いポエムだった!感動した!』


「~~~~~ッ‼‼」


まあ、ここまでか・・・


『じゃあ、約束通り手帳をどうぞ。あと俺はもう大体覚えてるから持って帰ってもらって大丈夫だから』


「えっ・・・あ、うん、ありがと」


『じゃあ、俺帰るから。また学校で、じゃあ』


「あ、うん・・・またね」


【作戦終了】




「ふ、ふふっ・・・ま、まあ何はともあれ手帳は貸してもらえたし、あの娘の件も、ついでに私の試験勉強も解決かなー!秋山くんには悪いけど私も推薦枠取りたいし、あとはこの手帳にないとこだけ復習して・・・ッッ」


ふとさっきのことを思い出してしまった、恥ずすぎる・・・


素面であんなポエミーなことを自分が言うとは、しかも即座に。


「これじゃ本当に私がポエマーだと思われたかも・・・あれ、最悪じゃん」


あそうだ、秋山くんが書いてたっていうポエム読んでみよう。


なんぞ恥ずかしいことでも書いてあれば少しは気もまぎれ・・・


「――――はあッ!?」




とでもあの女は考えているのだろう。


『フーー-ハッハッハッ!!甘すぎー-る!ばかめ!!』


全て計算済みよ!脳汁が止まらないぜ・・・


河合に渡した手帳、あれは昨夜徹夜で作った「偽・叡智の書」だ。


全ての試験範囲を網羅している叡智の書とは違い、偽は落第しそうな生徒がギリギリ平均点をとれそうなくらいの網羅度だ。


これで件の落第生徒は何とかなるだろうが、河合程の生徒にとってはほとんど意味がない物だろう。


そして・・・もちろんポエムなど書いてはない、恥ずいし


これで河合のメンタルは破壊した、実力の半分ほどしか出せないだろう。


ふっ・・・河合綾瀬、攻略成功だな。

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